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フリマの転売ヤー ~公園で裏DVDを売って捕まったオッサン~【裁判傍聴記】

 いつものように東京地裁の門をくぐり、開廷表を眺める。午前中から始まる新件を探していると目に入った事件が、 

「わいせつ電磁的記録記録媒体有償頒布目的所持罪」

 長い・・・。

 しかも「記録」が重複しているがミスタイプではない。

 これは簡単に言うと裏DVDを販売する目的で所持してたでしょっていう罪で、少し前だと結構多かった裁判だが、最近はインターネットの普及によって一般人でも簡単にそのテの動画を閲覧できるような環境になってしまったのでこの罪での裁判は少なくなってきている。大体は、暴力団の若い組員がシノギとして一般人のフラフラしている兄ちゃんなどを捕まえて店員として雇い、マンションの一室で営業するのが一般的だ。今回もそういう事件だと思ったので、他の新件を探したがこれといった裁判がなかったので覗いてみることにした。

被告として法廷に入ってきたのは70代のおじさん。

 開廷時刻になり刑務官に連れられて入ってきたのは70代のおじさんだった。おじさんは東京、台東区の下町で息子と一緒に小さなリサイクルショップを経営していて、おじさんは毎朝近所で行われている朝市に参加し、古着を出品していたという。リサイクルショップの売り上げは息子も含めた家族3人が暮らせるだけの収入には足りず、貧しい暮らしをしていたようだ。

 おじさんが毎日朝市に参加している場所は日雇い労働者の宿泊施設が立ち並ぶエリアの公園で、朝市といっても最近の都会の街中で開催されている「マルシェ」なんて呼んじゃうそれとは全く違う、カップ麺とか日用品とか、おじさんの売る古着だったりとか、まさに日雇い労働者向けの露店だ。朝5時から開催しているのも早朝から仕事に行く日雇い労働者のライフスタイルに合わせたものなのだろう。

おじさんの犯した罪とは・・・。

 おじさんが朝市で売る古着の収入は年間10万円くらいとのことで、とても商売として成り立っているとは思えない。月間10万円でも少ないと思うが、それでも平日は毎朝5時には公園に行き露店を開けていた。土日は違うフリーマーケットでも古着を売っていたとのこと。

 そんなおじさんにある日、他の露天商が裏DVDを売りに来た。おじさんはその裏DVDをひとまず100円で60枚仕入れ、それを朝市で日雇い労働者に200円で転売した。

 ・・・という罪での裁判。

 長いプロローグだったが、要するに生活に困ったおじさんが朝っぱらから100円で仕入れた裏DVDを200円で転売。それを数年続けたところで捕まった事件だ。個人的には500円くらいでも売れたんじゃないかと思うが、まあそれはいいとして、ここから証人尋問や本人への尋問が始まる。

情状証人の奥様による泣き落とし劇場

 情状証人として証言台に立ったのはDVDおじさんの妻。情状証人はなるべく被告の刑を軽くするために、もう罪を犯さないように監督しますとか、被告を支えていくという旨を述べて、あわよくば執行猶予を勝ち取ろうとするためのもので、この妻も夫の反省具合や今後の更生について涙ながらに話しているのだけれど、おそらくこの奥様は普段からおしゃべりなのだろう。検察官や弁護士の聞いていないことまで泣きながらも饒舌にしゃべるから、弁護士はその供述が裁判に不利に働かないように焦り出し、検察も本来なら証言にボロを出すために責めるのだが、奥様のマシンガントークに「もう結構です」と言い出す始末。

 極めつけは、「主人がまさか・・・。こんな罪を犯すなんて・・・」と信じられないといった様子で泣き落としに入ったが、そもそも夫であるDVDおじさんは強盗、窃盗等で前科が5犯ある立派な服役経験者だ。おそらく奥様も「またやったか」位に思っているだろうし、裁判官、検察官、弁護士の法曹三者も本当は鼻をほじりながら聞きたい気分だろう。

尋問でボロ連発の被告人

 次に被告人への尋問が始まるが、DVDおじさんももう慣れたものなのか、検察官からの「調書によると1ヶ月に60枚ほど仕入れていたと書いてありますが、間違いないですか?」との質問に対して「それはぁ違うんじゃねぇかなぁ・・・」と、なじみの居酒屋で大将と話しているかのような口調で否定するが、「では、年間でどのくらい仕入れましたか?」と問われると、「1ヶ月60枚として・・・だいたい700枚くらいかなぁ」と、あっさり調書の正確性を自ら証明してしまう。それでも反省していることをアピールしようと、「もう(固定客の付いていた)朝市に出店はしません!土日のフリマだけにします!」と宣言。すかさず検察官が「今度は土日のフリマで売るんじゃないの?」と、裁判の検察官にありがちな嫌味を含んだ質問をすると、「フリマは主催者のチェックが厳しいから売れねぇっす」と、被告の反省を込めた決意がほしいところを『システム上売りにくい』という、あわよくば再販してやろう感たっぷりの発言で墓穴を掘ってしまう。

そして求刑は・・・。

 検察官も少し呆れていたが、最後にリサイクルショップ等を営業する上で必要な古物商取引免許は禁固以上の罪を犯した場合取り消されてしまい、今後営業自体ができなくなることを理解しているのかと、被告の自覚を促す発言をして、その後、懲役1年6ヶ月、罰金50万円を求刑した。

 後日判決ということになったのだが、僕は判決を見に行っていないのでDVDおじさんに執行猶予が付いたかどうかはわからない。前科の5犯で同種の犯罪歴はなく、前回の懲役後から5年以上経過しているであろうことを考えると執行猶予付きの判決となったのかもしれないが、もしそうだったとして、DVDおじさんは今頃どのように暮らしているのだろうかと思わなくもない。

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