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今日の読書5/13

今日読んだ作品は、新庄耕さんの「狭小邸宅」です。

※ネタバレ、抜粋若干あります

第36回すばる文学賞受賞作品

新卒で都心の不動産会社に入った松尾の話です。
一戸建て住宅の営業ですがノルマは厳しく、日常的に暴力暴言が当たり前の世界に、心身ともに疲弊していく松尾ですが、辞めようとはしません。
「なんでやめねーんだ!」なんて上司に怒鳴られ、自分でもなんのために会社にいるのかわからないまま、松尾は会社に出勤し続けます。

お金を稼がなくてはならないわけでもなく、不動産の仕事が好きなわけでもないのです。

都心で一戸建てを買うのは並大抵ではありません。売るのももちろん大変です。
狭い土地に歪な形の家が作られています。日当たりも悪く公道にも面していない、真四角でもない土地に建てられた住宅。

それはまるで狭小邸宅を売りたくもないのに働く松尾の心のようです。

「お前らは営業なんだ。売る以外に存在する意味なんかねえんだっ。売れ、売って数字で自己ろっ。いいじゃねぇかよっ、わかりやすいじゃねぇかよっ、こんなにわかりやすく自分を表現できるなんて幸せじゃねぇかよっ…こんなわけのわからねぇ世の中でこんなにわかりやすいやり方で認められるなんて幸せじゃねぇかよ、最高に幸せじゃねぇかよ」

そんな社長のシンプルな激は、彼の心には響きません。

変わりに、少し冷めた売り上げトップを5年間取り続けた伝説の営業マン豊川課長の言葉に心が揺さぶられます。
「いや、お前は思ってる、自分は特別な存在だと思ってる。自分には大きな可能性が残されていて、いつか自分は何者かになるとどこかで思ってる。俺はお前のことが嫌いでも憎いわけでもない、事実は事実として言う。お前は特別でも何でもない、何かを成し遂げることはないし、何者にもならない」

その後、松尾は豊川課長の元で、営業として開花していきます。

途中で松尾がノウハウを駆使して戸建て住宅をお客さんに売りつけるシーンは、読んでいるこちらが松尾になりきったような高揚感に囚われます。

ですが、歪な土地に建てられた建物は大きくなるほどに歪になっていきます。

一流営業マンとなった松尾は…

わけのわからない歪な世界に生きながら、その世界を愛することができない人たち。
そんな自分を特別だと思って、何かを探し彷徨ったり妥協したり自分を殺したり周りを殺したり、そんなやるせなさに浸った作品でした。

そして、そんな世界で生きていく覚悟を持たせてくれる作品でもありました。



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