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霞が関で 頭が霞んだのだね、という話

マスクが必須の生活になる前のお話。


*   *   *


お役人様からお達しをいただきまして
その申し開きに行ってきたのです。


わたしのような水呑み百姓風情が
お役人様に物申すなんて
想像したただけで罰が当たりそうなものですが
「この言い分は外しておるね」と思ってしまったのだから
仕方ないのです。

四民平等の時代でございます。
男女平等の時代でございます。

心では「ええかげんにしなはれ」と思いつつもぐっとこらえ
「マジご理解いただきたいんですけど」
と三つ指ついて申し上げるのでございます。


ある平日のお昼時、
大都会であるところの銀座線・虎ノ門で駅をあやまたずに降り、
例によって上り階段にけっつまづきながら

「いえ、今つまづいたのは決してアタシじゃござんせん」

みたいな白々しい顔をつくり
何とか地上までたどり着きまして
そのまま相変わらず焦点の合わない顔で周りを見渡したのですが
すると
なんだか賢い顔のおじさんがたや
いかにもぴりっとした隙のない雰囲気のお姉さん方なんかが
信号待ちをしているのに気づいて

「おお、これが最高学府を出た官僚の皆様方のお昼の表情か」

と勝手に思い込み
ある種の観光気分になった私はうれしがってその中に混じり
当然のような顔をして信号待ちしておったのですが
私だけが水呑み百姓風情で顔の焦点が合ってないものですから
信号待ちの雰囲気だけで劣等感に苛まれ
いますぐにでも泣き寝入りしたい気分なのでございました。


しかし
あの場所はなぜ霞が関というのでしょう。
中心で行われていることは
周りからみるといかにも霞がかっていて
なにやら曖昧模糊としておるようにみえるから、
というつまらない理屈によるのであろうか、
と短絡的なことを考えていると
そういえば
ロラン・バルトが「表徴の帝国」とかなんとか言ってたのを
思い出したのでした。

空虚な中心。だったか。
大都市の中心に皇居(都市生活とは無縁の緑地)があって
その周りを都市がぐるぐるとまわって活動している、
ということだったような気がする。
ふーん、なるほど、である。

そうすると
日本の政治経済活動の中心が霞が関であるとして
その日本の中心は、なにか輪郭がはっきりしないもののようで
中心に空虚がある、というか
実体とされるものの存在を肯定しない、
なんだかまるで角界のようではないか、
これは日本語が物事を言い切るのをよしとしない傾向を持つことと
何かしらリンクしているようにも思われ
そんな中二病のようなつまらぬことをぐるぐる考えて
それでいて
私の頭の中心には何もないのであった。

何ということであろうか。
私の頭の中と日本の構造@ロラン・バルト とがフラクタルである。
この瞬間に私と日本とは一体なのであって
もはや分かつことはできないのであった。

何を言うてるのであろうか。
阿呆である。
ごじゃごじゃ言うてんと
周りの方々の迷惑にならんよう
はよまっすぐ歩かんかいな。


とか言うてはおるものの。

私は目的の建物がどれかわからず
顔の焦点が合わないばかりか、目的地の焦点までぼやけており
行き先が霞がかっているなんてさすが霞が関ですねぇ(失笑)、
なんて愚かしい発言をして
思考がうすのろの海に転覆しかけたところで
「変にうろうろしてホンモノの不審者だと思われると
 まあ、なんと申しましょうか、ガチで困ることだなあ」
と内なる声によってうつつの世界に戻ってきた私は
「あのう、これからお役人様とお約束がございまして
 その方のおられる建屋はいったい・・・」
と、もはやどこだかわからないビルの入口で
両手を後ろに回し背筋を伸ばして一所懸命業務に励む警備員の方に
恥をしのび一世一代の勇気を振り絞って尋ねたのです。

すると何たることか
わたしが言い終わらないうちに「あ、となり」と言われ
わたしは顔から火が出るような思いで、
最高学府を出た超エリーーートの皆様方は決して
目的の建物の隣まで来ておきながら
こんな間の抜けたことは聞くはずがない、
うっかりここまで来ておりながらそんなことを聞くなんて、
もうこの時点でそびえ立つビルに見下ろされ、
心なしか見下されているようにも思えて、
お役人様に対する申し開きもなにも、
その場所にたどり着くので精一杯ではないか、
これ以上何を望むというのだね、
もうね、ここまで来たことを褒めてほしいのですよ、
申し開きもなにも、ここまでたどり着いた私を褒めてください。

そこへ行けばどんな夢も叶うというではないか、
いやちがうのだぞ、それはガンダーラだぞ。ゴダイゴであるぞ。
ここは霞が関である。


ところで
私は霞が関へ何をしにいったのであろうか。



遠足なのであった。
なぜなら平日であったのだから。

そうして、
お役人様にちょっとした申し開きをしたあと
目立たないように立呑み屋へ行って唎き酒をしたのです。

そう、遠足だったのですよ。
遠足というのは家に帰るまでが遠足なのです。



ちゃんと帰んなはれや。

ヾ(*´∀`*)ノ




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