海のはじまりの感想、なにも言えない。

私はなんていうか、「気にしない」でいられる環境で育った。環境という面で、常にマジョリティにいたと思う。
父親と母親と血の繋がった姉と4人で暮らした。それぞれそれなりに仲が良く、離婚や家出など一度も話題に上がったことがない。
私が生まれてから今日に至るまでまで、ずっと家族は4人で増えることも減ることもなかった。
妊娠することもなければ、彼氏の元カノが死んでいるだとか実は元カノの産んだ子供が現在小学生ですだとか、そんなこともなかった。好きだった同僚が死んだこともない。

最近は毎日海のはじまりを楽しみに過ごし、観てはキモいくらい号泣した。胸が苦しくて、全部仕方なくて、やるせなくて。
だから勿論、毎週毎話、それなりに感想は言っていたのだ。
だけど、全話見終わって、今言えることはやっぱり「私に言えることなんか無い。」なのだ。
先述した通り、水季や夏や海や弥生や津野や朱音、どの立場をとっても私には一切経験がないから。

みんな、何回も思ったと思う。
「水季が夏にちゃんと説明していれば!」
私もテレビの前で叫んだ。「水季が言わんからやん!」と何回言ったか分からない。結果論だと分かっていても言わずにはいられなかった。
でももし水季が夏に出産の意志を打ち明けていれば、水季は津野に出会わず夏も弥生と出会わなかった。それでいいじゃんとはきっと誰も言えない。夏と水季が離れていた約7年、彼らは確かに幸せだったから。今の辛さ無くすためならあの幸せ無い方が良かったよね、とは言えない。だから、水季が勝手に産んだのが悪いなんて、言えない。

でも、だけども、このドラマで生まれた様々な苦しみは水季が夏に大学生の頃きちんと説明していれば回避出来たものでもあったのも確かなのだ。それだから、また私は結局何も言えなくなってしまう。

詰まるところ、誰が悪いとか、誰のせいとか、そういうことを言うドラマではないのだろう。

起きたことは不可逆。だからこそ誠心誠意今に向き合って今を大切にする。そのとき、自分を犠牲にしてはいけない。ちゃんと自分を大事にする。

おそらくここが「海のはじまり」の核だ。
思い返してみれば、登場人物みんなにその瞬間があった。これが、よかったなあと思う。

それから、妊娠出産に対する男女の在り方についてがもうひとつのテーマ。
夏は確かに知らされていなかった。だけど、知らなかったから海の親としての責任は無いという訳では無い。知らなかったことは過去のことだ。知った現在どうするか夏は決めなくてはならない。知らなかったことも不可逆だが、知ったことも不可逆なのだ。知った以上、責任が生じるのは仕方ないのだ。だって、血の繋がった父親だから。

厳しすぎるだろうか。
分からない。だって、私には経験が無い。
少なくとも、このドラマではそういう描き方をしていた、と言うだけだ。
やっぱり私は結局何も言えない。

昨日バイト先で、高校生の娘さんがいるひとに「今妊娠したらどうする?産む?」と聞かれた。
今の私の状況的に、産むなら正社員として働くことは諦めなければならない。正社員にならないのは、困る。家とか保険とか将来のこと、よく分からないけど色々、困る。大学もきちんと卒業したい。じゃないと、産んだって育てられないと思う。そんな風に思考がバーッと頭に散った。
それで私は「たぶん産めないですね」と言った。心の中では「堕ろすしかないかも」と思っていた。堕ろすと言葉にはできなくて、つい「産めない」なんてまどろっこしい言い方をしてしまった。

だって、そこには命があって言葉通り私を頼りにお腹の中で生きているから。堕ろすって、裁かれないけど殺人なんだと、それで初めて自覚した。
弥生がかつて堕ろした経験があることを中々言い出せなかった気持ちが少し分かった気がした。それから、珈琲を飲む時とお風呂場で転けた時の気持ちも。

男の人は、どうだろうか。男の人にとって、まだ産まれてない自分の子がいるってどんな感じ?男の人にとって、堕ろすってどれくらい辛い?
関係性としては同じ親。親と子だ。
私は女でしかないから、分からない。分からないから、結局これにもまた、なにも言えない。

もし親になることがあれば、もう一度観ようと思う。

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