ペンギン・ハイウェイ感想。アオヤマくんと、息子(小4)の出会い。【小説・森見登美彦・ちょっとネタバレ】
春になると、外で本が読みたくなる。
秋はひなたで。冬はこたつで。夏は立ち読みがしたくなる。
つまるところ年中本が読みたいわけだが、先日、森見登美彦の小説『ペンギン・ハイウェイ』を読んだ。
【はじめに】「ペンギン・ハイウェイ」は映画化してるらしいですが、一切アニメは見ていません(純粋に小説の感想です)
帯で知ったのだが、これ、映画化(アニメ化)している作品らしい。
確かに、これを映像化したら美しく、幻想的だろうと感じた。<海>もペンギンもシロナガスクジラも、そして愛すべき登場人物たちも、きっと透明感と躍動感あふれる映像に仕上がっているのだろう。
とはいえ、私は映画を見ていないし、あえて見ようとは思わない(地上波でやるなら別だけど。うっかり見てしまいそう)。
とにかくこれは、小説に関わる感想とこぼれ話である。
◆自他共に認める"科学の子”、アオヤマくん。
この小説の主人公は、10歳の少年・アオヤマくんだ。
彼は非常に独特で、出だしから
ぼくはたいへん頭が良く、しかも努力をおこたらずに勉強するのである。
だから、将来はきっとえらい人間になるだろう。
――『ペンギン・ハイウェイ』P5
などとのたまっている。
でもそれは、正しく事実に裏打ちされている。
彼は「毎日きちんとノートを取る」し、「たくさん本を読む」し、「宇宙」「生き物」「海」「ロボット」にも興味がある。
そして単なる理屈だけでなく、「実物を見るのは大切なことだ」と、行動力も持ち合わせている。
研究をしているらしい父に買ってもらった方眼ノートに「毎日の発見を記録」する。
物語は、そんなアオヤマくんの強い探究心によって切り拓かれ、展開してゆく。
小説の読後感はとてもあたたかで、平たく言うなら「すごーく好きな作品」だと思った。
いろんな謎が次から次へと出てくるけれど、終始アオヤマくんの目線で語られるため、一緒に強い好奇心を持って読み進めることができる。
そしてハチャメチャなものもあるが、それが最後には本当にキレイに収まった感じがした。
そして、私が持っている文庫の解説は、有名な萩尾望都さんが書かれていた。
萩尾さんは、アオヤマくんについてこう書いている。
少年とはこんなものか?これほど分析能力があるのか?少年とはもっと子供でワチャワチャしていて単純で短絡的な生き物ではないのか?
(中略)
アオヤマ君のタイプは初めて見た。
――『ペンギン・ハイウェイ』P385 萩尾望都さんの解説より
SFやファンタジーの大御所であらせられる萩尾さんに「初めて見た」と言わしめるアオヤマくん。
だがしかし・・・私には、強い既視感があった。
それはうちの息子(小4)である。
◆アオヤマくんと、多分仲良しになれるであろう、我が家の息子(10歳)の話。
我が家の息子は、奇しくもアオヤマくんと同い年である。
まず、アオヤマくんの言うような「天才」では全然ない。片付けできないし、忘れ物は多いし、アオヤマくんに水泳をすいすい出来る訳でもない。
でも、よくノートを書く。
そして、数に異常な興味を持ち、理屈っぽく、非常に探究心が強い。
たとえば、ぼくが大人になるまでは、まだ長い時間がかかる。今日計算してみたら、ぼくが二十歳になるまで、三千と八百八十八日かかることがわかった。
――『ペンギン・ハイウェイ』P6
こういった計算は、うちの息子はものすごく好きである。
(最近ニュースがすごく好きなのだが、コロナの報道によって毎回数字が報告されるため、息子は非常に興奮するらしい)
そして宇宙も好きだ。今日はこんな会話をした。
「お母さん。ふたご座のカストルって知ってる?」
「何それ(知らん)」
「カストルは6つの恒星からできる連星なんだ。すごいよね」
「ふーん(連星がよくわからないけれどとりあえずすごいんだな)」
そんな具合である。
また、アオヤマくんはチェスをするが、息子は将棋をしている(たまに)。
アオヤマくんは非常食を入れたリュックを持ち歩いているが、息子も大きな青いリュックに、非常食と着替えを底に詰めて持ち歩いている。
アオヤマくんが伝記が好きなように、息子も伝記を読んでいる。
そんな具合だから、きっと、もし、アオヤマくんが同級生にいたならば、友達になったんじゃないかと思った。
そこで息子に聞いてみた。
「この本(ペンギン・ハイウェイ)おもしろいよ。読んでみる?」
「うん。読む」
◆10歳の息子が『ペンギン・ハイウェイ』を読んだら。
ちょうど春休みだったのもあって、息子に勧めてみた。
そしたら3日で読んで「おもしろかった!とっても!!」と目をキラキラさせた。
「お姉さんや、アオヤマくんや、ペンギンや<海>や、いろんなことがつながってるのがおもしろい」
そして、その場でこんな図を書いた。
「こういうことでしょう?」
(※以下ネタバレ?図)
ははぁ。なるほど(多分あってる)。
「それからさ、お姉さんと<海>の関係もさ、こういうことだよね」
うん。そうだ(多分あってる)。
「次はアオヤマくんたちの持ってた地図をつくりたい。ジャバウオックの森、給水塔、いろいろつながってる街の様子が、頭の中で、わーって想像できた」
「へぇ。じゃあ、地図書くんなら本もっかい貸そうか?」
「え?なんで? 頭の中に全部入ってるでしょ」
そ、そうか(そういうもんなのか)。
そして、紙を何枚も用意して、大きな地図を作り始めた息子を見て思ったのだ。
アオヤマくんに、ウチダくんやハマモトさん、お姉さんがいたように、「一緒に探求できる仲間」や、「理解してくれる大切な人」がいればいいなぁと。
いつ、どこで、どんな人に出会えるかは人の縁だ。
同じ時代、同じ場所にいても、そこで意気投合できるかどうかは分からない。
でも、同じ熱量をもって、同じ目線で、同じように気持ちを分かち合える誰かがいることは、とても大切なことだ。
アオヤマくんは、聡明なお父さんを始め、その力をやさしく育む環境があり、仲間がいた。
そして「ペンギン」の出現から成る様々な出来事を、一緒に解決していく貴重な経験を得ていた。
息子も、そんな仲間に出会えるだろうか。
大切な誰かとの、縁をつなげられるだろうか。
「でもさ。どうして、<海>は生まれたんだろう。どうしてお姉さんは生まれたんだろう。そもそも僕だって、どうして生まれて、どうして僕なんだろう」
その気持ちを、受け止められるような。
また、そんな誰かの気持ちを、受け止められるような。
いつか、一生の大切な人に、出会えたらいい。
それまでに、心を磨いておけたらいいね。
「そうだね。生まれるって、なんだろう。生きるって、ほんと不思議だね」
『ペンギン・ハイウェイ』を読んで、そんな息子の未来を思ったのだった。