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再会〜二十億光年の記憶解凍|#短篇小説

この短編小説は、以下のnoteの続篇となっております。

ご高覧頂けると幸いです。

↓ ↓ ↓


《登場人物》

沙良・・・シングルマザー。一人娘が   いる。

斎藤俊彦・・・沙良の高校時代の同級生で元彼氏。


―――

《前回のハイライト》

覚えているも何も、と沙良は思った。同窓会を意識し始めてから、沙良はずっと彼を思い出していたのだ。



ひろこは言った。



「斎藤くんもね・・・離婚、したんだって。最近らしいよ」



ひろこの言葉に動揺し、沙良は携帯を握りしめ直した。辛うじて、手から落とさずに済んだ。

「同窓会のまえ」


 

人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
 
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ


「二十億光年の孤独」 
 〜谷川俊太郎



【3】


同窓会は、クラスの女性のひとりが開いている店で集まることとなった。


カウンター席がいくつかと、大きめの白木のウッドテーブルの席があった。15人くらいが、そのテーブル席中心に座る指示が出た。


女性たちはお決まりの文句、「昔と変わらないね」をまず言い交わしていた。


沙良は、もしも離婚したことを知られていて、自分の何処かに同情をひくような雰囲気の欠片が残っていたら・・・と密かに気にしていた。だから、お決まりの文句であっても、その言葉が嬉しかった。



昔の彼、斎藤俊彦は先に来て静かにカウンターの隅に座っていた。沙良は目顔で挨拶した。


男性は他にも何人か来ていて、遠方から駆けつけている人もいた。サラリーマンよりは、自営業をしている人が多いようだった。


高校生の頃から、俊彦は積極的に中心には関わらないけれど、自分の立ち位置をいつの間にか確立しているタイプだった。この会でも、皆の動きの邪魔にならないように、カウンターに座っているのが彼らしいと思った。


「席について―――」と号令がかかって、沙良は入口近くの下座へ座りかけたが、


「はい、奥。・・・もっと奥に座って!」


と促され、仕方なく席を移動した。結果、俊彦の近くには座れなかった。



「飲み放題」ということもあって、最初はお互いの距離感を探り探り話している印象だったのが、時間とともに皆大きな声になり、くだけた雰囲気になってきた。


「―――実は私、庄司くんが好きだったのよ」

とか、

「でも当時、庄司くんは久山ちゃんと付き合ってたよね」

とか、


「俺は田中が気になってた・・・」とか。


恋愛話が何とはなしに席順に打ち明けられ始めて、沙良はちょっと居たたまれなくなってきた。


まだ、「恋愛」なんて、自分には違う星の話にしか聴こえない。過去のことでも、気恥ずかしくてしょうがない。


今夜の同窓会に出るのがやっとの思いだった。自分の日常から、そういう話題を皆の前で話すなんて、頭がついて行かないのだ。




同級生のひとりの話で場が盛り上がって、うまい具合に話題が切り換わった。


ほっとした沙良は、酔いが進んできて、


(もう、お酒は控えめにしないと、帰れないな・・・)と思った。


―――娘の詠美えみが、もしかしたら起きているかもしれない。


ぼんやりと大皿から自分の取り皿へ、カルパッチョを移していたとき。


「―――沙良。楽しんでるか」


俊彦が、お手洗いに立った隣の席に、代わりに座って来た。


軽く驚きながら、声を聞いた途端に、温もりのある懐かしさが記憶解凍されて、ちょっと焦った。


昔と変わらない、一重まぶたの奥の穏やかな眼差し。微笑みを含んでいる。


「ご無沙汰、だな。どうしてた?」


(どうしてたか・・・言い切れないわ、貴方には・・・)


沙良は片手にグラスを持ち直しつつ、口火を切れず・・・ただ、俊彦と目を合わせていた。



【 continue 】


▶Que Song

COLORLESS/三浦大知





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🌟Iam a little noter.🌟



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