酸ヶ湯温泉湯治 冬の巻Ⅱ
前回の酸ヶ湯温泉湯治で書ききれなかった、その続きである。
酸ヶ湯温泉は硫黄泉(硫化水素型)だ。強い硫黄臭があって皮膚や衣類にも匂いが移り、温泉に行ってきたと分かってしまうほどだ。硫黄泉には血管拡張効果があり、血流改善に伴う温熱効果やデトックス効果が期待できるという。
一方、酸ヶ湯というその名のとおり酸性の湯なので、皮膚に対する刺激が強く、皮膚または粘膜が過敏な人、皮膚乾燥症の高齢者などは注意が必要だ。じんわりと骨身に染み入るようないいお湯なのだが、今回の滞在では肌にピリピリとした感覚があった。今までこうしたことはなく自分の身体の変化に少しショックを覚えたが、そうした微かな身体の声を感じ取れるのも湯治の魅力だと思う。そして入浴後に水道水のお湯で体を洗うことを学んだ。
酸ヶ湯温泉旅館には混浴で有名な総ヒバ造りの千人風呂の他にも、男女別の内湯「玉ノ湯」がある。それぞれの浴場の入口にはその日の湯の温度が示されていて、内湯「玉の湯」の湯温は確か42.6度だった。気分にまかせてのんびり長湯、とはいかない熱めの温度だ。部屋に備えつけの「湯治の栞」を見ると、酸ヶ湯温泉には源泉が三つあり、千人風呂にある「熱湯」の源泉温度は48.8度、「四分六分の湯」は67.1度、内湯「玉の湯」は44.9度、全て自然湧出とあった。
男湯「玉ノ湯」の入り口には小さな額が掛けられている。そこには棟方志功の書、『瑠瑞光妙泉韻』があった。瑠瑞光とは薬師如来の住む瑠璃光浄土のことか。薬師如来はかつて菩薩として修行したときに、<病苦を除き心身ともに安楽にする><著しい飢えと渇きに晒された衆生の苦しみを取り除く>などの誓いをたてて仏になったとされる。
雲上の霊泉へも、現在では青森市街地から103号線を車で1時間余りも走ればたどり着くことができるが、かつては大変な苦労をしたことだろう。苦しみや痛みを抱えた人々はすがるような気持ちで、ここ酸ヶ湯の妙なる泉に身を浸したに違いない。
「湯治の栞」のなかに「じょうずな温泉との付き合い方」の項目があり、面白い記述を見た。
旅館の廊下各所にはファンヒーターがつけられているが、確かに冬は湯上りの熱がすっかり冷めてしまうかと思うくらい寒い。だから冬は言わずもがな、夏場でも湯上りの体を布団に潜り込ませてぼんやりと過ごすのは至福と言うほかない。湯の効能か、身体の痛みが和らぐと自然に緊張がほどけていく。
大手旅行予約サイトの利用では食事つきプランしか予約できないが、連泊しての湯治を目論んで旅館のフロントに尋ねてみた。すると豪華な旅館食以外にも、よりシンプルな湯治食を組み合わせることもできるし、あるいは素泊まりで自炊を楽しむことも可能だそうだ。
早速その場で、次回6月に希望の部屋を予約したのは言うまでもない。
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