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『グレート・ギャッツビー』 を読んで
まだ大人になりきれなかった私が父に言われて、ずっと心の中で思い返していることがある。「人のことをあれこれ言いたくなったら、ちょっと考えてみるがいい。この世の中、みんながみんな恵まれてるわけじゃなかろう。
フィッツジェラルド 著 , 小川高義 訳 , 光文社
1925年に刊行された、フィッツジェラルドによる最高傑作。
物語は、1922年の第一次世界大戦終結後のアメリカ東海岸。
アメリカが文化的にも、経済的にも栄える一方で、
これまでただ「アメリカン・ドリーム」を
夢見て前進してきた人々に翳りが見え始めてきた時代。
豪華絢爛なパーティー、禁酒法、ガソリン自動車、戦争の跡、、、
1920年代のアメリカの光と影を垣間見ることで、
富とは、格差とは、夢とは、など色々な観点から楽しめる作品だ。
そんな時代に、また一人の男がアメリカン・ドリームを成し遂げる。
豪華な邸宅を構え、盛大なパーティーを毎晩催し、
まさに「華麗なる」人生を謳歌しているかのように見えた。
しかし、彼がその邸宅を持った理由、その場所に建てた理由、
毎晩パーティーを催す理由、そもそも富を築いた理由、
そこにはただ一つ、彼がなんとしてでも手に入れたい「夢」があった。
その「夢」がようやく叶うその直前に、悲劇が訪れる。
夢のような時代を生き、夢を求め、夢の先を知ることなく終わった
彼の人生は、今のあなたにどう響くだろうか。
以下は、私が考えるこの本のおすすめポイントを
感想とともにお伝えしたい。
もし人間のありようが外からでも見える行動の連鎖でわかるなら、
ギャッツビーは華麗なる人物だったと言えよう。
「華麗なる」とは何なのか : 段階ごとに印象が変わる言葉
この本はなんといっても読みやすい。
私はたったの二日で読み終えてしまったほどだ。
その理由は、展開の速さと関係している。
物語は、この文章の冒頭の引用から始まる。
ここで、みなさん引っかからないだろうか。
「ギャッツビーとは、派手なイメージに比べて、随分と思慮深いのだな」
私はそう感じた。読み進めていくうちに、
なるほど、この本の語り手はギャッツビーではなく、
別の男だということが判明する。
では、ギャッツビーとはどういう人物なのか。
気になってページが進む。次に、彼のことを述べる描写が出てくる。
それが、この文章の二つ目の引用だ。
「華麗なる人物」なんという響きのかっこよさ。
初め私は、「華麗なる人物=豪華で、雄弁で、非の打ち所がない完璧人間」
という想像をしていた。
しかし、この本を読んだ後、
華麗なる人物という意味が全く違って感じられた。
それは、夢の時代を、夢に向かって生き、
夢のまま終えた人生なのではないか。
語り手である男は、自分の人生を生きていく中で、
ギャッツビーの生涯を振り返り、彼のその人生を「華麗なる」と
評価したのだろう。
あなたは、「華麗なる」という言葉をどういう意味だと捉えるか?
「夢」とは一体? : そこに愛はあるんか?
夢を追って生きたギャッツビー。
その夢は、ある女性を自分のものにすることだった。
しかし、私はギャッツビーから彼女に対する愛をあまり感じ取れなかった。
それは、ギャッツビー視点で彼女を語る描写がないからかもしれない。
しかし一度、彼女に対してギャッツビーが意見を漏らす。
金にまみれた声ですよ
本当に愛している女性の声を、このように言うだろうか。
また、彼女のキャラクターも、
あまり魅力的に描かれていないように感じた。
そこで私は、ギャッツビーは、彼の地位が上昇したこと、
つまり「成功の印として彼女の心を手に入れようとした」
のではないか。
アメリカ社会というのは、とんでもない格差社会であり、
自分の地位以上の相手と結婚するというのは、大変困難である。
(特に当時の男性は、相手の女性よりも裕福であることが絶対条件であったのだと推測する。)
つまり、憧れである彼女を手にいれることは、自分の地位が上がったことを
最も実感する体験だったのではないか。
私からすると、彼女は、彼の夢に利用されたようにも映った。
とはいえ、現代の我々からすると、女性の心を手にいれるためにここまでの
努力をするギャッツビーはとてもかっこよく見えるだろう。
灰の谷 : 時代の影からの復讐
豪華で、煌びやかな物語の中には、少しずつ影が見える。
その中でも、特に印象的に描かれているのが、「灰の谷」だ。
ギャッツビー等の住む地域と、NYの中心地を結ぶ中心点にある
その場所は、派手な都心や住宅街とは裏腹に、
ひっそりと、時代から取り残されたような佇まいだ。
時代の中心から取り残された、周縁の人々の象徴のようにも見える。
物語の終盤には、この灰の谷が物語の様相を大きく変化させていく。
時代から取り残された人々は最終的にどのような復讐をするのか。
ぜひご自身で読んでいただきたい。
以上の感想は、私が個人的に感じたものである。
文庫本の後書きには、訳者の解説がついており、
その内容を読むと、またこの本が違って見えた。
それでも、解説を読む前に感じた自身の感想を大切にしたいので、
ここに書き残しておく。
とても展開が早く、一気に読める本であり、
解説を読めばまた印象が変わる本かもしれない。
ぜひ、冬休みやお正月の休みに読んでみてはいかがでしょうか。