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古井雅
2021年4月11日 09:17
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 現し世のオルゴール 2次回 → おしまい ふと、沢山の夢を見た気がする。 重い瞼を開けてみると、最初に見えたのは清潔感のある天井と、包帯を巻いた少年の顔。僕はその顔に見覚えがあったが、けれど即座にその人のことを思い出すことがはばかられる。 一瞬で、僕がしてしまったことを理解した。 僕は、彼のことを突き落とした。僕のことを唯一愛してくれたは
2021年4月10日 16:50
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 現し世のオルゴール 1次回 → 現し世のオルゴール 3(おわり) 瑠璃は恐るべき形相を向ける。心の底から、彼は「死」を望み、狂気的な雰囲気があたりに立ち込める。 当然だった。この世界を支配しているのはまさに瑠璃という人格である。現実の錫野折人は確実に自殺を実行してしまった。だからこそこの世界は生まれ、強固な意思となった瑠璃が生まれた。 それ
2021年4月9日 21:53
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 暗夜の吸啜 3次回 → 現し世のオルゴール 2 扉の先など、とうに決まっていた。最初に見た光景の連続、開いては散っていく朝顔、臓物を飾るハニカム構造のオブジェクト、そして瑠璃という優一そっくりの顔をした少年、いくつもの疑問と不可解さを飲みこんでこの狂った世界を歩いてきたが、ここがようやく終着地点だ。 逸る気持ちを抑え込むのに必死だった。なぜな
2021年4月8日 20:39
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 暗夜の吸啜 2次回 → 現し世のオルゴール 1 驚愕、そして恐ろしいほどに呆れ果てる動機にうまく心が整理できなかった。およそそれは、目の前にいる「僕」にとっても同じであり、彼自身、あの出来事に対して理性的な采配を下すことのできたのは、これが最初なのだろう。 理想化した憧憬が自分の中で瓦解した。だから、道連れに殺した。 こっちまで恐怖してしま
2021年4月6日 21:14
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 暗夜の吸啜 1次回 → 暗夜の吸啜 3 「僕」の部屋の扉にはネームプレートの一つもかけられてはいなかった。その上、二階の中でも一際奥まったところにあり、納屋を彷彿とさせる位置関係だ。 両親が「僕」に対してどのようなことを行ったのかは明白である。だからこそ、僕はここにいる。この扉を叩くためにこの不毛な世界を歩き回ってきた。そう心に据えて、ひっそり
2021年4月4日 20:54
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 軋む者 4次回 → 暗夜の吸啜 2 開け放たれた自宅の扉をくぐり抜けると、最初に聞こえてきたのは罵声だった。大方、両親の口論であることは目に見えているが、どうやらこれは随分と毛色が違う。 というのも、これまでに聞いてきた口論はどちらも、当事者のいないところで文句を投げつける、いわば「内輪」で終わる内容だったが、こればかりは違う。 話の内容は
2021年4月3日 16:54
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 軋む者 3次回 → 暗夜の吸啜 1対面した扉は奇怪だった。 鉄製の扉にも関わらず、その質感は非常に気味が悪く、水面のような独特な揺れが生じており、その揺れが人の顔のように輪郭となっている。 言うまでもない。恐らくこれは自分自身の顔。だが今のものではない。日記を書いていた時の自分の歪みきった表情が不意に思考を掠め、こちらも同じように顔を顰めさせ
2021年3月30日 22:19
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 軋む者 2 次回 → 軋む者 4 急変した自宅の様相に驚いていると、扉はひとりでに大声を上げて開かれる。 まるでこちらへ来いと言わんばかりの態度だった。先の実家の扉は、否が応でも開かなかったというのに。 その2つのことから、ひょんな違和感が思考を追う。本当にここは「死後の世界」なのかという疑問だった。 瑠璃は仕切りにそう言っていたが、今ま
2021年3月28日 20:25
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 軋む者 1次回 → 軋む者 3 瑠璃の言葉に従ってすり抜けた扉は、まるでおとぎ話に出てくるように小さく、おおよそ普通の体格よりも小さい僕でもギリギリ入ることができるほどの大きさだった。 扉を開いて腹ばいでそこに入っていくと、先程まで鬼気迫る調子で鳴り響いていたオルゴールの音が途絶え、静かな沈黙の奥で耳鳴りだけがけたたましく頭に残響している。それ
2018年7月5日 23:55
煉獄のオルゴール - あらすじ生前の記憶を失った「僕」は、黄泉路の分岐点の管理人「瑠璃」の元で目を覚ます。しかし、「僕」はそのまま死に切ることができず、自らが生きた人生を記憶として取り戻すため、異形の世界を彷徨する。 今回、noteを用いて不定期連載小説を作成することにしました。 この作品は現在小説投稿サイト「カクヨム」にて、隔週日曜日20時に連載をしておりますが、私自身この「煉獄のオルゴ
2018年7月5日 23:52
目次 → 「煉獄のオルゴール」次回 → 水疱の記憶-1序章 寂水の瓶 僕はこれからどこに行くのだろう、意識が戻ってから最初に過った羅列はまさにそんなどうでもいいことだった。体が浮遊しているような開放感と、心の底に広がる寂寥感の灯火が妙に心の内側を刺激している。 ゆっくりと瞳を開き、一番最初に視界に映ったのは小さく笑う少年だった。薄茶色の髪の毛と、日本人的ではない顔立ちはどこかの異
2018年7月8日 22:35
目次 → 「煉獄のオルゴール」 前回 → 寂水の瓶 次回 → 水疱の記憶-2 ぼこぼことした水疱の視界が途切れると、辺りは形相を一気に変え、何事もなかったかのような日常が横たわっていた。 僕はどうやら、椅子に腰を掛けて、机に突っ伏してしまっているようだ。恐らく、通っている中学校のものだろう。今いるのは自分のクラスの、自分の席のようだった。 しかし、ぐらついた視界は未だに目眩の
2018年7月16日 17:33
目次 → 「煉獄のオルゴール」 前回 → 水疱の記憶-1 次回 → 水疱の記憶-3 水疱に飲まれてしまった自らの意識は、次に視界が景色を取り戻すまで、僕は途絶えた記憶の片鱗を集めていた。 しかし、何をしても自らの記憶に行き着く事はなかった。行き着いたのは、真っ暗な海だった。僕は深海に沈み、光届かぬ世界で揺らぐ海面を眺めているのだ。 どうして、自分はこんなところにいるのだろう。
2018年7月28日 16:31
目次 → 「煉獄のオルゴール」前回 → 水疱の記憶-2次回 → 第二章 - 鏗鏘のアラベスク-1-3 意識が失われた場面から、次に意識が戻るまで、僕の耳元には延々とアラベスクの旋律が鳴り響いていた。優美なるその旋律は、まるで絶叫のような不愉快さを孕んでいて、今にも音が外れそうな不安定さを醸し出す。 知っている。この音色のことを、僕は知っている。何度も聞いたアラベスクの旋律とともに