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射抜かれる矢①〜手書きの名刺|#短篇小説
【手書きの名刺】シリーズの短篇小説になります。ホストクラブを巡る、忘れられない恋物語を展開しております。
このお話は、単話でもお読み頂けます(一応①②となります)が、以下のnoteを読んで頂くと、さらに深くお愉しみ頂けます。
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〜シリーズ一覧〜
1.
2.
3.
4.
5.
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《登場人物》
和美:真面目な入社5年めの事務員。
少女の頃から変わらぬ雰囲気で、冒険を好まない。
絵梨花:和美の同級生。やや不良めいたところがある。背が高く、モデルのような、フォトグラファーの卵。
涼哉:手書きの名刺を和美に出した、新人のホスト。
―――
《前回の抜粋》
鏡に囲まれた半円形のソファにつき、先刻買ったばかりの紺のワンピースを着て、和美はずっと胸をどきどきさせていた。
この半日で絵梨花に魔法をかけられ、シンデレラになった心持ちだった。
靴も、足首に細いベルトの付いた、履いたことの無いような高さのエナメルパンプスに変わっている。
クラブの鏡に映る自分を見ても、全く別人だった。
(何か言われるかもしれない・・・)
ホストにしては口数の少ない、涼哉の切れ長の瞳を思い出して、和美は膝の上できゅっと拳を握りしめた。
射抜かれる矢
〜手書きの名刺
和美はソファで緊張しながら、涼哉が来るのを待っていた。
―――そのとき。
「初めまして。店長の黒森瑠名です」
徐ろに、ライオンのたてがみのような金髪をきらめかせた背の高い男が、和美と絵梨花の席に現れた。
黒いぴったりとした革のパンツに、光沢のある黒いジャケット。耳にはきらきらした、(恐らく)ダイヤのピアスが揺れていた。
和美の横に身体を滑らせ、
「失礼します。こういう者です」
手入れされた細長い指で、ふたりに名刺を渡した。芸能人みたいな写真が添えてあった。
絵梨花はその名刺を、冷めた目で眺めていた。
「えっと・・・あの」
名刺など持たない和美がまごついていると、
「―――ああ、涼哉から聞いてますよ。カズミさん、いつも涼哉に有難う。
・・・ご免ね、待たせてしまって。
他のテーブルが落ち着いたら、すぐ来させるからね。
―――何か飲む?」
店長の黒森は、白い歯を綺麗に見せて微笑んだ。ソファに座っていても堂々としていて、他のホストとはオーラが違う、と和美は思った。
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「・・・あの店長、何気に注文させるの上手いね」
絵梨花が耳もとで囁いた。
黒森はもうふたりの席を立って、違う客たちと談笑していた。
「和美のお気に入りが来るまでに、ボトル入れさせたよね」
和美に付いていたホストが氷のペールを取り替える間、ひそひそとふたりは会話した。
「―――もう、やめときなさいよ」
絵梨花が言って、真紅のシガレットケースから、細い煙草を1本取り出した。
ペールが新しくなったあと、
「ご免ね」
と言って絵梨花のホストは席を立った。
それと入れ替わりに、涼哉が席に来た。このあたりのチームワーク的な動きは、見事なものだ。決してお客を放置しない。
「今晩は・・・待たせちゃったね」
涼哉は相変わらず清潔感に溢れていた。黒の細身のスーツでも、夜の匂いはほとんどなかった。
大抵のホストがきらきらしたブランドのブローチや、ピアスを付けている。涼哉は、シンプルなリングくらいで、ホスト特有の嫌味がなかった。
「常連の女の子で、中々離れられなくて・・・」
申し訳なさそうに言いながら、ジャケットの前を押さえて和美の横に座る。そして、改めて和美の姿を見た。
「和美ちゃん、いつもと雰囲気が違うね。ふだんも良いけど・・・今夜はとくに、素敵だな」
涼哉は一重の目を細くして、にっこりと笑顔を作った。
和美は、恥ずかしくて俯向いた。
「―――良いでしょう?こういうのが似合うかと思って」
絵梨花が和美の様子を見て助け舟を出した。
「エリカちゃんが服を選んだの?」
「そう・・・」
絵梨花が煙草の灰を落とすと、さり気なく涼哉は灰皿を替えた。
「センスあるね。和美ちゃんがもっと女らしく見える」
涼哉がお酒を作って和美と絵梨花の前に置いた。その手捌きを見ながら、和美は涼哉が遠くに行ってしまった気持ちがした。
涼哉は、特別なアイスティーをロンググラスで頼んだ。それさえも、以前会ったときの涼哉とは、かけ離れているのだった。
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しばらく、涼哉は和美たちと歓談していたが、今度は店長に呼ばれた。
接客スペースより少し壇上になった待機スペースで、店長と涼哉は真面目な顔をしていた。
―――そして、店長と涼哉はほぼ同時に、真っ直ぐ和美を見た。和美は、ふたりと目が合ったのだ。
そのとき、何かの矢に射抜かれたように、和美は急に胸苦しくなった。
(私のことを話してる・・・)
内容は分からない。然し、良い話ではなさそうな直感を、和美は覚えた。
▶Que Song
偽愛/STUPID GUYS/當山みれい
(COVER)
【Continue】
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