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気になる後輩〜He Is Knight〈Ⅱ〉【スピンオフ】|#短篇小説


この小説は、以下の短篇小説の続き【スピンオフ】です。


過去の3話分のお話をすべて収録。

↓ ↓ ↓


《登場人物》



斎藤知南さいとうちな…アパレルの営業補佐担当。学生時代からの彼氏がいる。



後輩…同じ会社の気になる後輩。営業外勤。彼女がいる。




―――


《前話のハイライト》


(―――何故、彼はこの近くを私が開拓してるって知っているんだろう?)



ブティックを出てから、だんだん疑問が膨らんできた。後輩の彼に関しては、何かとそういう「違和感」が多かった。



営業部と企画部は、2階と5階に分かれていて、お互いにどんな動向をしているか見えない。しかも、営業社員一人ひとりの行動まで、把握できるはずがない。



(多分、営業の先輩の誰かに聞いたんだな・・・)



知南の頭の中に、非常階段にある喫煙スペースで、後輩の彼と営業部の先輩たちが煙草を吸いながら雑談している姿が浮かんだ。
元々後輩は、知南を含む仲の良い飲み仲間の一員なのだ。

「気になる後輩〜He Is Knight」





気になる後輩〜He Is Knight〈Ⅱ〉



ようやく展示会が始まった。


ひとつのブランドに40人近い営業部担当が在籍する。その一人ひとりに、50件足らずのブティックが割り振られていた。



2週間の会期に、ブティックの店長、店舗によっては副店長やスタッフが、顧客として来社する。


型数は100型くらい用意されていて、その中から必要なものだけ受注するシステムとなる。営業部員だけでなく、企画部のデザイナー、パタンナーも展示会場に勉強を兼ねて出て来て、さながらFESTIVALお祭りのような賑わいだった。


また、展示会場は、壁に沿ってぐるりとサンプルがディスプレイされている。


そのウインドゥディスプレイを営業部員が説明しながら案内し、展示会のイメージを顧客に掴んで頂くのだった。知南は、受注をサポートするべく後ろに張り付いて、反応が良い商品をリサーチしていた。


ーーー


展示会の2日めのことだった。


「斎藤!お客様だぞ」


エレベーター付近で、受付の社員とともに待機していた営業部長が、知南に声をかけた。


エレベーターホールからブティックの面々が顔を現したとき、一瞬会場の中にどよめきが起こった。


ーーー中心市街の一番店。


営業部員全員が知る、以前取引のあった大口の店のオーナーの一行が、知南を指名して来社してくれた。


(・・・嘘・・・)


知南は緊張して、鳥肌が立ってきた。


ーーー


(たしかに、私の話を熱心に聞いてくれたわ・・・)


大口といえども、個店は個店。競合他店のリアルな動向は、喉から手が出るほど欲しいはず・・・。


そうにらんだ知南は、新規開拓のプレゼンで、商品を見せるだけでなく、つい最近会社で試みている内容を説明することにしていた。


自社の売れ筋動向を、多くの取引先から吸い上げてまとめ、商品とともに随時発送しているーーー


これは、今のようにネットが発達していない頃は、【売り上げる店】ほど敏感に反応があったように感じた。


知南の目論見もくろみは当たった。展示会の会期中、続けざまに7件、大口ばかり新規取引することに決まったのだ。



営業部長ーーーそりが合わなかったーーーは、受注のテーブルに同席して、営業活動に慣れない知南の代わりに、大口取引のための難しい話を進めた。


商談が済み、店長やスタッフたちを何度か深くお辞儀をして見送ったあと、部長は知南を振り返って言った。


「・・・お前一体、どんな手を使った?」


ーーー


知南は実は、この展示会で会社を辞めることに決めていた。


毎日遅く、終電に乗るほど忙しかったし、家に帰って力尽き、もう食べたくともコンビニエンスストアのお弁当くらいしか買えない日々を過ごすのに、心まで消耗してしまった。


肩は重い商品をあちこち持ち歩いて悲鳴を上げていた。運転出来るとか、出張組であるならまだ、時間的・体力的な余裕があったかもしれない。


更に恐ろしいことには、展示会後、営業部長と係長が、知南の担当地域を増やす打合せをしているのに、ばったり出くわしてしまった。


(ーーー早く、辞めよう。手が打てなくなる前に・・・)


ボーナスの前だったが、それを諦めて、知南は辞表を提出した。


ーーー


辞職の日。


幾分すっきりした気持ちで、朝礼時に皆の前で感謝を述べた。心を込めて、


「今まで、本当に有難うございました」


と言えたのに、知南はほっとした。


帰りに各部署へ挨拶回りをしに行った。


企画部には、あの気になる後輩が、チームリーダーとして座っていた。


知南の顔を見るなり、


「おっ、斎藤さん!!」と笑顔で手招きする。


「斎藤さんはさ、この展示会、大口7件呼んだんだよ。


・・・こんなこと、滅多に無いんだぞ?俺も出来なかった」


彼は自分のことのように嬉々として、チームの皆に説明する。


(あなたなら、出来てたんじゃないの・・・)


そう思いながら、後輩が、新規開拓をしている自分の行動を調べていたのを脳裡に浮かべていた。


ーーー


そして・・・


退社してから長い時間が過ぎた。知南は学生時代からの彼とは別れ、まだ独身だった。


たとえば冬の街角。何かを後ろに置いてゆくように、肩で人の間をすり抜けるコートの後ろ姿が、あの後輩かと思うときがある。


遠くに見えなくなるまで、背格好や雰囲気が似ているその人を、知南は思わず目で追ってしまう・・・。



He Is Knight. ーーー彼は私の騎士だった。いつも彼女がいながら、彼がいる知南を、そっと見守っていてくれた。


一度だけ、ふたりきりでショールームにいたときに、彼が訊いてきたことがある。


「・・・斎藤さん、フェロモン出しまくっている女性、どこかにいませんかね?」


テーブルでプルオーバーをたたむ手を止めて、じっと知南を見つめた。



知南も、後輩の心をのぞくように見つめた。


「え・・・何言ってるの?彼女がいるでしょう?」

彼は何も言わずに、目をらしてまた畳み始めた。


「・・・・・」


しばらく何枚か畳んだあと、彼は、


「どっかにいないかなぁ、フェロモンの出てる人・・・」つぶやいたのだ。



ーーーあのとき、もし。


(ここにいるよ?)と冗談めかして答えていたら、何かが変わったろうか。


距離を感じていた当時の彼に見切りをつけていたら、違う景色を見られたんだろうか。


【If もしも・・・】



過去を思い返しても、実際は分からないことばかりだ。


(それにしても、良い後輩だったな・・・)


知南は、ひとり想いを馳せる。


・・・懐かしむしかないのだ、今は。



【fin】


▶Que Song

私きっとこの恋を忘れない/CHIHIRO




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また、次の記事でお会いしましょう!


🌟Iam a little noter.🌟



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