時にはシネフィルな夜「盲剣楼」
コレはよかった。
中国版の座頭市。ただしイケメン…ってやつ。
しかも、その職業は唐王朝崩壊後に一切の治安システムが機能していない乱世を生き抜く賞金稼ぎという設定。
冒頭から盲人相手のイカサマを描く、本家でも定番の賭場のシーンから始まることからも、本作が座頭市を下敷きにしていることを隠す気は製作側にはさらさらなし。
作り手がひたすら突き詰めるのは、クローズアップとスローモーションを多用したカット割りへ体術にワイヤーアクションを融合させた流麗な映像も含めた全体的な様式美のみ。
視覚に頼れない主人公の残りの五感に訴えるかのような緊張感のある演出は見事です。
コレだよこれ。
かつてのルトガー・ハウアー主演「ブラインド・フューリー」然り、洋の東西を問わずクリエイターが「数多の座頭市映画」を撮りたがる気持ちがよくわかります。
盲人の超人的アクションを描くには、観客にそれなりの説得力を持たせるためにも、その登場人物が何を拠り所に動作しているのか、場面の音や匂いから、空気の振動や気配、触感の感覚まで、映像から伝わってこなければなりません。
この盲目設定という配役のハンデキャップを逆手に取ったかの如き逆説的とも言える映像制作と演出上のロジカルなアプローチと相反するかのように破天荒な外連味を持った映像こそ、今は亡き勝新太郎が最後まで極めようとしていた道。
今回のラスボスの武器は弓だしね? 現代ならば盲目の格闘家とスナイパーの闘い。さすがに目の見えない相手に飛び道具は反則だろうに…。と、普通は思うよね?
勧善懲悪の物語は、これくらいシンプルな脚本でも、オレは一向にかまわないと思います。基本的にカッコよければ多少粗くても、クサくても何でも許せます。全編で80分もない上映時間にも好感。
それにしても本作を見ると、改めて世界中の映画人に、こんなにも座頭市を愛してくれてありがとうと言いたくなります。
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