![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/161306573/rectangle_large_type_2_58993b3c6427d9cbd4f16f602ae7cf1a.jpeg?width=1200)
水槽の彼女〜カバー小説【12】|#しめじ様
この小説は、しめじ様のnoteからインスパイアされてカバー小説にさせて頂きました。
今回で最終話なので、元のしめじ様のお話から、これまで(11話まで)のお話を添えておきます。
![](https://assets.st-note.com/img/1731220536-YQOjquKrmXasDRB1cJUn8Pfh.jpg?width=1200)
〜夕焼けに染まる温泉ホテルと
若妻と娘と異国のパパ〜
↓ ↓ ↓
![](https://assets.st-note.com/img/1731220411-83PBgGHI67pYMtiKvudewUar.jpg?width=1200)
〜水槽の彼女〜
↓ ↓ ↓
《登場人物》
・僕…34歳。ひとり暮らし
・優愛…ハイティーン。崩壊星《collapser》の瞳をしている。異国のpapaから離れたがっている。
・異国のpapa…世界的な画家。
海外へ仕事で行く予定。
・りら…彼女の齢の離れた父親の違う妹。
「彼女」を母親だと思っている。
―――
《11話ハイライトシーン》
優愛はそう言って、何日かぶりにゆっくり僕に微笑みかけた。
「papaもそうよ・・・絵を描くこと、芸術アートにかけては、ふだん話さないのに、とても饒舌になるの。
もっと、ふだんがわかり易いと良いんだけれど・・・」
優愛の目は、僕を通してpapaを見ていた。今夜は崩壊星の冥い瞳ではなかった。
・・・慈しみ、諦め、戸惑い、不安。
様々な感情が、瞳にゆらゆらと映っていた。
―――もしかしたら、優愛は。
僕の中でひとつの疑問が浮かんで、身体を締め付けた。
締め付けられた僕は、知らぬ間に、何かを期待していたことにようやく、気付いたのだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1731214257-QB7mR2eUNoHgWAGxEyqaTXYv.jpg)
優愛と僕は、同じ屋根の下で、微妙なバランスの関係を保っていた。何しろ彼女は女子高生の年頃。もし一線を越えると、未成年淫行の罪に問われるかもしれない。18歳になったかどうかは、改めて訊いていなかった。
僕が働いている間、彼女はハウスキーピングを適度にこなしてくれたし、僕の食事の水準は、飛躍的に良くなっていた。彼女曰く、
「そういうことをするのは、自分も快適になるし、苦にならない」
らしい。
洗濯だけは、自分の下着を出すのが憚られて、浴室でひとり洗っていたが・・・
いつしか僕は、優愛を「彼女」とか「奥さん」というのではなく、(おかしな話に聞こえるかもしれないが)「母親」のように感じていた。
恐らく、妹りらの世話をずっとしてきたのが彼女の身体に馴染んでおり、同じように僕のことを扱ったのが大きいだろう。
風邪を引いて熱を出した日。出張に出るため、早朝に起きて準備をした日。優愛は当たり前のように側に寄り添い、僕を気遣った。
―――ある意味、寝床を提供した以上の恩恵を、僕は受けていたかもしれない。日常の便利さだけでなく、失った実の母の愛情の残像を、優愛に求めていたかもしれない。
![](https://assets.st-note.com/img/1731215230-mqLIEWQ5XTScMF6tVKnAgPeb.jpg?width=1200)
そんなだから、優愛が塞いでいる様子を見せたとき、調子を取り戻してほしくて、僕は思いつく限りの元気になる手段を示した。
だが、それは、残念なことに僕の自己満足に終わったようだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1731217058-4UofxwGWu36zeiVpEMFCHJ05.png)
真夜中、トイレに起きて、リビングダイニングの部屋を横切ろうとしたとき、優愛がひっそりとテーブルの前に座っていた。
「―――え?起きてたんだ」
と僕が声を潜めて言うと、
「そうなの。・・・眠れなくて」
優愛は【balance,】と書かれたマグカップを少し持ち上げた。
トイレから出て手を洗い、優愛の向かい側にチェアを引いて座った。
「最近、よく眠れなくなった?」
「・・・・・」優愛はマグカップを両手で囲むようにして、黙った。
僕はずっと気になっていたことを言った。
「・・・papaや、りらのことが気になってるの?」
優愛の指がぴくりと動いた。彼女はやはり、「アーティスト」「papa」「りら」の言葉に反応するんだな、と思った。
「コウ・・・」
優愛は俯向いていたが、顔を上げて僕の名前を小さく叫び、しのび泣いた。
「―――駄目なの。papaの辛そうな顔が、記憶から離れないの。
mamaが車道に飛び出したのは私のせいで、
りらからmamaを奪ったのも私のせいで、
papaは私をモデルにしたせいで、人生が狂ってしまった。
私は、・・・私が赦せないの」
優愛は泣きつつ、一気にそう言って、いたたまれなさに立ち上がった。
僕は、そのまま家から出て行ってしまいそうな優愛を止めるために、自分もチェアから立って近付き、彼女の肩を引き寄せた。
「どうしよう。・・・私、どうすればいいの・・・」
優愛は喘ぎ、声を振り絞っていた。彼女の台詞は、実家から飛び出した僕の過去の想いと重なった。
「大丈夫。大丈夫だよ・・・」
![](https://assets.st-note.com/img/1731217043-tR015bzQ2JuA8HIXYTFMfgvj.png)
頼りなく涙を指で押さえている優愛の手を取って、僕は優愛を自分の部屋に導いた。
そして、ふたりでベッドに入り、優愛の身体と心を暖める形に包み込んだ。儀式みたいに。
「コウ・・・」
優愛は僕にしがみつき、濡れた頬を僕の頬に付けて、耳元で名前を呼んだ。僕は衝動につき動かされ、優愛の柔らかい唇に自分の口を押し付け、舌を絡めた。
![](https://assets.st-note.com/img/1731217759-OLW3fyrXRQBY7hgpqNa4UTcG.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1731223323-WiBPlQKehCDwkFSExsr9nHaq.jpg?width=1200)
何度も何度も、大きな波が僕たちを攫って行った。
そしてそのあと、「眠り」という死が訪れた。
―――
・・・遅い目覚めの朝。
優愛は、跡形もなく消えていた。
虚ろになりながら、Tシャツとトランクスの姿でリビングへ向かうと、メモがローテーブルに残されていた。僕はソファに腰をおろした。
コウへ。
何も言わずに出てごめんなさい。
今までありがとう。
もう一度、もっと大人になるまで
ひとりで考えます。
papaといつか外国へ行くか、
あなたみたいな優しい人を
見つけるか。
大人になれば、
誰にも怒られず、
自分の道を選べるでしょう?
色々と教えてくれてうれしかった。
また会えたら、
―――“また会えたら”、に続く言葉はなかった。それが彼女らしい遠慮なのか、それとも完全な離別を意味するのか、メモでは判別できなかった。
僕は読んでから、メモを小さくたたんでテーブルに置き、両手で顔を覆った。
―――水槽から出た魚は・・・
無事に生きて行けるだろうか?
―――頼りない優愛の心を受けとめる器に、僕はなりたかったんだよ。
でももしかしたら、頼っていたのは僕のほうだったかもしれない。彼女の目の破壊星が消えてしまう太陽に、なれなかったのは確かだ。
―――“また会えたら”。
今度こそは、優愛をしっかりと捕まえる。僕も・・・papaよりも誰よりももっと、君のために強くなってみせるよ。
▶Que Song
Afterimage/Dios
【fin】
しめじ様、お話のアイデアを頂き、誠に有難う存じます。
思いの外長篇となりました。お気に召して頂ければ幸甚です。またよろしければ、コラボよろしくお願いいたします🙇
![](https://assets.st-note.com/img/1731221413-yfRarJLBPT7dGAg3ZCmqN5cQ.png)
お読み頂き有難うございました!!
スキ、フォロー、コメント、シェアなどが励みになります。
また、次の記事でお会いしましょう!
🌟Iam a little noter.🌟
🤍