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2025年上半期読書 2月(一言感想つき)

2025年2月は出産して間もないため、細切れの睡眠や好き勝手に外出できないストレスをぶつけるように読書しました。

まとめて睡眠を取れないのがほんときつい。眠みぃぃぃぃぃのよ。
身体も頭もいつもと違うし、思うように動けないってつらい。疲れと寝不足がたたって、「わたしってダメなやつ」的な思考に囚われ涙が溢れちゃうマタニティブルーに陥りました(家族に頼ってしっかり寝たら1日で回復)。コントロールできない自分って怖い。

頭に入ったのかは別にして冊数だけはある程度読んだので、1月に続いて普段は3ヶ月ごとにアップしている短め読書感想文まとめを当月1ヶ月分のみであげます。
長〜い感想文になりそうなものは、また別な単体記事としてアップします。

▼「長〜い感想文(予定)」にするのは、これらの本

  • ラウィーニア

  • ミルクマン

  • メディアコントロール


2024/2

📘海の沈黙・星への歩み|ヴェルコール (著), 河野 与一 (翻訳), 加藤 周一 (翻訳)

文庫に所収される二編は、いずれも「裏切り」の悲劇。それぞれ信じていた存在(国)に裏切られた、男の話。思想や背負った背景が原因で、その時代に“生きられない”人たちを描いている。

『海の沈黙』
芸術を純粋に愛し、その真髄を敵国であるフランスに求めるドイツ人将校。フランス人の心すら動かすそのまっすぐな思いを理解してくれる感性は、その時代のドイツ“国家”や“軍”という組織には存在しなかった。

『星への歩み』
若き日に(当時の)チェコスロバキアよりフランスに亡命し、フランス人として長きに渡って暮らしてきた男。フランスを愛する心は純フランス人より強く、盲目的と思えるほど。その“第二の祖国”もいつしか戦禍の影響を受け、彼は、彼自身の中に流れる血によって運命へと導かれる。この上なく愛した祖国の憲兵の手によって。

📘正欲|朝井 リョウ

「こうくるのかあ!!」というラスト。
それぞれが抱える“性癖”や“欲”。どこまでがイレギュラーなのか。どこまでが正しいのか。他者には到底理解されなくても、それぞれの言い訳や正義はある。言い分がどこか歪んでいても、大勢の思想と一致し、辻褄があっているように見えれば見過ごされることもある(というか、小説においては私たちは裏側まで把握しているから“許せない”という感情が湧いてくる登場人物もいるけど、実際の世界においては表立って問題が出てこなければ見過ごしているのではないかと思うけど)。
人に言えない欲を内面に抱えること自体は仕方ないのかもしれないけど、社会的通念や自分の行動による他者への影響というものは最低限理解しながら、それに抵触しないように生きてほしいなとわりと切実に思う。わかっていても普通の流れに乗れないから、コントロールできないから苦しいのか。少数派としての孤独に苛まれるから苦しいのか。

特に当事者の思いとしてのここ。
これだけ自己理解していても、うまく対処できないのが“欲”なのか。

私はずっと、この星に留学しているような感覚なんです。
いるべきではない場所にいる。そういう心地です。
生まれ持った自分らしさに対して堂々としていたいなんて、これっぽっちも思っていないんです。
私は私がきちんと気持ち悪い。そして、そんな自分を決して覗き込まれることのないよう他者を拒みながらも、そのせいでいつまでも自分のことについて考え続けざるを得ないこの人生が、あまりにも虚しい。
だから、おめでたい顔で「みんな違ってみんないい」なんて両手を広げられても、困るんです。
自分という人間は、社会から、しつかり線を引かれるべきだと思っているので。
ほっといてほしいんです。
ほっといてもらえれば、勝手に生きるので。
でもどうしてか、社会というものは、人をほっといてくれません。
特に組織の中で働いていると、本当にそう感じます。人は詮索が大好きです。生まれ持ったもので人間をジャッジしてはいけないと言いつつ、生まれてからその人が手に入れたものや手に入れていないもの、手に入れようとしなかったものの情報を総動員しては、容赦なくその人をジャッジしていきます。
最近、わかったことがあります。
それは、社会からほっとかれるためには社会の一員になることが最も手っ取り早いということです。皮肉ですよね。でも真実です。

『正欲』(p.9-)

📘駆込み訴え|太宰治

先日読んだ三浦しをんさんの『本屋で待ちあわせ』に紹介されていた一編を青空文庫にて読了。とにかく紹介文が良かったのでどうしても読みたくて。

中学高校とミッション系の学校に通っていたため、週に一回「宗教」の授業があった。聖書を読んでキリストの教えに触れよう、という時間なのだが、反抗心満々の思春期だったためか、聖書に記されたキリストのエピソードには意味不明のものが多いと感じるばかりだった。
母親に暴言を吐いたり、いきなり神殿を破壊しはじめたりなど、けっこうな暴れん坊ぶりを見せるキリスト。どうにも納得がいかないと思っているころに、たまたま太宰治の『駈込み訴え』を読んだ。とても短い小説だが、迫力と、聖書を読むとツッコミたくてたまらなくなるキリストの言動にきちんとツッコミを入れる姿勢に、衝撃を受けた。
〜中略〜
太宰治はたぶん、語り手の男に同情し共感して、『駈込み訴え』の執筆に取りかかったのだろう。だが作品を編みだす手さばきからは、「神業」としか言いようのない輝きが迸っている。語り手の男が愛し憎まずにはいられなかった、キリストが纏っていただろう輝き。だれにも十全に理解されることなく、弟子の裏切りをも受け入れた男の放つ光。
卑屈と崇高。裏切りと受容。二律背反する人間の精神を、『駈込み訴え』は表現しつくしている。太宰治の孤独と、物事を一面からだけ見るのはよそうとする優しさと、茶目っ気(ツッコミ精神)とを味わえる傑作だ。

『本屋で待ちあわせ』(p.156)
孤独と、優しさと、茶目っ気と。──『駈込み訴え』太宰治・著

わたしの好きな物語の傾向として、著者による原典の行間(拡大)解釈と、一つの物事に対する多視点描写がある。なので、この二つが含まれるこの作品は大いに好みだった。しかも存分にシニカルで。取り上げる題材がありえないくらい挑戦的で。
「太宰治って、すごいなぁ」という、超平凡だけどそれしかない感想をここに残しておく。

📘菜食主義者|ハン・ガン

ある日突然、肉食をやめ食べることをやめ、果ては「自分は動物ではなく木になるのだ」と言うヨンへ。「…なぜ、死んではいけないの?」と真顔で問うほどに追い詰められるまで他者の行動を何一つ拒否できなかった彼女が、唯一拒否できた行為。それが彼女の意思表示だったのかもしれない。

この小説は三つの章で展開され、ヨンへの夫、ヨンへの義兄、ヨンへの実姉の3人の視点で語られる。
不都合な事態から逃げる人、自らの欲に絡め囚われる人、逃げられずに追い詰められる人。それぞれがそれぞれが降って湧いたように生じた事態に混乱しながら、自分の心に従い、側から見れば最善ではないように見える行動を選択していく。これらの人が抱える欲望や意志は、自分の中では正しくあっても他者には理解されないという点で相当にガチな『正欲』だなと思ったり。
インへ・ヨンへ姉妹はいずれも、自分の身に降りかかった事態に極端に「耐える」タイプの女性だ。男は女に自分の欲望を押し付け、女はそれを甘んじて受けるという構図が全体を通して見え隠れし、韓国のジェンダーギャップに対する批判がこのストーリーの根底にあると感じた。

📘そういうふうにできている|さくらももこ

高校生ぶり? くらいに読んだ。その時何を思ったかはほとんど覚えていないが、妊娠・出産を経験してから読むとまた違う視点で読めた気がする。
便秘で一章読ませる構成、「もし生まれた時が老人の姿で、死ぬ時に赤ん坊の姿だったら……」といった突拍子もない想像力や、シリアスな場面であっても良い意味で読者を脱力させながら読ませる軽妙な語り口はさすが!

子供は私のお腹にいた。そして私のお腹から出てきた。我が子であることは間違いない。だが、“私のもの”ではない。この子は私ではなく、私とは別の一個体なのだ。これから先、この子は私とは全く別の自分の人生を歩んでゆく。私のお腹は、地球に肉体を持って生まれてくるための通路にすぎない。お腹が切られた時、この子が地上に降り立つための扉が開いただけだ。彼は私の分身ではなく、彼以外の何者でもない。
〜中略〜
だが、お互いに一個の個体なのだ。親とか子供という呼び方は人間が便宜上関係を示すうえで作ったもので、個体にとっては無関係である。私は“親だから”という理由でこの小さな生命に対して特権的な圧力をかけたり不用意な言葉で傷つけたりするような事は決してしたくない。

マタニティブルー(p.146)

こういうものすごくすてきなこと言ったあとの“締め”がまた、さくらももこさんらしくていいんだよな〜。

📘『百年の孤独』を代わりに読む|友田とん

『百年の孤独』を読みたいけど、大作なのでなかなか取りかかる気になれず。そんな状況でタイトルにつられ、ついついこの本を手に取る。そういえば私、RPGゲームなども攻略本を読み込んでからやるタイプでした。
リアルと非リアルの入り混じったぶっとび展開についていかねばならない覚悟ができた。果たして名作なのか? 奇書なのか? そこは実際に読んでみてのお楽しみ。
家系図で省略されるほどのホセ・アルカディオ多すぎ問題。ホットチョコ飲んで空中浮揚する神父。読者を裏切らないウルスラ母さんの肝っ玉っぷり。素で取り巻き達を殺していく罪な女レメディオス──もしかするとものすごくシリアスな場面かもしれないけど、あまりに突拍子もない流れになんどか爆笑。このテンションで『百年の孤独』本編にも取り掛かれるといいなあ(順調に先送り中)。


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