『ビンティ』 翻訳と原文の響きの違い
『ビンティ』ンネディ・オコラフォー、早川書房、2022年。
アフリカ、ナイジェリア出身の少女が宇宙有数の有名大学に進学し、家族、部族、人類と宇宙人という様々な異文化と出会いアイデンティティを更新しながら成長するSF冒険譚。
アフリカに実際にいる民族を土台にし、なおかつ風習を盛り込んだ設定で、地球のシーンは砂漠が広がるアフリカの大地であり、エキゾチックというか異国情緒が満載かと思いきや、展開される物語は成長に伴う青春の悩みという感じで大変読んでて共感しやすい優れたエンタメになっている。
この数年、中華SFや韓国SFなどのアジア系などのSFが隆盛してる中でのアフリカ系というバックグラウンドを持ったSFである。H.G.ウェルズやジュール・ヴェルヌなどに端を発する西洋の男性中心としたSFというジャンルは、今多様な言語の多様な背景を持つ作者が入って広がってきた。その傾向が連綿と続いてきており、アフリカ系というところまできている。
上記のリンクでは著者のオコラフォーが『ビンティ』の冒頭を朗読している。翻訳と照らし合わせながら聞いていると不思議な気分になる。
印象に残ったのが、主人公がアンクレットをつけていて歩くとその音がなるという描写があるのだが、原文ではjingleという語が使用されててその瞬間金属のジャラジャラという音がなった気がした。
翻訳が100%を伝えることが可能ではないとうのを図らずして実感した。もちろんjingleが日本語の翻訳から取りこぼされる意味なんて些細なことで、本筋の面白さには対して影響はない。日本語では音の鳴り響きを端的に伝える単語よりは形容詞で指示すが、英語は語彙自体にその響きを伝える性質がある単語の構成の差異を感じられて面白い動画だった。
原書に触れるとよりリアルと言うかまた違う肌触りを感じることがあるなと当然のことを感じた。差異を味わう面白さとでも言いますか。