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主人公の家族愛は変化するのか? 目が離せないヒューマンサスペンス/金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』

小森洸人ひろとは、自閉スペクトラム症の弟との凪のような暮らしを第一に考えて生きている。ところが、静かに堅実に生きる彼らの前に、ある日「ライオン」と名乗る少年が現われ、嵐のような日々がはじまる。

洸人を演じるのは柳楽優弥さん、弟・美路人みちと(みっくん)を演じるのは坂東龍汰さん。初回のラストには新たなキャストが発覚し、さらに期待が高まっている。

(以下、ドラマの内容を含みます)

自閉スペクトラム症で、イレギュラーなことが起こるとコミュニケーションがうまく取れなくなるみっくん。芸術的な才能が突出しており、今はデザイン会社で働いている。しかし、謎の男の子・ライオンによってルーティーンを崩され、大パニックに陥る。弟を必死になだめる洸人は、過去にも同じようなことがあったことを思い出し、心が折れそうになる。

これはどちらの目線でもつらい。例えば、自分が洸人の立場だったらどうだろう。おそらく彼は子どもの頃から弟中心の家で、さまざまなことと折り合いをつけて生きてきたと推測できる。弟を大切に思っているのは間違いないけれど、そのぶん自分をどこかおざなりに、置いてけぼりにしたように見える。弟を守るためだけに生きてきた兄。静かに暮らすことを念頭に地元で公務員となり、定時にはみっくんの職場に迎えに行く。自分の職場と弟の職場、そしてふたりで暮らす家。3つの場所を行ったり来たりする変わらない日々は、洸人にとって一番の幸せであり、安心であり、生きる術なのだ。そんな生き方をしてきたから、「違う景色」を見たいなんて考えたことがなかったのかもしれない。

兄弟の前に突然現われた男の子は、「ここに居れば安心」と口にする。彼がカレーにマヨネーズをかけて食べるのを見て、洸人は母親の違う姉・愛生あおいのことを思い出す。突然居なくなって以来、行方が分からない愛生。それは、彼女が洸人を誘って自転車で遠出した直後のことだった。姉はどうして彼を誘って出かけたのか。みっくんとの暮らしで、洸人本人が気づかずにいる「気持ちに蓋をするクセ」に気づいてやれたのは、彼女だったのではないだろうか。遠くへ行こうと誘う愛生。洸人が断ると、「じゃあ、後はよろしく」と言って本当に居なくなってしまった。

みっくんは、敏感なぶん洞察力に長けている。ライオンを家族の元へ帰すことが最善だと話す洸人に、「そこは安全か?」と何度も繰り返し尋ねて幼い少年を心配する。彼にとって、ライオンはなかなか受け入れられないイレギュラーな存在なのに。

同時進行のもう一つの舞台・山梨では、ある男性が妻と幼い子どもの捜索願を出している。今回の向井さんは、悪い理? いい理? ライオンの体のアザ、山梨で捜索を担当する刑事(柿澤さん!)、刑事の周りをウロウロする雑誌記者(涼子さま転生)など、気になることは山ほどある。そして大人になった愛生。今はバラバラだが、点と点が結びつき、やがてひとつの線として浮かび上がるはずだ。そのとき家族はどうなるのか。ライオンと出会ったことで「違う景色」を見たくなった洸人は、みっくんの手を取ったまま嵐の中をくぐり抜けられるのか。

初回から、兄弟役のふたりの演技に引き込まれた。真面目でやさしい洸人の心にも、澱のようなものがある。そう思わせる柳楽くんの演技はさすがだ。みっくん役の坂東くんは、今回自閉スペクトラム症の監修を担当する伊庭葉子さんが代表を務める「さくらんぼ教室」に通い、生徒たちと親交を深めてきたそうだ(ネット記事より)。特性を持った人物を演じるのはプレッシャーを感じるだろうし覚悟も必要だろうが、彼の表現力は圧倒的。

またライオンを演じる佐藤大空(←これで“たすく”と読むの!?ひぃーーー)くんの自然な演技には、きゅんとさせられる。すでに亡くなっている小森兄弟の母役は、最近役柄でお母さん尽いている坂井真紀さん。どうか、空からしっかり兄弟を見守ってほしい。

洸人、みっくん、ライオンが幸せに暮らす未来と、さまざまな困難を抱えて身動きが取れない未来、どちらも思い浮かべてドキドキしている。そんなわけで次回の視聴も決定。


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