足の長いハニー
私は妊娠を諦めた。
細かく話せばキリが無いが、夫婦のこと、自分の性格、年齢…色々考えて下した決断。「産まない選択」「多様性」そんな言葉に自分を当てはめる一方で、本当に良かったんだろうか、もうひと粘りするべきか。もやもやしたものが頭中を渦巻いた。
変わって今は晴れやかな気持ちだ、なんて、取り繕うつもりもない。けれども、悶々とした日々に変化をくれたのが“もう一つの命”だった。
私たち夫婦は、保護猫を迎えたのだ。
ブリーダー放棄されたという、マンチカンの女の子。聞けば足の長いマンチカンは市場的な価値に乏しく、手足が短く歩き方のかわいい“売れる”子を産むための繁殖目的とも耳にした。
というわけで、うちの「ハニー」は足が長い。
生まれて初めての猫だったし、私たちはそんなことを気にしなかった。てんやわんやの飼育だったけれど、そんな私たちを見かねてか、初日から段ボールで作った仮設トイレに向かっておしっこをしてくれる、お利口さんだ。
気が付けば猫あるいはペットという存在自体への関心も高まって、チャリティイベントにも参加している。その会場で1つ、うれしいことがあった。
「ハニーママ!」
私が“ママ”と呼ばれていた。そうか、私はハニーのママになったのだ。
一度は諦めた私に、新しい呼び名をくれた“保護猫”という存在。
足の長いハニーに助けられて、3人家族での大きな一歩が動き出そうとしている。