水槽の彼女〜カバー小説【5】|#しめじ様
しめじ様のnoteのカバー小説を継続しております。
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何やかやと所用を済ませていると、日が暮れかけてきた。
家で食事しても良いが、これから食べるとなると食材もこれと言って無いし、持ち帰り弁当か、Uberが関の山だった。そして、じっくり向かい合って彼女から話を訊くには、この夕飯どきが最も適しているように思えた。
モールから出て、信号待ちをしながら、彼女に問いかけた。
「夕飯なんだけど・・・」
相変わらず彼女はずっと無口だった。
窓からこちらを振り返った。
「ちょっと早いけど、居酒屋みたいな店でいいかな?」
彼女は特に何の表情も浮かべなかった。
「・・・何でもいい。好き嫌いは、無いの」
「そうか。・・・じゃ、知ってる店へ行くよ」
そのときは既に、勝手を知った庭のような街に入っていた。
ハンドルを細かく切りながら、雑々とした賑やかな通りの雑居ビルに、僕たちは向かった。
雑居ビルの二階にある、大手の居酒屋チェーン店に着いた。其処を選んだのは、個室があるのを知っていたからだ。
―――
「―――鶏だったら、何か食べられるものがあるよね」
個室に案内され、おしぼりで手を拭きながら、堀炬燵式の窪みで運転に疲れた足を伸ばした。
「・・・・」
彼女は黙ってラミネート加工されたメニューを矯めつ眇めつ見ていた。ちょっと困っているようだった。
結構、遠慮する性格らしい。
「ビールとかは駄目だから、ソフトドリンクを決めて?・・・あとは、じゃ適当に頼もうか」
飲み物と、注文した鶏料理―――焼鳥盛合せ、シーザーサラダ、鶏の刺身、一品のつくねの皿など―――がテーブルに並べられた。
「何かありましたらお呼び下さい」とお運びのスタッフが軽く礼をして個室を出て行った。
「―――さ、じゃ食べよう」と、体勢を整えながら無口な彼女に明るく声を掛けた。
「・・・いただきます」
割り箸を手に持ち、手のひらを合わせて、彼女は子どもっぽい声で言った。
(結構・・・ちゃんとしてるんだな)
もう僕は食べ始めていた。
このあと本格的に質問する心算でいたから、前のめりになっていたのかもしれない。
訊きたいことは山ほどあった。
まず、依頼されたことから訊くのが順当だろう。
「―――で・・・
何であのpapaから、離れたかったの?
DV、されてたとか・・・」
串から外した焼鳥を酒のつまみに箸で取りながら、プレッシャーにならないよう、目を合わせずに尋ねる。
「・・・乱暴は、されてないわ・・・」
彼女も目を合わさず、シーザーサラダを取り分けていた。
「立ち入った話を訊いて悪いけど。
君を連れ出したのは僕みたいなもんだから・・・」
僕は今度は彼女を正視した。
「あの人は、君の何なの?」
真剣な声色にはっとした顔で、彼女もこちらの目を見た。
そのときの瞳は、collapserみたいな空洞の黒ではなかった。野良猫が威嚇されて驚いたときに似た、少し怯えた色を帯びていた。
「私の、義理のpapaよ」
そこから、彼女は過去を語り始めた―――。
通訳をしていた実のmamaが、世界的な画家のpapaと仕事を通じて知り合ったこと。
ふたりが結ばれ、papaは日本に在留することになり、りらという子どもが産まれたこと。
そのとき彼女は、中学卒業を控えた年頃だった。
ある日、mamaは赤ちゃんの診察で産婦人科病院へ行った。そのとき、彼女は中学校から帰宅して、家にpapaとふたりきりになった。
papaの才能は尊敬していた。papaから、「絵のモチーフになって欲しい」と言われた。
アトリエでポーズをとっていくうち、肩を露わにし、背中のラインを晒し、髪を寄せて首筋を強調し・・・
裸に白いシーツを巻き付けながら、脚を組んで椅子に座っていたとき、mamaが病院から帰ってきた。
mamaはりらを抱いたまま、悲鳴を上げた。
そして、狂ったような奇声で何か叫びながら、りらを置いて家から飛び出した。
―――待って、これは、と言いたかったけれど、自分の姿も裸だったし、すぐに追いついて行けなかった。
mamaは・・・飛び出したときに、通りかかった車に衝突して即死した。
―――
「だから・・・私は、疫病神なの。
私がいなければ、mamaもpapaもりらも、幸せに暮らしていたのよ。
papaはずっと、罪悪感に苛まれているわ。りらは小さいから、私をmamaだと信じているの。
でも、もうすぐりらもすべてを知る時が来る。
私はもう、何もかも誤魔化しながら、生きていけないわ・・・」
彼女の告白を聴きながら、僕は喉の奥に何か異物を入れられたような息苦しさを感じ、どうしていいか分からなかった。
【continue】
▶Que Song
断面/Dios
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🌟Iam a little noter.🌟
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