宇宙とコミュニタリアニズムと個人の話
我々の住む宇宙には星や銀河などが数多く存在します。これらがどの様に作られたのかを宇宙論的に理解するためには「階層的構造形成」というシナリオを考える必要があります。
まず、入れ物である「宇宙」がどの様なものであるかを規定するために、フリードマン方程式を考えます。フリードマン方程式は一般相対性理論の中核を担う「アインシュタイン方程式」で「一様等方宇宙モデル」を考えることによって得られる方程式のことであり、次の形で与えられます。
$$
\begin{aligned}
& \left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2+\frac{k c^2}{a^2}-\frac{\Lambda c^2}{3}=\frac{8 \pi G}{3} \rho \\
& 2 \frac{\ddot{a}}{a}+\left(\frac{\dot{a}}{a}\right)^2+\frac{k c^2}{a^2}-\Lambda c^2=-\frac{8 \pi G}{c^2} P
\end{aligned}
$$
式の意味は難しいので説明は割愛しますが、この方程式の大事なことは、一様等方な時空を記述する方程式であるということです。「一様等方」とは簡単に言ってしまうと、「宇宙には特別な場所がなく、どこも同じ」という意味です。
そうすると、次のような疑問が思い浮かびます。
「宇宙に特別な場所が無いと言うけど、我々の住む地球や太陽系は「特別」なのでは?」
その通りです。実は「一様等方宇宙」だけでは、現在の宇宙を説明することができません。現在に至る宇宙の進化を説明するためには、「一様等方宇宙」に加えて、「摂動」を考える必要があります。摂動は「揺らぎ」とも呼ばれます。例えば、「室内の温度が22度」という部屋を考えます。このとき、部屋のいたるところで温度は22度でしょうか?おそらく違うはずです。場所によっては22.5℃や21.5℃となっているはずです。この様なズレを「揺らぎ」と表現します。
さて、一様等方宇宙では特別な場所が無いので、揺らぎは存在しません。しかし、宇宙の始まりに起きた急激な宇宙膨張である「インフレーション」時に、「揺らぎの種」が宇宙に組み込まれたと考えられています。この場合の「揺らぎ」とは「密度の揺らぎ」です。ある場所では物質の密度が大きかったり、逆に別の場所では物質の密度が小さかったりするのです。現在の宇宙マイクロ波背景放射の観測では、この揺らぎの大きさは約10万分の1程度だったと考えられています。例えば、海の深さは一番深いマリアナ海溝で1万メートルと言われているので、この深さの海の海面上で10cm程度の小さな波が作られるくらい小さな揺らぎです。
この程度の小さな密度揺らぎが重力的に成長すると、揺らぎが増幅されます。すると密度の濃い部分にはますます物質が集まって来ます。すると、ますます密度が大きくなって物質が集まって・・・この様に、小さな揺らぎが成長することで物質がどんどん集まることで、やがては大きな構造へと成長していくというのが「階層的構造形成」と呼ばれるシナリオです。小さな構造から始まって、銀河や銀河団の様な大きな構造が宇宙に作られます。
この様に、宇宙での構造進化を考える際には、まずは一様等方宇宙モデルで入れ物としての宇宙を記述し、その後に、その宇宙の中で生じる「揺らぎ」を考える事により、星や銀河が作られるのです。
ここでいきなり政治哲学の話になるのですが、政治哲学では「コミュニタリアニズム」という考え方があります。この考え方は、『これからの正義の話をしよう』でもおなじみのマイケル・サンデルらが有名な論客です。コミュニタリアニズムとは、「自己のアイデンティティーを構成する要因として、特定のコミュニティー、例えば国家や民族の成員としての帰属意識を持つ」というものです。つまり、自分という存在を考える際に基盤となる土台があるのです。
(ちなみに以前、コミュニタリアニズムの観点からアファーマティブ・アクションをどう考えるかについてのサンデルの著書の議論をこちらにまとめましたので、よろしければ御覧ください。)
「自分の存在を考える際に土台となるコミュニティーがある」という考えを聞いて、宇宙論での階層的構造形成に似ているものがあるなと感じました。例えば、星や銀河は色々な種類があって個性豊かですよね?その個性豊かな背景のベースには一様等方宇宙があるという考え方はコミュニタリアニズムと通じるものがあるのでは?と感じたのです。
もちろん、政治哲学的な話と科学の話なので全く別物ですし、一様等方宇宙を「コミュニティー」と言っていまうと、「何言っているんだ?」と思う人もいると思います。しかし、土台となるコミュニティーや宇宙モデルがあるという点では、星や銀河、そして私達個人も似た様なところがあると思うと、人間と宇宙にも共通点があるとも感じてしまうのです。
以上、ある休日の昼下がりに思った戯言でした。
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