見出し画像

【短歌エッセイ】近所の公園で2人だけの花見歌会

 この時期になると、毎年パートナーと花見歌会を行う。私と違って、普段パートナーは短歌を詠まないが、この歌会においては年一回のお勤めのように、私に付き合ってくれる。



 「コーヒータイムを共に」という記事にも書いたように、私のパートナーは、人生にはお菓子が必要だ、と考える人だ。だから歌会にもお菓子が欠かせない。和菓子にはお茶を、洋菓子にはコーヒーを一緒に。

 つまり私達の花見は宴会ではなく茶会なのだ。桜を眺めながらお茶とお菓子を頂き、その時間を味わって歌を詠む。パートナー的には、それが風流で良い、とのことだ。

 昨年は外出自粛要請が出ていた状況下、花見歌会は見送らざるを得なかったが、まだ収束していないとは言え、今年はそこまで厳しいことは言われていないので、天候次第で行うつもりだった。

 私の地域の桜は概ね満開状態で、お互いの都合が合う来週末までは持たないと思われた。この日、天気は朝から雨で、今日やれなかったら今年は中止かな、と思っていた。

 午後2時くらいには雨は止み、空は曇って地面もぬかるんでいると思われたが、取りあえず行ってみることにした。私とパートナーはお茶とお菓子とビニールシートを持って、花見歌会へと出かけた。

 私達の住む住居の北西には大きな遊水公園があり、一昨年はそこの桜を見に行った。しかしパートナーは、自住居の南側に隣接する小さな公園にも桜が咲いているのを見て、「ここでもいいんじゃない?」と提案した。

 私達は、ぬかるんだ道や水たまりに遭遇する可能性を避け、誰もいない小さな公園で花見歌会を行うことににした。木のベンチは濡れていたが、持って来たビニールシートを座面と背もたれにかけて、座る場所を確保した。

 私達はベンチに座り、それぞれのスマホでまず桜の写真撮影をした。見出し画像の桜はその時撮ったものだ。そしてお菓子を広げてお茶と共に頂きつつ、桜を眺める。

 まだ空に雲は広がっているものの、淡い光を浴びて立つ桜に微かに風が吹き、それに呼応するかのように、はらり…はらり…と花びらが散る様子は、穏やかに過ぎ行く時間と同時に、非日常的不可思議さを感じさせる。

画像1

 私達はお菓子を食べ終え、短歌作りへと移行する。以前は紙と鉛筆を使っていたが、今は電子的なメモ帳へ打ち込むスタイルだ。あれこれ思案を経て、それぞれに短歌を完成させた。

 出来上がった短歌を、それぞれ読み上げて披露する。以下が私の作ったものだ。


 「花曇り ゆっくりと舞う 花びらが 時の流れを 支配して降る」


 少しきょとんとしているパートナーに、ゆ~っくりと花びらが舞い散る様子が、まるで時の流れを操っているようにも見えたのだ、と説明すると、パートナーは「支配しちゃうのがカッコイイね」と言って笑った。

 続いてパートナーが読み上げた短歌が以下のものだ。


 「雨上がり マスク越し見る 桜花 じっと息止め しばし眺むる」


 私は頷きつつ、「今の時世を取り込んだ、コロナ禍ならではの歌だね」と感想を言った。そして、「概ねいい感じだけど、古語にするなら『眺むる』じゃなくて『眺む』になって字足らずになるよ」と告げた。

 理由を問うパートナーに私は、「これは下二段活用だから、『眺めず、眺めて、眺む、眺むるとき、眺むれば、眺めよ』と変化するんで、終止形は『眺むる』じゃなくて『眺む』になるんだよ」と説明した。

「じゃあどうしたらいいかな?」と問うパートナーに私は、「古語はこの部分だけだから、古語をやめて『眺める』にしておけば、きれいに収まるよ」と答えた。以下が同意したパートナーの修正後の作品だ。


 「雨上がり マスク越し見る 桜花 じっと息止め しばし眺める」


 私は返歌を作っておくことを約束し、花見歌会は終了となった。お菓子の空パックやお茶やビニールシートを片付けて持ち帰り、私達は公園を後にした。公園は再び無人に戻った。

 その後、パートナーの短歌の、『しばし』が古語なのではないかと気になったが、調べると、口語より文語として使われる、という説明はあったが、古語辞典にも国語辞典にも載っていたので、古語扱いしなくても大丈夫だと判断した。

 その上で、パートナーの短歌に対して返歌を作った。返歌というのは、手紙の返事のようなものだ。とは言え、今回のパートナーの短歌は私宛のものではないので、単にリアクション短歌だと思ってもらえればいい。以下がその返歌だ。


 「来年は もっと気楽に 観れるよう 共に願うよ 疫の収束」


 パートナーは、大きく頷くと拍手をくれた。


 パートナーとは、「今年は無事お花見ができてよかったね」と言い合った。ここで言う『お花見』とは、お茶会と歌会の全てをひっくるめたものだ。

 また来年も無事に行えることを願っている。





 最後まで読んでいただきありがとうございました。
 よかったら「スキ」→「フォロー」していただけると嬉しいです。
 コメントにて感想をいただけたらとても喜びます。

いいなと思ったら応援しよう!

瑳月 友(さづき ゆう)
ありがとうございます。

この記事が参加している募集