みんな変わっていく。
髪が伸びていた。
もともと、髪型にこだわらないタイプだし、
(大学生のころは、「一番強いパーマで」という謎オーダーしかしてなかった)
しばらく出社もしてないし、例の宣言以降は友人との約束も全部また今度にしていたし。
ゲゲゲの鬼太郎みたいな髪の長さになり、髪を結んで「ダサ侍」みたいな感じで生活していた。
で、もう限界かなーって思って、当日予約で美容室に行った。
俺が住んでいる街にある、徒歩でいける美容室。
上京して間もない頃、適当にホットペッパービューティで選んだ美容室。
はじめて行った日は、俺はどこぞの鉄砲玉みたいなオレンジの柄シャツを着ていた。
東京の3月は、仙台なら初夏と変わらないくらい暑くて。
じんわり汗をかきながら、そして道に迷いながら、東京の美容室にドキドキしながら店に入った記憶がある。
よくある洋楽が流れる店内。
俺は音楽がかかると、ついつい乗っちゃう癖があって、いきなりアシスタントのお姉さんに笑われた。
でも話してみると、そのお姉さんは宮城から出てきたばかりで、俺の父の実家にとても近かったりして、そんな偶然に驚いたりして。
「まだまだ見習いなので〜」と笑ってる彼女の成長を、この店に通っているうちに見ることになるんだろうか、なんてことを思いながら話していた。
髪を切ってくれたのは店長で、気さくでヘラヘラしてて、なんかすごくいい人って感じの人で。
散髪とパーマが終わってから、漠然と、また来ることになるのかなぁって思って店をでた。
それから、約2年間、数ヶ月に1回のペースで通うことになった。
新しい店を探すのも手間だし、歩いていけるところがよかったし。
でも、今日は、いつもと違う心持ちで行った。
先日、海が近い街に引っ越したいって思って、思い立って1週間もしないうちに物件を決めた。
俺はいまいる街が、ちょうどよくて好きなんだけど、思いたちのワクワクには勝てなかった。
今日が最後のカットになるんだろうな。
そう思いながら、でも店長はいつもどおりの気さくさで、カットしてくれた。
住む場所には、愛着が生まれる。
愛着っていうのは、街自体だけじゃなくて、近所のコンビニやスーパーや、居酒屋やカフェや、駅や美容室、そしてそこにいる人たちに感じる感情なんだって、改めて思う。
店長は、俺が2年間でこだしに話した話題をちゃんと覚えてて、
「汗っかきですもんねー」
「仕事どうなりました?」
「前に見せてくれた写真だとこんな感じになりますよ」
仕事していく上の業務的なものだとしても、そのスキルには惹かれてしまうものがある。
今日が最後って、言ったほうがいいのかな。
そう思いながら、言えないうちに、カットは終わった。
アシスタントだった彼女は、横で別のお客さんの髪を切っている。
HPには、副店長という肩書が記載されていた。
あっという間の2年間だった。俺もいろんな経験を、この街でした。
会計が終わって、店長がエレベーターまでお見送りをしてくれる。
俺は、数あるうちの一人の客で、多分、言う必要がないことなんだって思っていた。
そしたら、最後に店長が声をひそめて言った。
「実は僕、3月に辞めちゃうんで、次来るときは違う人に切ってもらってね」
笑った。
「いや、僕も引っ越すので、今日が多分さいごです」
「なーんだ、そうだったのね!」
屈託のない笑みを浮かべる店長と俺とを遮るように、エレベーターの扉がしまった。
みんな変わっていく。
アシスタントだった彼女も、店を辞める店長も、海の近くに引っ越す俺も。
東京は冷たいって、誰が言ったんだ。
冷たいのも、あったかいのも、いつだってそこにいる“人”なんだ。
店長の髪型とおんなじような髪型になった俺は、その慣れなさに戸惑いながら、そんなことを思ってる。
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