この作者天才か⁉読み手の世界観を揺さぶりまくる唯一無二の奇想の書 『グラップラー刃牙』はBLではないかと1日30時間300日考えた乙女の記録ッッ
エッセイ本のふりした推しへのラブレターですッッ(でも傑作だから読むべし!)
評論とはそれで一つの作品である。って言葉を昔なんかの本で見たことがあるのだが、この本ほどそれを痛感させてくれる本もないと思う。
この本は色んな意味で完成されている。作品への愛、愛ゆえに冴え渡る分析と名言・迷言、本当に色んな意味で見どころが多い。唯一無二の作品だから、オタクの必読書としてどっかのリストに入れられるべき一冊だと思う。
いちいち名言が多すぎるッッ
この本の魅力はいくつもあるけど。まず、言い回しがいちいち声に出して読みたくなりすぎる。例えば、冒頭の「はじめに」だけでもこんなパンチ聞いた言い回しが飛んでくる。
最初に本屋でこの下りを立ち読みしたとき、私は吹き出すのを堪えるために一回本を閉じた。「顔の作画監督が違う」ってなに?ってツボってしまい、その後に「刃牙」がBLだろって畳み掛けてくる作者の圧の強さに負けた。もう、これは読むしかないって敗北を認めました。
わずか数ページしかないのに、いかに「刃牙」はBLかって流れるように説明されて、おかしいのはお前だって言われるともう頷くしかないっていうか。はいって姿勢を正して、講義を拝聴しますって気分になった。
これ、オーディオブック化しませんかね?めっちゃ面白いと思うんですよ。池澤春菜様とか小林ゆう様とか辺りに音読して頂いたらヤバイと思うんです。それくらい面白い、声に出して読みたくなる魔力がある迷言が多すぎる。
もっとも、電車とか会議とか、公共の場では間違っても聞いてはいけませんって注意書きが必要だとは思うけど。(確実に笑い出すので)
しかも始めにから後書きまでずーっとハイテンションで突っ走るから、読んでるとずーっと謎の疾走感も味わえる。ちょっとしたアトラクション気分だ。
正気なの?狂気なの?大の大人が本気出して発散する、愛と言う名のエネルギーの凄まじさ
次に研究者としての考察が行き届き過ぎて、読み手に作者は正気なのか狂気なのかって不安を抱かせる本文の熱量をこの本の魅力にあげたい。
作者の金田淳子氏はそもそもが社会学の視点で物事を研究している学者である。したがって本書でひたすら展開される「刃牙」がBLであることの考察も異様なまでの冷静さと、熱量が組みあわさって有無を言わせぬ説得力を持っている。
正直言って、私もオタク気質だから熱のこもった感想というか、ハイテンションな感想を読むのは慣れてるというか、自分もそうなるから他の人がそうなるからってそんなに動揺はしない。
しかしこの本は違う、恐らく作者も溢れ出る情熱をほとばしらせて一気に書いたのかなって思える箇所と、ふと突然冷静に分析しはじめる箇所があってそこに一種の危うい精神状態を見て戦慄を覚える。
ちょっとしたホラー体験だ。親しい友だちと話してて、「あれ、さっきからコイツなんかハイだけどこれって素?それとも薬か酒でもやってる?」ってにわかに不安を覚える恐怖感とでもいうか。
この作者、どんな顔でこの文章書いてるんだろう。これハイテンションを装ってるけど、実はめっちゃ真顔で、しかも真剣に書いてるのかな。って作者ご本にんの熱量に引きずられて、ちょっとこの作者大丈夫かな?って気になってしまう。
大半はものすごいパッションを前面に出しているのに、章の合間に登場するこぼれ話において冴え渡る作者の論考に出会う度に私の背筋は凍った。
特に主人公とヒロインの関係を巡る「おじやこぼれ話 その2」では日本のマンガにおける性愛を巡る描き方から、女性の主体性に始まり、性行為をするまでの同意についてと淡々と論じている。
いやそもそも、金田淳子氏は学者なんだから当たり前のことしてるだけなんだけど、その…温度差がね。ついてけなくって。
さっきまで愚地克己さんの私服で大荒れしてたのに、急に真面目にジェンダーの観点から見たセックス描写の話しを初めて…なんか二重人格なのかなって、ちょっと焦っちゃったんですよ。すいません。(誰に謝ってるんだろう)
とにかく、それくらい大人の本気が詰まってるってことです。(いい感じに誤魔化しを試みる)
この本ってラブレターですよね
以上好き勝手に本書の感想を書いてみたけど、読み終わってしばらく時間が経ってみて思うのはこの本は「刃牙」への愛の表明なんだなぁーってことです。
作者の金田淳子氏はフリーダムな感想と言ってますが、中を読めば分かるのは一人の読者としていかに「刃牙」に向き合っているかに尽きる。クソ真面目な論考や、BLの妄想を絡めて細々語っていても根底にあるのは作品への愛なんだなぁってしみじみしちゃいました。
「刃牙」を未読の人間がこの本でこれだけ楽しめるのって、それだけ金田淳子氏が本気出して「私はこれが好きなんだーーー!!!」って書いているからで。これだけの愛を世の中に放出出来る金田淳子氏、すごいなぁって思いました。
オタクとして、一人の人間として面白すぎる。だからこの本は完成されてるんだなぁって思う。「刃牙」ってものをこんだけ嵌って、こんだけ愛して楽しんでるっていう人間の記録として完成してる。
「刃牙」シリーズを読まなくても、こんなに楽しく、面白いんだもの。いやぁ、本当に一つの作品ですよ。作者本人は奇書と言っていますが、立派な作品として色んな人に読んで欲しい。
ということで、私は友人にこの本を貸し付けます。
推しの服装で乱れる作者の名言が面白すぎるから紹介させて来れッッ
最後になるけど、金田節が面白すぎてヒーヒー笑ってしばらく読み進められなかった箇所を紹介させて欲しい。以下、作者の推しのファッションを巡る箇所から引用。
ご乱心のあまり、作中キャラに八つ当たりしちゃうテンションが素晴らしい。なんで今回も選んでくれなかったの?って言葉に本気の哀願っぷりを感じてしまい、笑ってしまう。
そこにとどめとばかりに書かれるWhy?の三文字(スペース入り)にとどめを刺されました。完敗です。
いやもう私服を燃やすことぐらいはできるだろ‼って字面のインパクトがすごくて。この一言に至るまでのパッション溢れる言い分にそうですねってうっかり頷きそうになるけど、誰かの着替えの最中に私服を燃やすのは控えめに言わなくても犯罪です。
でも、これだけ推しのために世の中のルールすら捻じ曲げる愛なんてそうそうないんだから、ぜひとも金田淳子氏にはこのまま進んでいっていただきたい。
っていうか、続編をあと2、3年したら出して欲しい。この愛の行方を一読者は知りたいと思うのです。
↓こちらはドラマ化された本書とBLについての思いを語っている著者の勇姿が伺えるリンク