オーナメントの貴方〜二十億光年の記憶解凍・スピンオフ|#短篇小説
このお話は、前回抜粋をご参照の上、単話でもお読み頂けます。
【スピンオフ Male/Female】をご高覧頂いたり、お気に召せば【二十億光年の記憶解凍】シリーズを通して読んで下されば、さらに登場人物を深く知って頂けるかと存じます。
🤍これまでのスピンオフのお話🤍
▶Male(男性)
▶Female(女性)
オーナメントの貴方
〜二十億光年の記憶解凍
ふたりはバーのあるビストロでワインを飲みながら、寛いだ気分でアラカルトを頼み、食事を済ませた。温かいオリーブブレッドが思いの外美味しい、と沙良は思った。
少し上気した頬で彼女は店を出た。この辺りは外国人の居留地だったので、まるでヨーロッパの街角の雰囲気がある。
また腕を組んで歩く。寄り添うと、心なしか暖かく感じる。
(―――次は、何処へ行くのかな・・・)
学生時代から、ずっと行き先は俊彦任せだった。ふわふわしていると、俊彦が沙良に言った。
「昔さ、花時計によく行ってただろ?
・・・あれ、移転したんだよ。知ってた?」
「知らなかった。何処に?」
同じ街にいるのに、子ども連れの施設くらいしか分からなかった。
「公園の一番海側だよ。行ってみる?」
学生時代でお金の無かった頃、花時計は人けもなく、緑陰があるので座ってよく休憩した。思い出の場所、と言えば言えるのかもしれない。
ふたりは、公園の大理石で出来たベンチスペースに並んで腰を掛けた。
俊彦は、目を細めてタバコを吸っていた。後ろの植え込みでは、風でカサカサと落ち葉が音を立てた。
「・・・何で、俺たち、別れたんだろうな」
ぼそりと俊彦は呟いた。その真意ははかりかねたが、沙良はふと、大学時代の記憶を蘇らせた。
「俊くん。・・・私ね、俊くんが東京の大学に行ってから、寂しかったの。
LINEのやり取りも、だんだん心を感じなくなって・・・」
「・・・回数も、減っていってたかもな」
俊彦は煙を吐きながら、遠くのほうを見ていた。
言ってしまおう、この機会に、と沙良は思った。
「―――『既読』が中々つかないとね、何か悪いことばかり考えちゃって。
無視してるのかな、とかね」
彼女にはそこまで言うのが限界だった。
(―――私じゃない女性を、好きになったのかな、とかね・・・)
実際、俊彦は東京で新しい彼女(のちの妻)が出来たのだ。
俊彦は沙良の話を聞きつつ煙草をふかしていたが、どこかのポケットから携帯灰皿を出して、吸殻を入れた。
「―――沙良」
俊彦は沙良の背に手を回し、自分の身体に引き寄せた。
その途端、沙良の目からぽろぽろっと涙が溢れた。過去の泣いた記憶が解凍されて、溶け出したように・・・
俊彦が唇を動かすのを、沙良は耳もとで覚えた。
「ごめんな・・・辛い思いさせてきて。
・・・俺、離婚も含めて、色々分かったんだよ。
何もかも流れに任せちゃ駄目だって・・・
違和感があるときは、きちんと話し合わないと、取り返しのつかないことになるんだ」
そして、俊彦は少しふたりの身体を離して、沙良の顔を真正面から見た。
「・・・沙良。これからは、俺らは何でも言い合おう。時間と、距離を埋めるんだ」
「俊くん・・・」
沙良は涙が止まらなかった。何年も何年も、(前の夫に対しても)希ってきた言葉を、俊彦は発していた。
「有難う・・・そう、する」
俊彦は(珍しく)ハンカチを差し出したが、彼女は手で断って、バッグにある自分のハンカチを出した。
「・・・私もね、何も言えなかったのが悪かったの。
ずっと俊くんと別れても消化不良で・・・
この間の同窓会で、思い出にピリオドを打つつもりだったの」
「・・・うん」
俊彦は沙良の肩に手を掛けていた。
「独身になったとは思わなくって。
・・・でも、会って話せて良かった」
沙良が微笑みかけると、俊彦はまた彼女をしっかり抱き締めた。
「俺も良かったよ・・・沙良」
俊彦は、片手でコートのポケットを探った。
「・・・プレゼント。大したものじゃないけど」
「―――!?」
沙良は、プレゼントボックスを見るなり、俊彦の両袖をぎゅっと掴んだ。
「どうしよう―――忘れてきちゃった!
私も、俊くんのプレゼント、手袋を買ってたのに・・・」
動揺する沙良を見て、俊彦は吹き出す。
「・・・そういうとこ、変わってないな」
「え、どうしよう・・・
―――あ」
沙良も自分のコートのポケットを慌てて探っていたが、目を見開いた表情から、一瞬動きが止まった。
「そうだ・・・これ」
彼女がそう言って、ゆっくりとポケットから取り出したのは、小さなツリーのオーナメントだった。
「・・・サンタだな」
沙良は、泣き笑いになった。
「俊くん。俊くんは、私の人生のサンタクロースだわ。
・・・これ、あなたにあげる。持っていて欲しいの」
▶Que Song
いとしのエリー/宮本浩次(COVER)
【fin】
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🌟Iam a little noter.🌟
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