云南きのこ老師

中国の云南大学で大学教員をやっています。専門は天文学、特に観測的宇宙論。 キーワード:…

云南きのこ老師

中国の云南大学で大学教員をやっています。専門は天文学、特に観測的宇宙論。 キーワード:宇宙再電離、21cm線、SKA、暗黒物質、機械学習。 一般向けにオンラインで天文学講座やっています。 https://online-astronomy.peatix.com/

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    特にテーマは決まっていないが、徒然なるままに雑感を書いていく。

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    天文学に関連した内容を紹介していくマガジンです。内容は一般向けから、大学院生向けまで。

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    Diracの"General theory of relativity"を読んでノートを作っていく。

最近の記事

夏の思い出2024

7月から8月にかけて夏休みで日本に帰っていました。東京で研究会に参加したり、人に会った後に沖縄に帰りました。ちなみに、沖縄の気温は30度ちょっと越えたくらいですが、湿度が80−90%あり、ものすごくジメジメしていました。そんな中で、家の冷房が故障していたため、扇風機で凌いでいましたが、とても寝苦しい夜が続きました(笑)。改めて、夏に冷房がいらない昆明の気候の快適さをありがたく感じました。 さて、今回の沖縄帰省中に高校の同窓会に参加し、さらに中学の同級生とも会っていました。高

    • 「その研究は何の役に立つのか?」2024

      またしても、SNSで「役に立たない研究」という言葉が目に入った。この手の話題は繰り返されるものである。 実際、2022年の段階で以下の記事にて自分の考えをまとめていた。 しかし、今回は別の角度から「その研究は役に立つのか?」という問いを考え直してみたいと思う。 そもそも、「その研究は何の役に立つのか?」という問いは、「税金を投入してまで、その研究をやる意義はあるのか?」という考えが背景にあると思う。「自分の払っている税金が意味ある使い方をされてほしいが、一見、役に立たな

      • 問題を見つける前に必要なこと

        研究者にとって大事なことは何だろう? おそらく、研究者「以外」の方にとっては、「問題を解くこと」と思うかもしれない。確かに、それも大事だ。問題を解決した先に発展が待っている。 しかし、ちょっと待ってほしい。その問題はどこから出てきた? 日本の高校入試、大学入試では解くべき問題が与えられているので、あとはそれを解けば良い。問題の解き方は教科書や参考書に載っているので、あとはその解き方を暗記したり理解して、問題を解ける様に訓練する。 だが、研究の世界ではそもそも「問題を設

        • 中性子星のやばい性質

          先日、大学の授業(『現代天文学入門』)で「中性子星」について取り扱いました。 星の質量が太陽の約8倍よりも重い場合、超新星爆発を経て最終的に超新星残骸の中心に中性子星ができると考えられています。星が超新星爆発を起こして、最終的に中性子星へと至る過程は、星の中で起きる核融合反応、元素合成とも関係するので面白いのですが、その辺りの話はまた別の機会にするとして、中性子星というのは中々に「やばい」天体です。いかにやばいのかこれから紹介していこうと思います。 •大きさがやばい「星の

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          『現代天文学入門』中間試験2024

          今年も学部生の教養科目向けに『現代天文学入門』の講義を開講しており、中間試験を実施しました。ちなみに、2023年の中間試験の問題はこちら。 そして、2024年の試験問題はこちらです。 第一問は、「天文学は2000年以上の長い歴史を持っているけど、特に近年の天文学の発展は目覚ましいのは何故か?過去の天文学の歴史と比較して議論せよ」という問題です。近代科学の始まり、その後の科学技術水準の向上、国家として天文学にお金を費やすことができるようになった、人々の宇宙への関心の向上など

          『現代天文学入門』中間試験2024

          宇宙とコミュニタリアニズムと個人の話

          我々の住む宇宙には星や銀河などが数多く存在します。これらがどの様に作られたのかを宇宙論的に理解するためには「階層的構造形成」というシナリオを考える必要があります。 まず、入れ物である「宇宙」がどの様なものであるかを規定するために、フリードマン方程式を考えます。フリードマン方程式は一般相対性理論の中核を担う「アインシュタイン方程式」で「一様等方宇宙モデル」を考えることによって得られる方程式のことであり、次の形で与えられます。 $$ \begin{aligned} & \le

          宇宙とコミュニタリアニズムと個人の話

          「宇宙空間に位置エネルギーは存在するのか?」

          以前、影響力の有名人が「位置エネルギーは存在しない」と発言して、物理学者の方々から総ツッコミを受けるという話がありました。 「宇宙空間には位置エネルギーが存在するのか」という問いに答えるためには、まず「位置エネルギー」が何かを明確にする必要があります。 「位置エネルギー」とは、物体の位置や状態によって決まるエネルギーの一種です。重力場における位置エネルギー、クーロン力が作る位置エネルギー、弾性エネルギーなどが代表的な例です。これらのエネルギーは、物体の位置や状態が変化する

          「宇宙空間に位置エネルギーは存在するのか?」

          お便り「宇宙に関する情報や発見の中で、到達するのに特に大きな革新や挑戦が必要だったのは、どのようなものですか?」

          個人的には地動説の確立を推したいです。 古代ギリシャ時代から16世紀まで、天動説と呼ばれる宇宙観が主流でした。これは、地球が宇宙の中心であり、太陽や惑星が地球の周りを回っているという考え方です。しかし、ポーランドの天文学者ニコラウス・コペルニクスは、地動説を提唱し、天文学に革命をもたらしました。 コペルニクスは、太陽が宇宙の中心であり、地球を含む惑星が太陽の周りを回っているという地動説を唱えました。これは、当時としては非常に大胆な考えであり、あまり相手にされませんでした。

          お便り「宇宙に関する情報や発見の中で、到達するのに特に大きな革新や挑戦が必要だったのは、どのようなものですか?」

          宇宙論で誤解されがちなこと

          私の専門は宇宙論、特に観測的宇宙論です。宇宙論は宇宙の起源や進化、構造、さらには宇宙の終焉などを探求する科学分野です。壮大な世界を取り扱うからこそ、一般の人に興味をもってもらいやすい一方で、誤解をもたれやすい分野でもあります。そこで、いくつか誤解されがちな内容を取り上げていきたいと思います。 1. 宇宙は「ビッグバン」という『爆発』によって誕生した。 私達の住む宇宙は現在、膨張を続けています。ということは時間を遡っていくと宇宙はどんどん小さくなっていき、ある瞬間には宇宙の

          宇宙論で誤解されがちなこと

          「科学で説明のつかないことはあるのか?」

          「科学で説明のつかないことはあるのか?」という質問をもらったので、これについて考えてみましょう。 「科学で説明がつかないこと」を考える前に、そもそも「科学とは何か?」について考えるところから始めた方が良さそうです。 科学とは、理論があり、それを検証する実験の両輪があることで成り立ちます。具体的には、科学では以下のアプローチが取られます。 1・帰納的アプローチ 帰納的アプローチでは、具体的な例から法則を発見する方法です。例えば、惑星の運動を理解するに辺り、ヨハネス・ケプ

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          「科学で説明のつかないことはあるのか?」

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          「宇宙にある何かを好きなところから好きな手段で計測し正確な結果を得られる機会を神から一回だけ与えられたら何をどこからどのように計測したいですか?」

          とてもシンプルで、かつそこまで面白くない回答かもしれませんが、「宇宙に存在する星の距離」を一つ一つ測定してみたいです。例えば、我々にとって最も近い恒星は「太陽」ですが、太陽までの距離は約1億5千万㎞です。 太陽と地球の距離が分かると、「年周視差」と呼ばれる方法を使って、およそ1000光年程度くらいまでの星の距離を測定することができます。年周視差を用いた距離測定に関しては、以前、記事を書いたのでそちらを参考にしてもらえればと思います(*1)。 しかし、宇宙の広さを考えると、

          「宇宙にある何かを好きなところから好きな手段で計測し正確な結果を得られる機会を神から一回だけ与えられたら何をどこからどのように計測したいですか?」

          自分の論文を分かりやすく解説してみる

          今回は自分の論文を可能な限り分かりやすく解説してみる試みです。 私が最近発表した論文は、2023年にPhysical Review Dから出版された"Impact of dark matter-baryon relative velocity on the 21-cm forest"です。 現在の宇宙には「電磁波は放射しないけど、重力的な相互作用をする」暗黒物質が存在しています。暗黒物質は銀河の回転曲線の観測を説明したり、現在の宇宙の構造形成を説明する上でも重要な物質なの

          自分の論文を分かりやすく解説してみる

          宇宙の加速膨張でエネルギー保存則が破れている!?

          「宇宙の加速膨張で、宇宙の質量は増えますか?」という質問をいただきました。この質問について考えていきましょう。 現代では超新星の観測や宇宙マイクロ波背景放射による観測から、宇宙は加速膨張しているということが示唆されています。これは宇宙論研究者のみならず、物理学を少し勉強したことのある人にとっては驚きの結果です。一般相対性理論によると、時空と物質は密接に結びついており、重力とは時空の歪みであると理解されます。宇宙空間を入れ物として考えると、その入れ物の中に星や銀河、ダークマタ

          宇宙の加速膨張でエネルギー保存則が破れている!?

          大学に合格して、ちょっと時間ができたあなたへ

          大学に合格した皆さん、合格おめでとうございます! 新しく始まる大学生活に期待で胸をときめかせているのではないかと思います。私も大学の理学部物理系に入学した時の気持ちを思い出しました。 さて、大学入学までの間に少し時間ができると大学入学以降の準備をしたくなりますよね。私は大学に合格したあと、「ファインマン物理学 力学」を読んでいました。力学は物理学科に入学した学生全員が大学1年生の時に学習する内容であり、特に「ファインマン物理学」は長年、多くの学生に読まれてきた教科書です。

          大学に合格して、ちょっと時間ができたあなたへ

          理学部物理系新入生に勧めたい本

          大学入試合格発表に季節になりました。 ということで、今回は理学部物理系の新入生に勧めたい本を紹介していきたいと思います。 まず、大学1年生で最初に習う物理学の分野は「力学」です。ということで、おすすめの力学の教科書を何冊か紹介します。 まず、入門的テキストとしては 『物理学レクチャーコース 力学』 『物理入門コース 力学』 『物理学序論としての力学』 がオススメです。副読本としては、『ファインマン力学』もオススメです。 難易度がグッと上がりますが、意欲的な人た

          理学部物理系新入生に勧めたい本

          「なぜ重力を発見するに至ったのか?」に対する回答

          「なぜ、重力を発見するに至ったのか?」という質問が届きました。 とても良い質問ですね。これは中世の時代までの天文学の歴史とも密接に結びついたテーマです。 天文学の歴史は古く、少なくとも今から2000年前には古代ギリシャで、天体の運動について論じられていました。さて、古代ギリシャで論じられた天体の運動とは、「地球を中心としてその周りを太陽が周っている」というものです。いわゆる天動説ですね。この考え方はその後、16世紀−17世紀まで続きました。地球の周りを太陽が周っているとい

          「なぜ重力を発見するに至ったのか?」に対する回答