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水槽の彼女〜カバー小説【12】|#しめじ様


 この小説は、しめじ様のnoteからインスパイアされてカバー小説にさせて頂きました。


 今回で最終話なので、元のしめじ様のお話から、これまで(11話まで)のお話を添えておきます。


【元のお話】

〜夕焼けに染まる温泉ホテルと
若妻と娘と異国のパパ〜

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【BRILLIANT_Sカバー小説】

水槽の彼女〜

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《登場人物》



・僕…34歳。ひとり暮らし


優愛ゆあ…ハイティーン。崩壊星《collapser》の瞳をしている。異国のpapaから離れたがっている。


・異国のpapa…世界的な画家。
海外へ仕事で行く予定。


・りら…彼女の齢の離れた父親の違う妹。

「彼女」を母親だと思っている。



―――


《11話ハイライトシーン》


 
優愛はそう言って、何日かぶりにゆっくり僕に微笑みかけた。



「papaもそうよ・・・絵を描くこと、芸術アートにかけては、ふだん話さないのに、とても饒舌になるの。

もっと、ふだんがわかり易いと良いんだけれど・・・」



 優愛の目は、僕を通してpapaを見ていた。今夜は崩壊星コラプサーくらい瞳ではなかった。


 ・・・いつくしみ、諦め、戸惑い、不安。
様々な感情が、瞳にゆらゆらと映っていた。



 ―――もしかしたら、優愛は。



 僕の中でひとつの疑問が浮かんで、身体を締め付けた。



 締め付けられた僕は、知らぬ間に、何かを期待していたことにようやく、気付いたのだった。

「水槽の彼女〜カバー小説【11】」




 優愛ゆあと僕は、同じ屋根の下で、微妙なバランスの関係を保っていた。何しろ彼女は女子高生の年頃。もし一線を越えると、未成年淫行の罪に問われるかもしれない。18歳になったかどうかは、改めて訊いていなかった。


 僕が働いている間、彼女はハウスキーピングを適度にこなしてくれたし、僕の食事の水準は、飛躍的に良くなっていた。彼女曰く、


 「そういうことをするのは、自分も快適になるし、苦にならない」


 らしい。


 洗濯だけは、自分の下着を出すのがはばかられて、浴室でひとり洗っていたが・・・


 いつしか僕は、優愛を「彼女」とか「奥さん」というのではなく、(おかしな話に聞こえるかもしれないが)「母親」のように感じていた。


 恐らく、妹りらの世話をずっとしてきたのが彼女の身体に馴染んでおり、同じように僕のことを扱ったのが大きいだろう。


 風邪を引いて熱を出した日。出張に出るため、早朝に起きて準備をした日。優愛は当たり前のように側に寄り添い、僕を気遣った。


 ―――ある意味、寝床を提供した以上の恩恵を、僕は受けていたかもしれない。日常の便利さだけでなく、失った実の母の愛情の残像を、優愛に求めていたかもしれない。




 そんなだから、優愛がふさいでいる様子を見せたとき、調子を取り戻してほしくて、僕は思いつく限りの元気になる手段を示した。


 だが、それは、残念なことに僕の自己満足に終わったようだった。






 真夜中、トイレに起きて、リビングダイニングの部屋を横切ろうとしたとき、優愛がひっそりとテーブルの前に座っていた。


 「―――え?起きてたんだ」


 と僕が声をひそめて言うと、


 「そうなの。・・・眠れなくて」


 優愛は【balance,】と書かれたマグカップを少し持ち上げた。


 トイレから出て手を洗い、優愛の向かい側にチェアを引いて座った。


 「最近、よく眠れなくなった?」


 「・・・・・」優愛はマグカップを両手で囲むようにして、黙った。


 僕はずっと気になっていたことを言った。


 「・・・papaや、りらのことが気になってるの?」


 優愛の指がぴくりと動いた。彼女はやはり、「アーティスト」「papa」「りら」の言葉に反応するんだな、と思った。


 「コウ・・・」


 優愛は俯向うつむいていたが、顔を上げて僕の名前を小さく叫び、しのび泣いた。


 「―――駄目なの。papaの辛そうな顔が、記憶から離れないの。


 mamaが車道に飛び出したのは私のせいで、


 りらからmamaを奪ったのも私のせいで、

 papaは私をモデルにしたせいで、人生が狂ってしまった。


 私は、・・・私がゆるせないの」

 

 優愛は泣きつつ、一気にそう言って、いたたまれなさに立ち上がった。


 僕は、そのまま家から出て行ってしまいそうな優愛を止めるために、自分もチェアから立って近付き、彼女の肩を引き寄せた。


 「どうしよう。・・・私、どうすればいいの・・・」


 優愛はあえぎ、声を振り絞っていた。彼女の台詞は、実家から飛び出した僕の過去の想いと重なった。


 「大丈夫。大丈夫だよ・・・」





 頼りなく涙を指で押さえている優愛の手を取って、僕は優愛を自分の部屋に導いた。


 そして、ふたりでベッドに入り、優愛の身体と心を暖める形に包み込んだ。儀式みたいに。


 「コウ・・・」


 優愛は僕にしがみつき、濡れた頬を僕の頬に付けて、耳元で名前を呼んだ。僕は衝動につき動かされ、優愛の柔らかい唇に自分の口を押し付け、舌を絡めた。







 
 何度も何度も、大きな波が僕たちをさらって行った。

 

 そしてそのあと、「眠り」という死が訪れた。



―――

 


 ・・・遅い目覚めの朝。


 優愛は、跡形もなく消えていた。


 うつろになりながら、Tシャツとトランクスの姿でリビングへ向かうと、メモがローテーブルに残されていた。僕はソファに腰をおろした。





 コウへ。



 何も言わずに出てごめんなさい。

 今までありがとう。



 もう一度、もっと大人になるまで

 ひとりで考えます。



 papaといつか外国へ行くか、

 あなたみたいな優しい人を

 見つけるか。



 大人になれば、

 誰にも怒られず、

 自分の道を選べるでしょう?



 色々と教えてくれてうれしかった。

 また会えたら、






            


 
 ―――“また会えたら”、に続く言葉はなかった。それが彼女らしい遠慮なのか、それとも完全な離別を意味するのか、メモでは判別できなかった。


 僕は読んでから、メモを小さくたたんでテーブルに置き、両手で顔を覆った。


 ―――水槽から出た魚は・・・



 無事に生きて行けるだろうか?



 ―――頼りない優愛の心を受けとめる器に、僕はなりたかったんだよ。




 でももしかしたら、頼っていたのは僕のほうだったかもしれない。彼女の目の破壊星コラプサーが消えてしまう太陽に、なれなかったのは確かだ。



 ―――“また会えたら”。



 今度こそは、優愛をしっかりと捕まえる。僕も・・・papaよりも誰よりももっと、君のために強くなってみせるよ。



▶Que Song

Afterimage/Dios




【fin】


 
 

 しめじ様、お話のアイデアを頂き、誠に有難う存じます。


 思いの外長篇となりました。お気に召して頂ければ幸甚です。またよろしければ、コラボよろしくお願いいたします🙇






 お読み頂き有難うございました!!


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 また、次の記事でお会いしましょう!



🌟Iam a little noter.🌟



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