シンデレラ・コンプレックス〜手書きの名刺~|#短篇小説
この短篇小説は、以下のnoteの続きになります。
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シンデレラ・コンプレックス
〜手書きの名刺〜
和美の目はテレビに釘付けになった。
YouTubeのサムネイルを、ドキドキしながらリモコンで選んで押した。
YouTubeでは、売上げの多いホストのナンバーが発表されている。ナンバー10から、マイクコールで源氏名が呼ばれ、カメラが向けられると、女性と並んで座っているホストが映る。
TOP3の月間の売り上げは1000万を超えていた。
(私の年収より多い・・・)
和美には計り知れない世界だった。
店内の壁沿いにめぐらされたソファで、女性(“姫“と呼ぶらしい)といるホストの様子は、彼らなりの明暗が分かれているのが垣間見えた。
疎らな拍手とともに、呼ばれて嬉しそうな顔を見せる者もいれば、長いソファの背に手を回して、俯向き加減で暗い顔をしているホストもいた。おそらく、不本意な結果なのだろう。
(結構、厳しそうな世界だな・・・)
と和美は感じた。当然かもしれないが、まだ数ヶ月前に手書きの名刺だった涼哉は、その中に映っていなかった。
YouTubeに出ている締め日から月が明けて、6月5日になっていた。
ふと気になって、先月末の涼哉のLINEメッセージを見直してみる。
―――「元気? 最近 顔合わせてないね
また話したいな」
相変わらず、営業しているような、淡白なような・・・微妙で曖昧な言葉が並んでいた。
(向いてないのかな・・・)
和美は、涼哉の店での姿を想像した。彼がライトや鏡面や音楽で、華やかに演出された世界の中にいて、一生懸命テーブルをセッティングしたり、露のついたグラスを拭いていたりするのを考えると、何となく何かに心が掴まれるような気がするのだった。
不思議と、女性と座っている姿をイメージすることはなかった。
「―――え、毎日LINE来てるの!?」
絵梨花は周りの人が思わず耳をそばだてるくらい大きな声で、和美に問いかけた。久し振りにランチしようと約束をした日、食後の会話で、和美の近況を伝えたのだ。
「・・・うん。お店に行った夜から」
和美はホットミルクティーのカップを持ち上げた。
絵梨花は左手でアイスコーヒーのストローを玩びながら、右手をテーブル越しに伸ばす。
「・・・ちょ、ちょっと、見せてみ。
そのLINE」
絵梨花は半分和美の保護者の気分でいる。正直、あまりひとには見せたくなかったが、仕方なく自分の席の横に置いてあるバッグを探って、携帯を取り出した。
「トーク見るよ。・・・何だっけ?そのホストの名前」
「涼哉」
和美が名前を告げると、一瞬絵梨花と目が合った。彼女は頷いて、しばらく携帯をスクロールしながら読んでいた。
「・・・はぁー。ホストってまめなんだねえ・・
私の担当した男は、生活キツキツで貧乏だって言ったら、なーんにもアピールして来ないわ」
絵梨花は、はい、と携帯を和美に返す。
「―――で?どうしたの?
また、そのホストに会いに行きたくなった??」
いつも絵梨花はそうなのだが、先回りして直球で質問してくる。だから、和美はまごまごして挙動不審になる。
「いや、その・・・どうしたらいいかな、と思って。LINEブロックしたほうが良い?」
「ん・・・良いんじゃない?和美はさ、余りにも男慣れしていないから、そういうプロの人に話を聞いてもらったら?
私、ついて行ってあげるよ。行こ?」
急にまた展開が進んで、和美は慌てた。絵梨花は悪戯っぽい目つきをきらきらさせながら、和美に顔を寄せて言った。
「―――あのさ、女磨きの修行だと思って、あっちが驚くぐらい綺麗にして、お店に行ってみようよ。手伝ってあげる」
和美は絵梨花の顔をまじまじと見直した。
どうやら、絵梨花は冗談を言っているのでは無いようだった・・・
【continue】
▶Que Song
golden hour/王OK(COVER)
🌟Iam a little noter.🌟
🤍
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