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【小説】 世紀末サンタ

 19XX年、未曽有の大戦争が勃発し、世界は荒廃して砂漠と化した。俗に言う世紀末である。それでも人々は必死に生きていた。国と呼べるようなものは無くなっていたが、人々は互いに協力して生活を送っていた。

 そこで子供は生まれ、成長した。子供は砂漠となる前の世界を話としては聞いていたが、実際には知らなかった。雪の降るクリスマスにトナカイに引かれたそりに乗ってサンタクロースがやってくることも話でしか知らなかった。

 もっとも、サンタクロースに関しては世紀末以前も空を飛んでいたわけではないのだが、子供は信じて疑わなかった。子供にとっては世紀末以前の世界は夢のような場所であり、子供の親も子供の夢をわざわざ壊す必要もなかったから、きっとサンタは来てくれるよ、と言って聞かせるのだった。

 しかし、子供というものは無邪気であり、それゆえに核心を突いたことを言うものである。サンタクロースはいつまでもやってこない。サンタクロースが世界の子供たちにプレゼントを送ってくれるのなら、子供たちが遊べるように地球を再び緑あふれる場所にしてくれるはずである。そんな子供の純粋な想いが、「サンタクロースっているんでしょうか?」という疑問を生むのである。

 そして、迎えた何度目かのクリスマスの夜。「今年のクリスマスはサンタさん来るかな?」と聞く子供に、「良い子にしてればきっと来てくれるから、今日はもう寝なさい」と言い、母親は悲しそうに頬にキスをした。

 と、シャンシャンシャンシャン。突然、どこからともなく鈴の音のような音が聞こえた。母親は驚いて窓を見ると空に巨大な赤い円盤が浮かんでいた。UFOである。

 「サンタさんが来てくれたんだ」子供はバッと起き上がり、屈託のない笑顔を浮かべて言った。鈴の音を聞いて起きたらしかった。サンタクロースがいないことを知っている母親は、きっと宇宙人がUFOに乗ってやってきたのだと思った。UFOというものも現実的ではない気もするが、しかし、サンタクロースが宇宙人なら、どっちもあっていることになる。

 と、UFOの底に小さな円状の穴が開いて、スッと地面に光の柱が立った。まばゆい光でよく見えないが、どうやらそこから何かが降りてきたらしい。黒い影がゆっくりと降り立っているのが見えた。子供と母親は外に出た。見ると、他の人々も気になって外に出てきていたらしかった。

 黒い影が地上に降り立つと、光の柱は消えたので、その姿を見ることができた。その姿は銀色に光る金属でできていた。いわゆるロボットであろう。UFOから降り立ったロボットとなると、宇宙ロボットではあるだろうが、果たして宇宙人なのかと言われるとよくわからない。

 恐る恐る人々が動向を見守っていると、ロボットが機械音声で地球の言葉を話し始めた。ロボットが言うには、土星から来たそうだ。となるとサンタではなくサターンということになる。

 しかし、どうやら贈り物は持ってきてくれたらしい。宇宙人でもサンタでもないが、贈り物を持ってきてくれたというのは彼らにとって嬉しいことだ。またしてもUFOから光の柱が立ち、なにやら洗濯機くらいの大きさの箱が落ちてきた。どうやら海水をろ過する装置らしい。

 しかし、海なんてとうの昔になくなっているからなんの意味もない。それに、ロボットが言うには、ろ過するための燃料として真水が必要だという。しまいには「地球は水の星と聞いていたのですが」と言い出すし、もう何が何やら……。宇宙ロボットは役目を終えると、「それではお元気で」と言って、やかましい鈴の音とともに宇宙の彼方に消えていった。

 人々はしばらく呆然と立ち尽くし、ろ過装置を見ていた。と、「いらねえものよこしやがって」と飲んだくれのおやじがろ過装置を軽く蹴った。すると、ろ過装置は何やら異音を発し、小刻みに揺れたかと思うと、煙を出し始めた。どうやら故障したらしい。人々は呆れてしまった。

 人々が、一人、また一人と家に帰り始め、最終的にろ過装置だけがポツンと残った。しかし、人々がとぼとぼ帰るなか、子供はひとり残り、ろ過装置を物珍しそうに見ていた。と、装置がガタガタと震え始め、小さく爆発した。そして、いきなり大量の真水が噴水のように勢いよく飛び出した。「水だ!」子供は大喜びで装置に近づき、水を浴びた。

 その後も水は噴き出し続け、地球は再び水の星になった。シャンシャンシャンシャン。あれから何年後かのクリスマスのある夜、赤いUFOが再び空に現れた。UFOは大急ぎで土星に戻り、真水発生装置を持ってきたのだった。土星から来た宇宙ロボットはUFOから外を見るなり言った。「なんだ、やっぱり水の星じゃないか。もう何が何やら……」

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