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オーナメントの貴方〜二十億光年の記憶解凍・スピンオフ|#短篇小説

 
 このお話は、前回抜粋をご参照の上、単話でもお読み頂けます。

 


【スピンオフ Male/Female】をご高覧頂いたり、お気に召せば【二十億光年の記憶解凍】シリーズを通して読んで下されば、さらに登場人物を深く知って頂けるかと存じます。




🤍これまでのスピンオフのお話🤍




▶Male(男性)


▶Female(女性)


《登場人物》



沙良さら・・・シングルマザー。一人娘がいる。


斎藤俊彦・・・沙良の高校時代の同級生で元彼氏。最近離婚して、バツ1になった。



―――



《前回の抜粋》


「あの・・・

 迷いそうだから、腕、組んでいい?」




 「・・・良いよ」



 俊彦が差し出したコートの肘に、沙良は自分の腕を通した。



(―――幸せになりたい。今度こそ・・・)



 ふたりで組んだ腕にぎゅっと身を寄せた。



 

 そして―――



 クリスマスのきらびやかな装飾と照明が輝く街が、沙良と俊彦を祝福して迎えていた・・・

「クリスマスの魔法〜
二十億光年の記憶解凍・スピンオフ」



オーナメントの貴方
〜二十億光年の記憶解凍





 ふたりはバーのあるビストロでワインを飲みながら、くつろいだ気分でアラカルトを頼み、食事を済ませた。温かいオリーブブレッドが思いの外美味しい、と沙良さらは思った。


 少し上気した頬で彼女は店を出た。この辺りは外国人の居留地だったので、まるでヨーロッパの街角の雰囲気がある。


 また腕を組んで歩く。寄り添うと、心なしか暖かく感じる。

(―――次は、何処へ行くのかな・・・)


 学生時代から、ずっと行き先は俊彦任せだった。ふわふわしていると、俊彦が沙良に言った。


「昔さ、花時計によく行ってただろ?

・・・あれ、移転したんだよ。知ってた?」


「知らなかった。何処に?」

 同じ街にいるのに、子ども連れの施設くらいしか分からなかった。


「公園の一番海側だよ。行ってみる?」


 学生時代でお金の無かった頃、花時計は人けもなく、緑陰があるので座ってよく休憩した。思い出の場所、と言えば言えるのかもしれない。





 ふたりは、公園の大理石で出来たベンチスペースに並んで腰を掛けた。


 俊彦は、目を細めてタバコを吸っていた。後ろの植え込みでは、風でカサカサと落ち葉が音を立てた。


「・・・何で、俺たち、別れたんだろうな」


 ぼそりと俊彦はつぶやいた。その真意ははかりかねたが、沙良はふと、大学時代の記憶を蘇らせた。


「俊くん。・・・私ね、俊くんが東京の大学に行ってから、寂しかったの。

 LINEのやり取りも、だんだん心を感じなくなって・・・」


「・・・回数も、減っていってたかもな」


 俊彦は煙を吐きながら、遠くのほうを見ていた。


 言ってしまおう、この機会に、と沙良は思った。


「―――『既読』が中々つかないとね、何か悪いことばかり考えちゃって。

 無視してるのかな、とかね」


 彼女にはそこまで言うのが限界だった。


(―――私じゃない女性を、好きになったのかな、とかね・・・)


 実際、俊彦は東京で新しい彼女(のちの妻)が出来たのだ。


 俊彦は沙良の話を聞きつつ煙草をふかしていたが、どこかのポケットから携帯灰皿を出して、吸殻を入れた。




「―――沙良」


 俊彦は沙良の背に手を回し、自分の身体に引き寄せた。


 その途端、沙良の目からぽろぽろっと涙がこぼれた。過去の泣いた記憶が解凍されて、溶け出したように・・・




 俊彦が唇を動かすのを、沙良は耳もとで覚えた。


「ごめんな・・・辛い思いさせてきて。

 ・・・俺、離婚も含めて、色々分かったんだよ。


 何もかも流れに任せちゃ駄目だって・・・


 違和感があるときは、きちんと話し合わないと、取り返しのつかないことになるんだ」


 そして、俊彦は少しふたりの身体を離して、沙良の顔を真正面から見た。


「・・・沙良。これからは、俺らは何でも言い合おう。時間と、距離を埋めるんだ」


「俊くん・・・」


 沙良は涙が止まらなかった。何年も何年も、(前の夫に対しても)こいねがってきた言葉を、俊彦は発していた。


「有難う・・・そう、する」


 俊彦は(珍しく)ハンカチを差し出したが、彼女は手で断って、バッグにある自分のハンカチを出した。


「・・・私もね、何も言えなかったのが悪かったの。

 
 ずっと俊くんと別れても消化不良で・・・

 この間の同窓会で、思い出にピリオドを打つつもりだったの」


「・・・うん」


 俊彦は沙良の肩に手を掛けていた。


「独身になったとは思わなくって。


 ・・・でも、会って話せて良かった」


 沙良が微笑みかけると、俊彦はまた彼女をしっかり抱き締めた。


「俺も良かったよ・・・沙良」

 
 俊彦は、片手でコートのポケットを探った。

「・・・プレゼント。大したものじゃないけど」


「―――!?」


 沙良は、プレゼントボックスを見るなり、俊彦の両袖をぎゅっと掴んだ。


「どうしよう―――忘れてきちゃった!

 私も、俊くんのプレゼント、手袋を買ってたのに・・・」


 動揺する沙良を見て、俊彦は吹き出す。


「・・・そういうとこ、変わってないな」


「え、どうしよう・・・

 ―――あ」


 沙良も自分のコートのポケットを慌てて探っていたが、目を見開いた表情から、一瞬動きが止まった。



「そうだ・・・これ」


 彼女がそう言って、ゆっくりとポケットから取り出したのは、小さなツリーのオーナメントだった。





「・・・サンタだな」


 沙良は、泣き笑いになった。


「俊くん。俊くんは、私の人生のサンタクロースだわ。

 ・・・これ、あなたにあげる。持っていて欲しいの」




▶Que Song

いとしのエリー/宮本浩次(COVER)

【fin】




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 また、次の記事でお会いしましょう!



🌟Iam a little noter.🌟



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