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日本の産業社会・労働経済の世界において同一労働同一賃金が成立しえない事情・背景など(後編の1)

【事前の断わり】
 「本稿(後編)」は昨日,2024年12月13日に記述したつぎの前編を受けているの,できればこちらをさきに読んでもらえることを希望したい。なお,本日の記述にあたっては,この期日において新たに補訂・追加した段落もあることは,当然のなりゆきであって,必要に応じて加筆がなされている。


 ※-1 日本企業(体制)論を論じるための前提話

 「本稿(後編)」の内容は,2010年代になってみれば,ますます劣悪になっていた産業社会・労働経済における労働者(従業員・働く者たち)の生活環境全般を,「賃金と労働条件」というもっとも基本となるべき論点をめぐり,批判的に検討をくわえる。以下,だいぶ長文の記述となるので,その旨承知で我慢して読み切ってほしいところである。

 2016年11月のころであったが,その年の秋も深まった時期,本記述はつぎのごとき問題意識を据えて,「日本の労働者が置かれている経済生活」の実相を,以下につづく議論をもって吟味してみた。

 ところが,時は2020年代になったところでも依然,労働者を囲む社会経済的な情勢・条件は,まったく芳しくない。それどころか,沈滞・低迷する一般的な趨勢はますます深刻化本格化するばかりであって,実際には沈滞し,淀み,ずり落ちていく状況しかありえないかのような国家次元での様相を呈している。

 2020年代における世界と日本をめぐる重大な事件は,新型コロナウイルス感染症が2020年の冒頭から始まったり,2022年2月24日になると,あの社会主義帝国が溶解した過程からボリス・エリツィンの後継者となって登場した強権的独裁者ウラジミール・プーチンが,わざわざ自国を倒壊させかねないウクライナ侵略戦争を,2024年12月14日の今日になってもまだ止められないで,1000日以上にもなる日数をかけてグダグダな戦争を継続中である。あとは,アメリカ大統領にもうすぐなるトランプが,止め男の役目を実現できるかどうかにかかってもいる〔という識者がいる〕。

     ◆ ウクライナ兵の戦死者「4万3000人」 
                ゼレンスキー大統領が公表 ◆

  =『BBCNEWS JAPAN』2024年12月11日, 
      https://www.bbc.com/japanese/articles/c5y8270wl0wo
 
 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は,ロシアによる全面侵攻が始まって以来,約4万3000人のウクライナ兵が死亡したと述べた。同大統領が犠牲者数の実態について認めたのはまれ。

 ゼレンスキー大統領はソーシャルメディアへの〔2024年12月〕8日の投稿で,37万件の負傷事案が報告されていると述べた。この数字には同じ兵士による複数回の負傷も含まれており,一部は軽傷とされている。

 また,ロシア側では19万8000人の兵士が死亡し,さらに55万人が負傷したと主張した。

 BBCは,いずれの側の数字も検証・確認できていない。

宇露戦争の戦死・戦傷者数

 補注)BBCの報道がしらせたこの「宇露戦争の戦死・戦傷総数」は,未確認情報とはいえ,ウクライナ側 40万人・ロシア側 75万人となる。ゼレンスキーがこの数字と盛っている可能性は否定できないにせよ,いままでのウクライナ側の発表はかなり現実の統計に近いものを公表していたので,いちおうは,参考になる数字が示されていると解釈できる。

 この宇露戦争のせいで,世界各国の経済指標がとくに,燃料の価格や主食となる農産物の価格を顕著に押し上げた。最近における日本経済の関連諸指標は,庶民の生活がさらに苦しくなる上昇ばかりを記録してきた。

 2010年代におけるアベノミクスによる日本の政治・社会の堕落や腐朽は,この2020年代になるや,一般の労働者たちの経済生活を,よりいっそう苦しめている。

 もちろん,ごく一部の「準・上級国民」というか「かつての中間階級(階層)」を占める労働者群,いいかえれば,一流大企業に勤務している彼ら・彼女らであれば,宇露戦争以後においては,ようやくいくらかは賃上げが実現しだしているものの,その実質賃金水準で換算した実感はそれほど効果があるとはいえない。

【参考記事】ー『日本経済新聞』2024年12月10日朝刊より-

下級国民(市民)の立場にはピンとこない賃上げ問題の現状

 しかも,それ以外の中小・零細企業群で労働する人びとにとっては,ビンボウに追いつく稼ぎなどないといったふうに,つまり,いつもとほとんど変わりの生活実態・水準に低迷,呻吟させられつづけている。

 現に,3食にこと欠くシングルマザー世帯や,中高年層・老齢層のなかにも貧困生活を余儀なくされている人びとが大勢いる。2010年代においてこの国はすでに,いま亡きあの安倍晋三のために,もうボロボロの中身になりはてていた。

 要するに「ガキ大将」の安倍晋三がこの日本を壊した。最近,石破 茂内閣は安倍の偉業(遺業)となった防衛予算の倍増(GDP比を2%へ挙げる)を実行するために,とうとう増税を口にしだした。

 アベは,トランプが以前大統領だったとき,まるで子どもがいい含められたかのようになってしまい,アメリカ政府(軍需産業・会社からではなく国家としてのアメリカ政府の中抜きがヒドイものである)から直接,まるで「くすり・くそうばい(薬九層倍)」の要領でもって,つまり, 暴利をむさぼられるといった,実にみっともない取引(トランプのいうディール)で抑えこまれるやり方で,アメリカの舎弟である立場を忠実に果たした。

 安倍晋三はだから「国賊であり国恥である」,つまりは「売国奴」であった。アベのせいで軍備調達のために増税が始まる。軍事オタクの石破 茂がアベのその「負の遺産」を忠実に履行するつもりである。アベは存命中,首相であった時期,祖父の岸 信介ゆずりの政治手腕(!?)を遺憾なく発揮し,トンデモな「世襲3代目の政治屋」としてのダメっぷりを昂揚させてきた。

 現在,菅 義偉から岸田文雄を経ていま,首相の座に居る石破 茂も,同じ「世襲3代目の政治屋」。選挙で選ばれるはずの自分たちの立場,「議員になる」ことを,当然視できている「錯覚・倒錯の民主主義感性」しかもちえない彼ら:連中が,この国のまつりごとを牛耳っているとなれば,民主政の運営がまともに走行しうる保証など,初めからなかったも同然であった。

 最近は日本に,このビンボウになったジャパンの景勝地を訪れようと,外国人観光客の立場が大挙押し寄せてくれる情勢が生まれていた。この事実は逆に理解してみれば,彼ら・彼女らが外国の土地として日本を訪れ,それなりに遊覧する価値がヨリ上がってきたといえなくない。

 すなわち,日本はドル円為替相場の関係で,安倍晋三の為政がなされた悪影響があって,外国からの観光客が訪れやすい国なっ(てしまっ)た。だからそのうち,日本のビンボウ世帯の子どもたちが外国人観光客がぜいたくに遊楽する(とくに飲み食いする)光景を,ただ指をくわえてみつめる「彼我の関係性」が,より日常の風景になるかもしれない。

 敗戦直後の日本における「ギブミー,チョコレート!」的な光景が,かたちを変えて,再現されないとは限らない。「衰退途上国」だという指称が,経済学の研究者あたりから湧き出てくるような現状である。

 この国がここまで衰退(凋落)してきのは,なかんず,国家指導者が「経世済民」〔を略したことば「経済」〕という目標を,完全に無視したがごとき為政しかなしえない「世襲3代目の政治屋」が,国の舵取りをしてきたからである。

 なお,経世・ 済民とは「世を経(おさ)め,民の苦しみを済(すく)うこと」だというのだから,安倍晋三や岸田文雄の為政を振り返ってみるに,もうアングリさせられるくらいに,あらためて失望させられる。

 以上のごときグチっぽい語りを入れたところで,ともかく我に返ったつもりになって,本記述「後編」において要点となる問題をつぎに列記する。

 ★-1 日本の企業・労働社会で同一労働同一賃金が成立しえない事情・背景など

 ★-2 このまま正規労働と非正規労働の格差・分化が進展していくならば,日本の労働者をかこむ経済・社会環境は,さらにますます悪化していく

 ★-3 経済団体・企業経営側に同一労働同一賃金制度を導入する意思は毛頭ない事実は,非正規雇用をなくそうとはけっしてしない態勢に明白

 ★-4 ナチスの全体主義国家政策のまねごとをしたいのであれば(緊急事態宣言を法制化したくてたまらなかったのが安倍晋三君や麻生太郎君),安倍晋三君は生前にともかく,同一労働同一賃金だけでも制度化しておくべきであった,これにかぎっては強行審議・強行採決が「国民からも歓迎された」はずだが,いまはオボロ……。

 ★-5 安倍晋三君は首相として歴史に自分の名声を残したかったらしいが,どうせろくでもない首相たちのほうが多かったこの国宰相録に,もうひとつの姓名をひとつくわえるに終わった。

本記述の要点

 だから,せいぜい同一労働同一賃金制度だけは,ぜひとも確立してほしかったが,彼自身の理解の範疇にはありえなかった問題であった。なにせパートの主婦(女性)の「一月の稼ぎを25万円として」などと,国会のなかで発言したくらいに無知・無理な,この「世襲3代目の政治屋」であった。金銭感覚がわれわれとは隔絶した世界にあった。

 1ヵ月25万円といたら年収で300万円だが,このボクちんは「年収の壁」という問題に関して,いったい何十何万円がその金額になっているのか,皆目念頭にはなかった。それこそ話にもならない「世襲3代目の政治屋」が,なんとこの国の首相であった。絶句あるのみ……。

【参考記事】



 ※-2 三菱総研チーフエコノミスト武田洋子「働く力再興実現会議議員に聞く 転職,不利益なくせ」『日本経済新聞』2016年11月19日朝刊4面「政治」https://www.nikkei.com/article/DGKKZO09735060Z11C16A1PP8000/

 経済の持続的な発展につなげるためには,働き方改革が欠かせない。賃金の上昇と生産性の向上が不可欠だ。政府の働き方改革にはそのための施策が盛りこまれていると考える。多様な政策を組み合わせることが重要だろう。

MRI三菱総合研究所から
武田洋子・画像

 中長期的に潜在成長率を引き上げるには,転職がしやすい労働市場に変えていく必要がある。働き方改革というと,同じ仕事に同じ賃金を払う「同一労働同一賃金」や長時間労働の是正に目が向きがちだが,雇用の流動化は非常に重要な要素と考えている。いまの日本の雇用慣行は勤続年数に依存し,転職を踏みとどまる一因になっている。

 成果で評価される仕組など,能力のある人が転職に踏み切りやすい環境を整える。それが結果として企業の生産性向上にも結びつく。転職が不利にならない仕組を整えれば,企業は能力の高い中途社員を確保しやすくなる。

 非正規労働者への目配りも重要だ。「就職氷河期」とされた時代に正社員になれなかった人は,仕事に必要な技能を十分に身に付けられる機会をえていない。そうした点を踏まえずに労働市場の改革を進めれば,かえって格差の固定化を招いてしまう。

 非正規労働者向けの対策としては,職業訓練の充実と就職の機会を増やす方策がカギになる。人手不足が深刻な産業に労働力を振り向けることも必要で,訓練を受けた人がそうした産業で働けるよう橋渡しすべきだ。キャリアを子育てなどで途絶えさせない柔軟な休職制度も導入を考えたほうがよい。

 補注)御説もっともな意見ばかりであるが,しかし,その実現のために必要な経済政策,社会政策,労働政策が,統一教会的自民党と創価学会公明党の野合政権からは確たる方針・実施計画が出ていなかった。

 現に,厚生労働省の「労働経済動向調査」「雇用動向調査」の結果が教えるその現実は,2022年2月時点での産業別人手不足感が高い産業上位3番までに挙げられていたのが,「医療・福祉」「建設業」「運輸業・郵便業」でる。

 また,農林水産業でいえば農業や漁業に従事する労働者総数の激減ぶりは,食糧安保の次元においては無力というか無責任のきわみにある,国家側の体たらくぶりがはっきりとうかがえる。

 たとえば,農業従事者の総数人口はすでに以前から激減してきたが,最近5年間におけるその統計はこうなっている。どんどん減少している現状が手に取るように伝わってくる。

個人経営体としての農業従事者数であるがこのままだと消滅するのか
とまで思わせかねない減少:衰退ぶり
高齢化そのものも十二分だといえるほどにまで「高度化」

 --まだ途中だが,引用している「同上」枠内に追加された記事として,「雇用の流動化とは」という見出しの記事が,以下の解説をしていた。

 「雇用の流動化」とは 政府は多くの人手を使い,成長性のある産業に人の移動を進める方針だ。

 転職や再就職の後押しで,1つの企業に人材を固定せず,人手不足の中小企業などに有能な人を回す狙いがある。介護や育児での離職は1人でも防がねばならない。倒産で失職した人の再就職など,限られた戦力を生かす手立てが求められる。

 補注)ここで解説されている雇用問題に関する課題の解決必要性は,いずれもほとんど実現できていないし,これからもその見通しは暗い,と観察するほかない現実問題ばかりに,だいぶ以前からなっていた。

 たとえば「介護や育児での離職は1人でも防がねばならない」と強調されているが,人口減少の根本要因である出生率の低迷などは,ヨーロッパ諸国のなかではすでに,ある程度ではあっても解決しつつある諸国も存在しているゆえ,もう少しくわしい解説も聞きたいところであった。

補注

 補注の続き) 雇用の不適合(ミスマッチ)については,厚生労働省などは本気になればいくらでも実行しうる施策がないわけではないのに,もたもたとしていて,いつまでも抜本対策を講じることができていない。

 本当にやる気があるのか,という印象を抱く。何十何年のさきに来る「自分の天下り先」のことならば,いつも熱心に考えているくせに……,そう感じざるをえないところがむなしい。
 
 軍事費(防衛費)に関しては高価な兵器をアメリカから割高に調達したり,原発事故や廃炉問題では国家(国民)の予算支出(サイフ)からふんだくるように回してきては,経費をフンダンに垂れ流しつつ浪費させていながら,

 人口が減少していて「たいへんだ・たいへんだ」という,それこそ緊急を要する事態に対していえば,はたして本気で対策を立てているつもりがあったのか(そして,あるのか)と疑わせるような姿勢しかみられない。


 ※-3「〈わたしの紙面批評〉)同一労働同一賃金 IT化との関係まで視野広げ」,鈴木幸一稿『朝日新聞』2016年11月19日朝刊「オピニオン」

 【人物紹介【「すずき・こういち」(1946年生まれ)は,インターネットイニシアティブ会長,日本におけるネット社会の基盤を創った先駆者で,東京・上野で毎春,音楽祭を主宰している。

https://www.youtube.com/watch?v=oymfKe_NfOg から

 なぜ(当時),米国の大統領選挙でトランプ氏が勝利したのか。グローバリゼーションと技術革新を基盤とする金融とITが従来の雇用慣行を変え,格差をますます拡大する産業であることに対する不満が背景にあるのではないかと思う。将来に対する不安をアジテーションという手法で掬いとったということだろう。

 日本では〔2016年〕,夏の参議院選挙のおり,「同一労働同一賃金」が政権によってとりあげられた。正規社員と非正規社員の不当な差別,格差問題への政策である。非正規社員の比率は20年ほどで約20%から40%近くに増加,賃金格差は非正規社員約205万円,正規社員321万円(2015年度「比」)である。

 バブル崩壊後,〔企業経営は〕収益率の低下を,低賃金の非正規を増やすことで人件費をカットし,収益性を確保したともいえる。

 補注)さきほど安倍晋三が首相であったころ,たとえばパートの主婦の一月にえる収入額を25万円としておきなどと,仮定話をしていた「世襲3代目の政治屋」的なそのおバカな発言は,いかにひどく浮世離れをしていたか。なんでも触れておくべき「反面教師的な〈価値〉」ならば,それにはたしかにあった。

 大学生のアルバイターも同じだが,「年収の壁」というものがあって,税制面での《優遇措置》を意味する〔らしいが〕,ともかく,2023年10月から「年収の壁・支援パッケージ」という政策が新たに開始され,これまで以上に「年収の壁」という用語には注目が集まるようになった。

 具体的にその金額のみここでは指摘しておくが,100万円・103万円・106万円・130万円・150万円・201万円といった,「各年収の壁」に関して生じる税制面の優遇措置が,どれほど解除されるか大きな問題になっていた。

 したがって安倍晋三君がかつて,国会のなかで「主婦のパート労働者の月収入を25万円と仮定しまして・・・」などといったセリフを聞かされたときは,賃金問題の専門家でなくとも,とりわけパートやアルバイトなどの非正規雇用関係のなかで労働力を提供している人びとは,きっとずっこけたこと間違いない。

 「そんな人」がこの国の首相を,それも第2次政権からは7年と8カ月も務めていて,しかも采配を振るっていたのだから,そもそもこの「世襲3代目の政治屋」という存在じたいが,亡国の首相たらざるをえなかった宿命は明々白々の事実であった。現時点における日本の政治・経済は,その見通しのとおりにやはり,「これもダメ,アレもダメ」の,ダメだらけの体制にまで凋落した。

 途中で「参考文献の紹介」をアマゾン通販を介して何冊が入れておくが,このうち橫田 一の本に添えられている図柄が,なぜかこのように理解不能なものに入れ替えられているものもあった。

 これはだいぶ以前からこのままに続いている。本来,この筆者の本の現物・表紙が挿入されているべきところだが。なにかの忖度がどこかからまだ効いているのか(ナ)?


〔記事に戻る→〕 日本の雇用慣行は世界的にも特殊だ。ある企業の正社員となることは,労働(仕事)の定義によって雇用と価値が決められるわけではなく,企業のメンバーシップになることで,定年まで,家族を含めて社会保障を受けることになっている。

 したがって,不必要になった雇用者をカットすることは容易なことではない。技術革新によって,不要となった雇用者についても,なんらかの労働に当てはめることで,昔ながらの雇用慣行を守る仕組である。

 「同一労働同一賃金」の提示は,日本の雇用慣行・社会保障のあり方を,根幹から変える政策である。しかし,紙面をみるかぎり,不当な格差問題としての報道にとどまっているようだ。たとえば,〔2016年〕5月11日に載った「教えて 働き方改革」では,つぎのような指摘がある。

 「労働者全体の待遇改善を訴える立場の労働組合も,『正社員クラブ』と指摘された従来の正社員中心の政策から抜け出せず,非正社員の待遇改善に十分な成果を上げてこなかった」。

 そのとおりなのだが,グローバリゼーションとITによる技術革新まで視野を広げていないのが残念である。

 「同一労働同一賃金」の問題は視野を広げ,視点を変えれば,グローバリゼーションとITという巨大な技術革新が進行する過程で,産業政策から社会保障まで,日本がどのような政策によって,将来に対応するのかといったことにつながる話である。世界の将来,米大統領選を支配する流れまで捉えることができたテーマでもある。

 21世紀の産業のエンジンであり,競争の基本的な要件であるIT化に日本が後れをとっているのは,雇用慣行であり雇用制度にある。ITの利用によって不必要となった雇用者を終身雇用によって,削減できないとすれば,必然的にIT化は遅れる。雇用を続けなくてはならないことで,ITを導入することでえられるはずのコストカットにはつながらない。

 技術革新の競争が,雇用慣行制度によって阻まれてしまうのである。非正規社員が大幅に増えるという現象は,そのしわ寄せでもある。定年までは企業が,高齢者については,国が社会保障を担うという現状を,若い人に対しても,国がなんらかの給付が可能な仕組をつくり,雇用の流動性を高めるべきである。

 その仕組をつくるにも問題は財源である。「これらは,消費税率を10%にしても,さらに財源を考えねばならない問題」(2016年10月7日社説)であることは間違いないのだが,その道筋については書かれていない。

 あるテーマについて,どれだけの広がりをもった視野と視点をもつかによって,記事の内容が異なるのはいうまでもないのだが,「同一労働同一賃金」については,問題提起の範囲が狭く,断片の談話に終始しているのは残念である。

 長いことIT分野にいて,その遅れを日々感じている私には,「同一労働同一賃金」というテーマは,日本の特殊性を含めて,世界的な競争の場に乗るためにも,深めてほしいテーマなのである。
(鈴木幸一からの引用終わり)

 --さて,同一労働同一賃金制度は,なにも突飛で空想的な制度に関する概念ではなかった。先進国でもとくに欧米諸国では昔から浸透してきた労働経済のあり方,その制度の一環である。ところが,明治以来の日本経済・産業では,敗戦後に向けた動向の経路も併せて回顧すれば分かるように,日本大企業に独自の賃金制度を確立してきた。

 だが,その制度は大企業の場を中心に,例の〈三種の神器〉といわれた「終身雇用-年功賃金-企業別組合」というとりあわせになる経営管理体制として具体化されており,このなかでは同一労働同一賃金制度とはつながりの薄い賃金形態・支払制度が通用してきた。

 敗戦後史においては,占領軍下におけるアメリカ式経営制度の思想的・理論的に強い影響もあって,職務給・職務評価を制度的に導入するための努力がなされてきたものの,結局は「三種の神器」を完全に除去することはできないできた。

この本は1947年9月30日発行
この本の「序」は

「わが国の現状を以てすれば,学界も労働界も,この『同一労働同一賃銀』の原則に,
正面から取組むところ迄行ってゐないのである」と指摘していた

だが爾来75年つまり「1世紀の4分の3もの」時間が経ったいまでも
まだこの原則は「正面から取組むべき」ものでありつづけている

 新興のIT関連企業においては,その「三種の神器」は縁遠い経営管理制度が浸透しているけれども,従来からの伝統ある日本の会社ではまだまだの感がある。ということで,次項の※-4におけるような「現実的な議論」も,当然のように吐かれていた。

 補注)筆者の娘,けっこう長期間,IT関連の広告会社に勤務していたが,退職したときは退職金ゼロ。これにはびっくりさせられた。それなりにふだんは多少高めの給与水準だったらしいが,それが零円と聞いたときはさすがにおどろいた。

 ところで,本ブログ筆者はすでに,この同一労働同一賃金制度の問題にいては,くわしく議論した記述があるが,ここではそれを全部もちだすわけにはいないので,その事実のみ断わっておく(近いうちに復活・再掲したい)。

 

 ※-4 尾藤克之(経営コンサルタント)「『同一労働・同一賃金』の実現は120%不可能である」『アゴラ 言論プラットホーム』2016年2月16日 06:00,http://agora-web.jp/archives/1670103.html

  「同一労働・同一賃金」の議論が熱を帯びています。民主党の「同一労働・同一賃金法案」の提出要請に,安倍首相も意欲を示しています。しかし制度の実現は実質不可能でしょう。

尾藤克之・画像
https://twitter.com/k_bito から

 まず,これらの報道を率先すべきメディアが「同一労働・同一賃金法案」についてあまり触れていません。多くのメディアにとって「同一労働・同一賃金」の報道は諸刃の剣だからです。さらには人事制度上のさまざまな要件があり困難であるためです。

 1) すべての人事異動には目的がある。人事異動の目的はつぎの3パターンに集約されます。

  a) 「栄転による異動」
  b) 「経験を積ませる異動」
  c) 「左遷・リストラ」

 a) 日本型人事では,スペシャリストよりもゼネラリストが好まれます。多くの仕事を経験することで「仕事の幅を広げること」「新たな視点を養うこと」が理由としてあげられます。このような目的の場合,今後,多くの仕事を任せる可能性があることから昇進・昇格を含む「栄転による異動」が発令されます。

 b) つぎに会社としてのマンネリ化を打破する定期的な異動もあげられます。このようなケースでは適材適所という視点によって人事異動が発令されます。異動を経験することで能力を開花するかもしれないといったポジティブな理由もあるでしょう。このような異動は配置転換や出向が多くなります。「経験を積ませる異動」として発令されます。

  さらに,会社としてのダウンサイジングのケースがあげられます。他の職位へ異動(多くは降格)させたり,配置転換や関連会社に転籍する人事異動です。または人員削減を計画する企業も存在するでしょう。意図的に悪い待遇の異動をさせて自己都合退職に追いこむという方法なども該当します。これは「左遷・リストラ」になります。

 さて,この3パターンのなかで「経験を積ませる異動」に注目してみましょう。日本企業において親会社から出向してきた社員と子会社の社員の待遇格差は歴然としています。とくに,給料の高い中高年になるとその差はさらに拡大していきます。

 しかし,給料やポストなどの労働条件は不利益変更になり改定できないことが多いため,同じ役職においても子会社の社員よりはるかに高い給料を受けとることが一般的です。これを「同一労働・同一賃金」にすることは実質不可能です。人事制度の根幹が崩壊するからです。

 新聞社・テレビ・ラジオなどの主要メディアにおいて,子会社への出向は日常的です。どのメディアにもキャリアの一つとして異動が存在します。しかしすでに,主要メディアの多くには「同一労働・同一賃金」が馴染まない人事制度が構築されていますから,積極的にこの話題についてとりあげることが難しくなります。これが冒頭に説明した諸刃の剣になります。

 2) 人事制度上の問題が生じる

 会社内の仕事は,重要度や難易度,ボリュームなどによって異なります。とくにホワイトカラーにおいては仕事の定量化・定性化がむずしいことからその把握が困難になることがあります。

 たとえば,広報部長・財務部長・経営企画部長は同じ部長という役職であっても,職務は異なります。重要度・達成度・難易度も異なりますから「同一労働・同一賃金」を導入することはできません。

 補注)ところで,部長級の仕事について「〔部長の職位そのものは〕同一労働〔だから〕・同一賃金〔と規定するのが〕」,日本の企業ではよくある賃金の決め方である。もっとも,同じ部長職だからといって,ただちに「同一労働・同一賃金」の考え方を基本に導入〔しようと〕するこの理解じたいに関して,違和感が抱かれて当然である。この指摘は指摘だけとしておく。

〔記事に戻る→〕 職種を超えて職務の大きさを計るジョブサイズや,多くの日本企業が導入している職能資格制度があります。職能資格制度は等級が職務に設定されていることから,異動を通じてゼネラリストを育成してきた日本に適合しているともいわれています。

 しかし,好き嫌いや抽象的な要素が排除できないことや,等級のアップに比例して人件費が高騰するなどの問題点も露呈しました。最近では,業績連動を導入するなど変化がみられます。

 そもそも,〔日本企業における〕人事制度は「同一労働・同一賃金」を目的に設計されたものではありません。よって,制度上においても「同一労働・同一賃金」の実現は不可能ということになります。

 3) 正社員の成立要件が異なる

 正社員と非正規社員,派遣社員にはさまざまな格差があります。収入面での不公平さを論じている人が多いですが,それは根本的に間違っています。正社員には日々の業務のみならず,歓送迎会やミーティング,タスクなど余計な業務が発生します。そして,業務命令には従う必要性があります。

 正社員は幹部候補や管理職候補として採用されます。よって多くの「現場」を経験することになります。これが先ほど紹介した人事異動というものです。社員は原則的に辞令を拒否することはできません。また正社員は,企業や上司への忠誠心にもとづいて行動することが要求されます,

 しかし,非正規社員や派遣社員は,そのような忠誠心にもとづいて行動することや社内の理不尽さに耐えることは要求されません。立場が異なりますから,正社員からすれば「同一労働・同一賃金」を主張することはナンセンスという主張になるはずです。

 補注)この段落における執筆者の意見は,一見もっともに感じられるけれども,その断定的な結論については,それだと日本企業におけるその理屈は説明,解明し,その位置づけをより客体的に表現するという試みを,最初から放棄したごときものにしか聞えない。

 こういう意見が実は,日本の経営の「今日的なダメさかげん」を,結局は擁護しつづけるテコにすらなっていた「〈自説〉の客観的な意味」が理解できない経営コンサルタントは,あまりにも無自覚に企業経営側の立場に嵌っている自分というものが,ほとんどみえていない。

〔記事に戻る→〕 「同一労働・同一賃金」を実現するには,北欧諸国のように労組加入率を高める必要性が出てきます。日本の加入率が20%を切っているのに対して,北欧諸国は70%を超しています。労働市場のルールは労使協定で決定し,賃金格差を縮小する連帯賃金制度と呼ばれる労使協調型の賃金決定の仕組も存在します。

 労働者に職業訓練や職業紹介をおこない,雇用主には労働者雇用に関する助成金を支給するなど,労働市場に働きかけをおこなう積極的労働市場政策(ALMP)も整っており各種セーフティーネットも充実しています。

 しかし,日本において連帯賃金制度や積極的労働市場政策が拡充する可能性は低いことや,労組加入率も相まって「同一労働・同一賃金」を実現することは難しいのです。さらに,人事制度上の問題をクリアにすることができませんから,実現は実質不可能ということになります。(引用終わり)

 --この経営コンサルタント(日本企業の実務に日常的に接している専門家)が指摘したのは,日本の産業・企業社会においては同一労働同一賃金制度の導入は,基本的に不可能,無理だという結論であった。

 たしかにそうといわざるをえない日本の会社における人事・労務の制度・慣行というものが,明治以来1世紀以上もの長い時間をかけて構築・展開されてきた事情・背景として控えている。

 前述のように一部の産業・企業では,同一労働同一賃金「的」な労務制度としての賃金支払形態が確立され実施されてはいるものの,労働市場全体を構成する個別企業のそれぞれにおいて,いまだにこだわりのある従来型の人事・労務管理制度が,一朝一夕に変化するような事由はみつからない。

 かといって経営コンサルタントが,企業経営から食い扶持をえている相互関係のなかでは,この程度にしかいいえない「家庭の事情」もあるのかと,同情しつつも一定の批判が「その程度に局限されるコンサル業でよろしいのか」という疑念として湧いてくる。

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【付記】 「本稿(後編の1)」はここでひとまず区切り,あとは「後編の2」にゆずることになった。こちらが出来しだい,ここにリンク先住所を指示する。

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