かぞくっていいな
一緒にお風呂に入る前に、息子が服を脱ぎながら、歌を歌い始めた。
くまの子みていたかくれんぼ〜
おしりをだした子いっと〜しょ〜
そして、実際に、こちらに向けてプリってお尻を突き出してくるものだから、僕はたまらず吹き出してしまった。
彼のユーモアのセンスはたびたび
僕という地球を救うけど、
ふと不思議に思うことがあったから、本人に尋ねてみた。
「なんでこんな古い歌知ってんの?」
「お母さんが教えてくれたんだよ〜」
なる〜。
息子のユーモアは彼女の英才教育の賜物なんだって事実に改めて気付かされたのだった。
本当にこの二人には、ふとしたきっかけで深海の底まで沈みがちな僕の気持ちを何度、海面まで浮上させてもらったか分からない。
そして、その度に、まだ何も知らずに
にんげんっていいな
って何の疑問もためらいもなく思っていたあの頃の自分に戻れたような気がして、笑いながらちょっと泣きそうになるのだった。
まあこれって我が家ではよくある光景だから、ついつい当たり前な日常だというふうに軽く考えがちだけど、
実はこれこそが
いわゆる奇跡や魔法の類
なのかもしれないな
とそのときふと思ったのだった。
だって、つい先日も僕は一日中ひとり布団にくるまって、もうダメだ、1ミリも動けないって弱音を吐いていたばかりだからだ(苦笑)
それなのに、今日は、こんな風に普通に笑って家族と暮らしている自分がいる。
だから、そんな僕が何よりも大切にすべきなのは
もはや言うまでもないだろう。
もはや言うまでもないっていうのに、
バカなお父さんは
いつも間違える。
もうすでにあれほど手にしたかったものはその手の中にあるというのに
いつもないものねだりばかりして
いつも無相応な夢ばかり追いかけて
その度に無闇に傷ついて、そして、
大切なみんなをも
傷つけてしまっていたんだ。
そう思ったら、
申し訳ないやら有難いやらで
もう涙があふれてきて仕方なかった。
そして、僕は息子にばれないように必死に何度もお風呂のお湯で顔をバシャバシャと洗いながら、
「どうかこれからはどんなことがあっても、この思いだけは絶対に忘れませんように」
と固く神様に誓ったのだった。