涙歌

 泣き声のアンコールは要らない。一度きり、この夜だけのコンサート、聴衆は自分一人。気づけなくてごめんね、部屋の隅っこで泣いていた小さな子。あと20小説で、コンサートが終わってしまう。朝日がカーテンを揺らし、寝不足で乾いた目を風が舐めていく。いつも通り、髪の毛を整えてコーヒーだけの朝食を済ませて出ていくつもりだった。全身にのしかかる重みは泥の中にその子を落としていく。端末の耳障りな歌声を子守唄に、周りだけが変わらず進んでいく。ただひとり、終演の狭間に倒れた子を置いて。

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