十五夜、レゲエ、波打ち際、ときどきジャークチキン|Liner-note
みなさんは中秋の名月をどうすごしますか? 今年は暦の関係上9月17日と少し早く、まだ秋らしさが感じられないなかでのお月見になりそうですね。
ふだん音楽をあまり聴かなくなったボクだけど、今年はレゲエを聴きながら月見したいなと準備してるんだ(沖縄は台風の影響あるかな?)。理由その①は、そろそろ痩せきった心の菜園に水を与えるための音楽鑑賞が必要だと感じているからで、理由その②は、かつてコパン遺跡の町での思い出がよみがえったから。
コパン・ルイナスはこじんまりとした雰囲気のいい観光地。昼間もいいが、夜の帳とともに静けさが訪れる。石畳の道を歩くと、カフェや小さなレストランが旅人を歓迎するように明るく灯りをともしている。
一片の雲も叢雲もない月夜に、ボクと友だちはこの町の小さなカフェでコーヒーカクテルを飲んでいた。ローライトのこじゃれた店内には、クラプトンの「Wonderful Tonight」がレゲエバージョンで流れていた。はじめて聴くけど、メチャクチャ心に染みた。Kotchのハイトーンボイスが、まるでマヤの神々の祝福のように感じられた(何度も聴くと、音がライトすぎて物足りないんだけど、前菜としてどうぞ)。
"Wonderful Tonight" by Kotch
そんな思い出があるから、月にレゲエ、月にボブ・マーリーの選曲をしてみた。そう、「花鳥風月」というキーワードに紐づけて、砂浜でシッポリ聴くためにね。
風
そのものズバリの”Wind”や”Breeze”の単語は、スタジオ・ワンからの初期作品を含めてもあまりみあたらない。”She softly wind up her waistline, it's extra-curricular”という歌詞が「Kinky Reggae」にあるが、自然の風を歌っているわけじゃない。
ならば“Storm”ではどうだ?「Ride Natty Ride」のサビメロの後に、”Riding through the storm, Riding through the calm”というフレーズの箇所がある。かっこいい対句だね! でも“Storm”自体が「花鳥風月」にそぐわないかな。
一番しっくりくるのは「Natural Mystic」の”Air”じゃない? 熱帯の湿って重い空気の粒を連想するね。那覇空港に初めて降り立った日のことを思い出すよ。『Exodus』収録。
"Natural Mystic" by Bob Marley & The Wailers
月
“Moon”というフレーズが出てくる曲のうち、「Concrete Jungle」はセッティングがちょっと違う。「Turn Your Lights Down Low」はいいけど、この曲はローリン・ヒルが『Chant Down Babylon』で取り上げて以来スキになれない。ボクはリタおばさんが傷つくことはキライだからね。
残るは「Night Shift」か「Stiff Necked Fools」だけど、後者にしよう。最晩年の録音で死後にリリースされたアルバム『Confrontation』から。ジャケットの絵のように、怪物=権力者に痛烈な皮肉の槍を突き立てる。決して目立つ曲ではないが、抑揚をおさえた美しいメロディと素朴なキーボードのベースラインが心地よい。
“Stiff Necked Fools” by Bob Marley & The Wailers
花
“Flower”もマーリーさんは使わない単語だよね。初期の「Lemon Tree」「What’s New Pussycat」には紛れているがパッとしない。「Rock To The Rock」には”But the trees have time to blossom Change their leaves”ってフレーズがある。でもこのへんの曲は聴いたことがあるかどうかわからないくらいなじみがない。
そんな曲をとりあげるのも憚られるので、花から離れて果実のほうにシフトするよ。狙うは”Guava”だ。
グァバはフトモモ科の低木で、沖縄ではバンシルーと呼ぶ。春に咲く花は、小さな白い花弁にたくさんの長いおしべをつける。
「Guava Jelly」はたぶんトロジャン時代の作品で、ボブたちウェイラーズも歌うが、ヒットしたのはジョニー・ナッシュ版のほう。歌詞には性的な意味がある純粋なラブソング。YouTubeは個人的に聴き心地がいいオーウェン・グレイ版を貼っておく。リタおばさんも気に入るはずだよ。
"Guava Jelly" by Owen Gray
鳥
鳥といえば「Three Little Birds」で決まりでしょ。『Exodus』の頃から好きだった曲だしね。でも、朝の日差しのなかでこそ映える曲じゃないかなって気もするな。
いいよ。そこまで言うなら、「Who the Cap Fit」に切り替えたる。鳥ではなく鶏だけどね。
その箇所は、ないんまいるさんによるとジャマイカのことわざ由来だそう。英米式の英語では、”I threw my corn, but I didn’t call any fowl”になり、「餌は蒔いたが、鶏は呼ばなかった」、すなわち、誰かを特定せずに本人にだけほのめかすという意味らしい。
この曲が収録されたアルバム『Rastaman Vibration』は、アイランド・レコード作品のなかで最後に聴いた。残り物には福があった一曲。シンセのイントロが気持ちよく、そのあとのフレーズ”Man to man is so unjust”には思想的にかぶれたなあ。
"Who the Cap Fit" by Bob Marley & The Wailers
👆 ボブ・マーリーがいっぱいのnote‼