水槽の彼女〜カバー小説【11】|#しめじ様
この小説は、しめじ様のnoteからインスパイアされてカバー小説にさせて頂きました。
もとのお話はこちら。
元のしめじ様のお話 +【1】〜【10】まで収録。
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川べりの散歩に出て以来、優愛のメンタルの調子はあまり良くなかった。
家で珈琲を飲みながら、動きを止めてずっと一点を見つめていたり。
料理はどちらかというと愉しんでするほうだったのに、
「何もメニューが浮かばない」
と言って、弁当屋の、出来合いの弁当を買ってきたり。
ある晩、僕がコンビニエンスストアの弁当を食べていると、両肘をついてぼんやりこちらを見ていたので、優愛に声をかけた。
「昼間はどうしてるの?家で」
優愛は目を泳がせた。
「え・・・
とくに何もしてない」
僕はあれこれ家事をしろと言うつもりは無かった。ただ、優愛が心配だったのだ。
「サブスクとか、好きな映画でも観たらどうかな?・・・暇なら。
音楽でも良いし・・・」
「うん・・・」
優愛は、両手をテーブルの上で組んだ。懺悔をする人のようだった。
「集中して、観たり聴いたり出来ない気分なの」
「そうか・・・」
最近、優愛が来てから、コンビニエンスストアの弁当が口に合わなくなってきた。僕は、箸を置いて蓋を閉めた。
「YouTubeとか・・・
気になった本を、ただ眺めるくらいなら、出来ないかな」
続けて提案した僕に、おそらく少し気兼ねをしたのだろう。テーブルの白い台拭きを一度広げて、また畳み直したあと、伺うように僕の顔を見た。
「何か―――おすすめがあるの?」
「そうだな・・・、まあ」
僕はリモコンを手にして、テレビのほうへ向けた。しばらく動画を探したあと、
「・・・これは、【VOGUE JAPAN】のハウスツアーだよ。
海外のアーティストやアクターたちが、自宅の中を紹介するんだ」
【アーティスト】という言葉に、優愛はぴくりと反応したように動いた。
「日本と違って、自由な発想で空間をクリエイトしてるのが面白いんだ。
・・・どんな家が、持ち主を癒やす【巣】になりうるのか。
そんなことを、考えさせられるYouTubeだよ」
優愛に説明し、何度も何度も再生した動画を見やる。インテリアやハウスデザインを語り始めると、僕はつい前のめりになってしまう。
「面白そうね・・・」
本当にそう思っているのか、微妙な返事だった。ただ、YouTubeの画面からは、目を離していないようだった。
「・・・あと、写真集なら」
ゆっくり立ち上がって、まず食べ終わったお弁当を片付け、本棚へ向かう。
「これが僕は好きだな。
―――【CASA MODELNA】」
取り出した重い本の表紙を、優愛に見せる。
「コロンビアの富裕層の、自宅か別荘かのアーキテクチュアの写真集だよ」
「コロンビア・・・?」優愛はまた片肘をついた。
「うん。都会ではなくて、郊外にある邸宅さ。
インテリアは年季が入っていて、よく見ると、住んでいる人たちの息吹を感じるんだ。
本好きだったり、芸術好きだったりね。
綺麗にまとまり過ぎてないところが、良いと思う」
「ふうん・・・」
ちょっと僕は喋り過ぎていた。優愛への心配りというよりは、スピーチ大会の様相になりつつあった。
「まあ―――ごめん。とりあえず、そんなところかな」
やや恥ずかしい気持ちを隠して、ダイニングの、優愛の前の椅子に戻った。
「・・・あなたはやっぱり、インテリアのお仕事が好きなのね」
優愛はそう言って、何日かぶりにゆっくり僕に微笑みかけた。
「papaもそうよ・・・絵を描くこと、芸術にかけては、ふだん話さないのに、とても饒舌になるの。
もっと、ふだんがわかり易いと良いんだけれど・・・」
優愛の目は、僕を通してpapaを見ていた。今夜は崩壊星の冥い瞳ではなかった。
・・・慈しみ、諦め、戸惑い、不安。
様々な感情が、瞳にゆらゆらと映っていた。
―――もしかしたら、優愛は。
僕の中でひとつの疑問が浮かんで、身体を締め付けた。
締め付けられた僕は、知らぬ間に、何かを期待していたことにようやく、気付いたのだった。
▶Que Song
Phototype/Dios
【 continue 】
▶参考YouTube
Open Door/VOGUE JAPAN
独特の世界観。
40本以上のアーカイブ。
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▶参考書籍
【CASA MODELNA】
(Amazonのプレミア価格となっているので、書店でどうぞ)
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次回で終話の予定です😌
また、次の記事でお会いしましょう!
🌟Iam a little noter.🌟
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