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年齢なんてただの数!南アフリカの現役サッカー選手おばあちゃん達を追ったノンフィクション『サッカー・グラニーズ』が熱すぎる!

読めば胸熱、高齢女性サッカーチームとの交流を描いた傑作ノンフィクション『サッカー・グラニーズ ボールを蹴って人生を切りひらいた南アフリカのおばあちゃんたちの物語』


 タイトルからしてもう優勝、それが本書の第一印象。だっておばあちゃんとサッカーってどういう事?ってなるじゃないですか。普段スポーツに全く興味もないし、それどころか中継だって観ない私みたいな人間を一本釣りする力がある。
 ジーン・ダフィの『サッカー・グラニーズ ボールを蹴って人生を切りひらいた南アフリカのおばあちゃんたちの物語』はサブタイ通りのスポーツと南アフリカの女性たちについてまとめたノンフィクションだ。
 それで一体、何がこの本凄いかっていうと、サッカー云々ていうよりも南アフリカの女性高齢者たちという、マイノリティ中のマイノリティというか日本にいたら絶対に考えもしない人々の集団を一気に注目の的にしちゃうところ。

ボストン在住のサッカーママ、南アフリカのサッカーおばあちゃんたちを知る

 話はアメリカはボストンでライターとして活躍する著者ジーン・ダフィがある動画を目にするとこから始まる。
 ジーン・ダフィはサッカーを楽しむ娘二人の応援に行くうちに、自身も競技サッカーを嗜むようになった根っからのサッカーファン。地元チームに所属して自分でもボールを蹴っている。
 ある日、サッカー仲間から送られてきた動画に釘付けになる。「バケイグラ・バケイグラ」という南アフリカの中高年女性によるサッカーチームが紹介されていたのだ。
(下記リンクは著者が見たものとは違いますが、短くて見やすいので貼ってあります)


南アフリカのおばあちゃんチーム「バケイグラ・バケイグラ」

 動画では砂埃の舞うグラウンドで、頭にスカーフを巻いた女性たちが軽やかな身のこなしでサッカーをしている。南アフリカという遥か彼方にも思える世界でのサッカーに著者は一瞬で心奪われる。
 インタビューをされる選手の中には心臓発作を経験したけど、今は元気と答えるおばあちゃんもいるし、友だちとボールを蹴るのが最高と顔を輝かせるおばあちゃんもいる。
 チームの年来層は下は50代で上は70代、は80代の人までいると知り、著者の好奇心は頂点へ。この元気はつらつなおばあちゃんたちは何者なんだ?と気になって仕方がない。
 好奇心の赴くままにチーム、バケイグラ・バケイグラを調べれば、ほんの数年前に南アフリカである女性が立ち上げたものだと分かってくる。
 その女性はママ・ベカことレベッカ・ンツァンウィジという人物で、南アフリカでも有名な慈善活動家だった。
 歌手として働いていたものの、あるとき癌を発病し、キャリアを中断せざるを得なくなる。術後のリハビリに運動を進められて、病院の友だちを引き連れて近所を軽く走っていたら子どもたちがボールを蹴っているのを目にして「これは一体?」と興味を持つのがきっかけ。
 サッカーなら女ともだちを巻き込んで運動が出来るとチームを作ることに。練習に興味を持つ人がいれば誰でも参加オーケーの方針で活動開始。
 そのうち別の地区でもサッカーチームを作りたい女性陣が現れる。そこでこのベカ、なんとチーム作りの手伝いから、とうとう地区リーグまで作ってしまうのだ。
 それどころかチームへの参加者が増えるにつれて監督を見つけて、さらにはチームドクターまで雇う辣腕ぶり。サッカーチームを高齢女性たちの健康をケアするコミュニティへと発展させていくのだ。
 一体全体この女の人はなんなんだ?と興奮冷めやらずジーンはどんどん調べていくうちに、バケイグラ・バケイグラとベカに夢中になっていく。

おいでませボストン!おばあちゃんたちを呼び寄せろ!バケイグラ・バケイグラ招聘プロジェクト発足

 バケイグラ・バケイグラの存在に夢中になった著者は、動画を送ってくれたチームメイトと熱く意見を語り合う。サッカーを楽しむ者同士、ぜひ会って話をしてみたい。いや、なんなら試合をしてみたい!
 ならば招待しちゃえばいい!とばかりに、なんとジーンは友人たちと力を合わせてバケイグラ・バケイグラをボストンへと招待すべく、一大プロジェクトを立ち上げる。
 実はボストンで成人向けサッカー大会が開催される予定があり、毎年海外から海外のチームを招待もしているのだ。だったら同じ枠で南アフリカのおばあちゃん達を呼べばいいってわけなのだ。

課題は山積み、時間はない。ハラハラの事務地獄

 さてプロジェクトを発足したはいいものの、いざ動き出せばこれがトラブルの連続。
 読んでて、よくこの著者倒れなかったなと思うくらいに前途多難。なにせ南アフリカで今まで海外旅行なんてしたことないおばあちゃんたちを招待するのである。
 飛行機のチケットを買うような経済的なゆとりもないし、パスポートもビザの習得の経験もない。渡航費や宿泊費の資金は?おばあちゃんたちの事務手続きの補助費は誰が出す?時間は足りるの?何もかもが「イヤ、無理でしょ」って言いたくなるほど難題続きである。 
 この終わりなき課題を著者たちは、一つ一つクリアしていく。チームメイトを中心にしたプロジェクトチームを立ち上げ、招待費の寄付を募り、スポンサーを募り、ビザの取得となれば朝から大使館に電話してと、とにかく駆けずり回るのだ。
 合間にバケイグラの代表であるベカとのやり取りが挟まり、本当におばあちゃんたちがボストンに来れるのかというサスペンス気分を否応なしに盛り上げる。
 一つ課題をクリアしたかと思えば、また次の難題が持ち上がり、果たしてジーンたちは南アフリカのおばあちゃんたちを呼べるのか?というのは読んでのお楽しみ。

サッカーだけの本じゃない!スポーツを愛することのパワーとか!他者との交流とかの魅力とか!とにかく色んなもんが熱く色々滾ったこの本の魅力を語らせてくれ!

 ここまで暑苦しく、長ったらしく内容を紹介してきた通り、この本はサッカーについてだけの本じゃない。
 サッカーを通して、今まで出会ったこともない人々に親しみを覚え、お互いに交流したいとがむしゃらに前進しまくった女性たちの記録なのだ。
 もうめちゃくちゃに熱い、本当に熱い、その熱量に読んでて何度か涙が出そうになった。
 紆余曲折を経まくって、おばあちゃんたちがボストンにやってくるところなんて、もう映像化したら絶対に泣く自信がある。このチーム招待のくだりだけでも面白いのでぜひ手にとって欲しい。

 だけれどもこの本の魅力はアメリカと南アフリカの高齢女性たちの交流だけには終わらない。構成が絶妙なのである。
 著者とおばあちゃんたちとの交流を描く章の合間に、南アフリカのアパルトヘイトの歴史を述べる章が設けられており、読者に実体験としてのアパルトヘイトとは何かを訴えてくる。
 さらにバケイグラ・バケイグラの選手たちのロングインタビューがところどころに挟まれており、読んでるとアパルトヘイトが彼女たちに与えた影響が否応なしに突きつけられる。

 この三方向からの構成によって、いかにこのおばあちゃんたちがサッカーをするのが偉大なことかと肌で感じられてしまうのだ。
 おばあちゃんたちが経験してきたことを振り替えり、かつ今も直面していることを思うと、つい応援せずにはいられない。
 しかもチーム招聘パートと、アパルトヘイトについての章は文章量もほぼ同時だから、緊張感が程よく保たれる。読み終わると、南アフリカの近代史が頭に入ってくると同時にこのおばあちゃんチームがいい意味で「やばくね?」ってなるわけだ。もう素晴らしいって言うしかない。

主役はやっぱりおばあちゃん達

 普段スポーツに興味ない人でも、いやない人にこそ読んで欲しい。華麗なプレーとかスター選手たちの活躍だけでは描けないドラマがこの本には詰まってる。
 南アフリカでアパルトヘイトがあったのは事実だし、それをただ知識とだけ知ってる他国の人間には理解しにくい。
 人種差別について話すなんて誰だって居心地悪いものだ。その感覚は白人でアメリカ人である著者にも当然襲いかかる。でも、それをどう乗り越えるのか?どうやって過去の負の遺産の上に今を、更には未来を築くのかを考える材料がここには見出されている。
 それがタイトルを飾る南アフリカのおばあちゃんたちだ、アパルトヘイトに性差別、貧困に暴力などのあらゆる艱難辛苦をかいくぐって、それでもサッカーを楽しむ彼女たちの逞しさと言ったらもう。
 はっき言ってくそカッコイイ。年齢なんてただの数、って言っても寄る年波には勝てないなんて思ってられない。負けてたまるか、自分にだってできる、そんな背中を押されるようなエネルギーに満ちた一冊でした。読めてよかった。


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