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降谷建志のお父さんって探偵だったってね|Essay

金田一耕助が死んだ。いや正確には古谷一行の逝去の報だが、小生には金田一耕助=古谷一行と刷り込まれているから、こう言わざるを得ない。

1977年4月にはじまったTBSの連続ドラマ『横溝正史シリーズⅠ』と、続編の『横溝正史シリーズⅡ』で金田一耕助を演じたのが古谷一行。その前年に市川崑監督の角川映画『犬神家の一族』が公開されブームを呼んだが、それに主演したのは石坂浩二。小生にとっては古谷一行のほうがムサくて、金田一耕助のイメージに近かったのだ。

また、金田一耕助は大概は事件が起こるのを防ぐことはなく、一連の殺人が終わったあとで、謎解きをして犯人を特定する役回りである。そのちょっとダメさ加減が、インテリの石坂浩二がまとう雰囲気ではなかったよなあ、とも思う。彼のスマートさなら明智小五郎のほうがよく似合いそうだ。

小生はこの金田一耕助シリーズが大好きだった。演出がこわくて、謎が謎を呼んでミステリアスで、映像にはザラつきがあって、時代設定も昭和初期だからノスタルジックで、とにかくエモかった。夜10時という遅い時間の放映だったが、土曜日だったので、子どもも視聴するのが許されたのだ。

特に印象に残っているのが「悪魔の手毬唄」。ここで挿入されるバージョンの手毬唄がベストテイクだと思っている。「真珠郎」も好きだ。原作では金田一耕助が登場しないというレアさがいいし、理由は不明だが、乙骨という登場人物にドはまりした。いや「三つ首塔」の真野響子もお慕い申し上げます。

主題歌がまたよかった。茶木みやこという不可思議な女性ボーカリストが訥々と歌う。その世界観が独特で、ちょっとゾクゾクする感じなのだ。

「まぼろしの人」
作詞:寺山寿和 作曲/歌:茶木みやこ

⇧貼り替えました(2024.03.20)

陽炎揺れる名もない駅に
遠い汽笛のゆらめきが
かすかな余韻を残す頃
見上げた空には静けさが満ちていた
なのにこの同じ空の下
暗い思い出の残り火を
吹き消すようにみじろいだ
あの人は幻だったのでしょうか

「あざみの如く棘あれば」
作詞:阿久悠 作曲/歌:茶木みやこ

あなたの紅いくちびるは
いつから歌を忘れたか
酔いどれ酒をそそいでも
道化ることもなくなった
あざみの如く棘あれば
悲しい心さらさずに
この世を生きて行けようが
はかない花は罪を負う

これらの曲の季節感は小生にとっては「晩夏」だ。”陽炎揺れる”も”幻”も”あざみ”も、(かなり強引だが)盛りをすぎた夏の季語なのだ。

ドラマの余韻が残るまだ暑い夏の夜、エンディングを聞いてさらにエモくなる小学生の自分がいた。いま聞きかえしても、そのときのヒリヒリする情感はよみがえりはしないのだけどね。

*この記事の初稿は2022年9月8日です。


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