昼休みの散文(たけしの話・ある朝)
たけしの話
突然だけど、たけしが好きだ。
たけしとはビートたけしのことなのだけど。
たけしのことは物心ついた時から好きで、それは何となく父に似ているからというのがまずあったように思う。
といっても、うちの父はたけしのように立派な人ではなくて、お酒を飲んでは人の悪口を人ペラペラ並べ、父を慕って寄ってくる人も片っ端から傷つけ遠ざけていくような人だった。そんな父親のどこかたけしに似ているかというと、顔と話し方、物事を全て数学的に考えるようなところ、人が話している時にその話の本質を見ているところが似ている、ような気がする。
こういう人には上っ面の話は通用しない。
そうは言っても、私はたけしを前に上っ面の話などしたことがないのだから、本当のところはわからないのだけど。とにかく、そんなことから私のたけしが好きという気持ちは始まっていたのだ。
今となってはたけしは偉人であるから、様々なエピソードが耳に届いてくる。そのどれを聞いてもたけしらしく、馬鹿げていて、ブレなくて、頭がキレて、シャイで、哀愁がある。そして、エピソードを話している人がとにかく嬉しそうであること、話しながらたけしの部分はたけし話し方、仕草を真似て話すところも好きだ。エピソードの向こうにしっかりたけしが浮かんでくる。
こうやってしっかり浮かんでくる、映像になる人ってたけしじゃなくてもいいよなと思う。
中でも好きなエピソードはYouTubeでたまたま見た、佐久間宜行のNOBROCK TVというチャンネルの爆笑問題がスターだと思う人ベスト3前編に登場するエピソードで、立川談志とたけしの10年ぶりの再会を爆笑問題の太田光が幹事で一席設けることになった話である。
当時、鬱っぽくなっていく談志が「たけしもよぉ、フランスで勲章なんか取りやがってよぉ」とぼやくのを聞いた太田は、師匠はもしかしたらたけしさんに会いたいのかもしれないと思い、たけしに「談志師匠、最近元気がないんですよ」と相談すると、「じゃあお前一席設けてくれよ。俺が怒られに行くよ。俺が怒られりゃちょっとは元気出んだろ」と言って再会することになるのである。
その当日のエピソードは話すと長くなるので割愛するが、桜の時期の上野の鰻屋で、ロールスロイスで去っていくたけし、見送る談志の情景の温かさとかっこよさにとにかく胸がいっぱいになるのだ。
それをかっこいいでしょう?痺れるでしょう?と話す太田もとてもいい。そう言えば、好きなものをこんなにも好きだと話す人のことも私は好きなのだ。
そして、粋でシャイな大人はもっと好き。
とは言っても、アウトローな映画はあまり得意じゃなくて、たけしのそういった作品はほとんど観ていないのだけど。
父とたけしは似ているようでやっぱり全然違った。
誰かのために動くような父ではなかった。
「ファッキンジャップくらい分かるよバカヤロー」
これに関してはとてもよく似ている。
けれど、たけしが父だったら良かったなとは思わないのは不思議なものだ。
私の父は、肌着に金のネックレスをしてセブンスターを吸っている、傲慢で口の悪い飲んだくれの父なのである。
ある朝
アートメイクっていうのかな、最近眉毛なんかをタトゥーで入れるのも一般的になってきたけれど、ひと昔前の墨を入れましたという状態の眉毛に出会うとおおっと思ってしまう病気である。
眉毛が薄いとか毛が生えないとか、入れる事情は人によって様々であるし、お洒落の感覚だってそう、本人が良いと思えばそれがベストであるのだから、たとえイモトのようにマジックで堂々と書かれた眉毛に遭遇したとしてもそんなことを思ってしまう私の方が失礼な女ということだ。
しかし、私は病気であるから思ってしまうのである。
そんな朝の気持ちを忘れないうちに文章にしてみた。
このように、こちら側の病気である。
それでは皆さん、いい週末を。