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【小説】 想像に関する短い小説

 私は、この【小説】 想像に関する短い小説 の中の人物である。ダンテの神曲におけるヴェルギリウスである。したがって、この文章はエッセイやノンフィクションではなく、明確に想像の発露としての小説である。  布団に入り、目をつぶる。すると、布団が大海原の上を浮かぶ。手や足が布団から外に出たら、海に落っこちてしまう。プカプカと海の上を漂流する想像をしたことがあるか?目を開けてはいけない。背中から感じる波の微細な揺れ、微かに香る潮の匂い、布団から落ちてはいけないという緊張感を想像した

    • 【小説】 とある部族の社会

       B国は緑豊かな国で知られている。そこには古代から手つかずの原生林が残っているため、学術的にも非常に価値の高い自然が残っているわけだが、しかし、そうした研究は禁止されていた。それは、その原生林に現代文明とは隔離された部族が暮らしているからである。彼らの生活や文化を守るため、彼らと接触することは禁止されており、接触の恐れがある行為も禁止されていた。  科学者らはそうした考えに理解を示す素振りを見せながらも、内心では賛同しきれないでいた。原生林には貴重な資源があるかもしれない。

      • 【小説】 生あたたかい街

         低くて鈍い灰色の空の下に、ところせましと団地が建っている。そして、そのすぐ近くには巨大な工場がある。工場が吐き出すスモッグと、トラックから出る排気ガスで、この街はつねに生あたたかい。  日の当たらない裏路地には、様々な店が不潔に並んでいる。欲望のままに積み上げられ、増殖していった建物は歪な怪物のようである。昼休みを告げるブザーが鳴ると、工場から労働者が解き放たれる。そして、油にまみれた労働者は裏路地に吸い込まれていく。   俺は、そんな裏路地のなかの店の一つ、定食屋の厨

        • 【小説】 事故事故物件

           心理的瑕疵物件とは、住むことにあたって、精神的に不快感を感じたり、心理的に抵抗を感じる物件のことである。早い話、事故物件のことである。しかし、その代わりと言っては何だが、価格は安く済む。つまり、精神的に不快を感じない人にとっては格安物件ということになる。ユウヤは霊的な事柄については全く信じていないから、事故物件に住むことに抵抗はなかった。  心理的瑕疵物件という表記は、一度誰かが住んでしまえばなくなる。だから、彼は進んで事故物件に住み、頻繁に引っ越すことで、その表記を次々

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        【小説】 想像に関する短い小説

          【小説】 望郷

           気付けば彼は50歳になっていた。作家という職業柄、家に籠っていることが多く、外に出ると言っても近所の川沿いを散歩する程度だった。交友関係もさほどあるわけではなく、妻との会話もほとんどなかったから、人と話す機会もめったにない。だからと言って、執筆活動が進んでいるというわけでもなく、毎日机に向かっては、何も書かないまま一日が終わるという日が何日か続いていた。  ある朝、彼はいつものように8時に起き、妻との会話も少なく簡単に朝食を済ませたあと、静かにコーヒーを飲んでいると、何と

          【小説】 望郷

          【小説】 小学生に映画を語らせる2

          ❝ここは放課後の小学校の教室だ。これは実際の出来事ではなく、普遍的な無駄話である。従ってここで話す子供たちも我々の想像の産物だ。この教室で起きていることはいずれも現実ではない。しかし、どんな世界であろうと、無駄話は普遍なのだ。この子供たちは我々と共通の言語を話すが、彼らの祖国は我々の心の中にしか存在しない。❞  夕日が差し込む教室。校庭で元気に遊ぶ子供たちの声が聞こえる。教室にはタケルとモリヤマの二人だけである。  「この前、D.フィンチャーの【ゲーム】を観たんだけど、ハ

          【小説】 小学生に映画を語らせる2

          【小説】 世紀末サンタ

           19XX年、未曽有の大戦争が勃発し、世界は荒廃して砂漠と化した。俗に言う世紀末である。それでも人々は必死に生きていた。国と呼べるようなものは無くなっていたが、人々は互いに協力して生活を送っていた。  そこで子供は生まれ、成長した。子供は砂漠となる前の世界を話としては聞いていたが、実際には知らなかった。雪の降るクリスマスにトナカイに引かれたそりに乗ってサンタクロースがやってくることも話でしか知らなかった。  もっとも、サンタクロースに関しては世紀末以前も空を飛んでいたわけ

          【小説】 世紀末サンタ

          【小説】 サンプリング・ラブ

           レイはクラブでDJをしている。25歳だから年齢は若い。ユキも23歳で若い。彼らはクラブで出会い、そして付き合った。もっとも、彼らは大人だ。大人だから、告白をして付き合うとかではない。自然な流れで彼らは付き合った。  少しまだ肌寒さが残る冬のある日、二人は手を繋いで歩いていた。狭い歩道を横に並んで歩いていた。二人は「まだ肌寒いね」とか、「天気がいいね」とかしか言わなかった。冷たく乾燥した空気の寒さに、手を繋いだ二人はさらされた。時折吹く冷えた風に、二人は何度も手を離しそうに

          【小説】 サンプリング・ラブ

          【小説】 アフター・ゾンビ

           太平洋沿岸に浮かぶ一隻の船があった。この船はU国の国有の船である。巨大なこの船はステルス機能を備えていて、他国からは感知されない仕様になっていた。船の正体は移動型の生物兵器研究所である。生物兵器の使用はジュネーヴ条約で禁止されているから、この研究をすること自体、公に行うことはできない。そこで、常に公海上を移動させることで、極秘に研究を行っているのである。しかし、2週間ほど前からU国はこの船と連絡をとることができないでいた。  それからさらに3日後、G国の海岸に人の遺体が打

          【小説】 アフター・ゾンビ

          【小説】 地下計画

           新たなスーパーコンピュータが完成した。そのスーパーコンピュータは、従来のスーパーコンピュータとは比べ物にならない性能を誇るものだった。そして、そのスーパーコンピュータが、地球の未来について弾き出した答えは、どう計算しても100年で住めなくなるというものだった。原因は、戦争であったり、感染症の拡大であったり、環境汚染であったり、様々なものが考えられるが、それらを総合考慮した結果、100年で住めなくなるということだった。  そこで、科学者らは宇宙に移民する計画を立てた。地球に

          【小説】 地下計画

          【小説】 青い太陽

            現代芸術の美術展に男がいた。男が美術展にいることは、何もおかしなことではないが、彼は他の男とは違った。何が違うかと言えば、彼の目的は作品を鑑賞することではないということである。作品の鑑賞が目的でないとすれば、目的は盗みかと思うかもしれないが、彼の目的は盗みでもなかった。  であれば彼の目的は何なのか。それは、「作品を観ている人」を見ることであった。  彼は、現代芸術の美術作品の良さを全くわからなかった。しかし、それは美しさがわからないという意味ではない。例えば、彼はク

          【小説】 青い太陽

          【小説】 気になること

           「それじゃあ、おやすみなさい」そう言うと、老人は布団に入った。「おやすみさい」彼の妻もそう言うと布団に入った。しかし、老人は布団に入ってみたものの、どういうわけかなかなか眠れなかった。妻の静かな寝息が聞こえる。彼女はもう寝てしまったようだ。「まいったな」と彼は小さくつぶやいた。そして、こういう寝れないときに限って、色々考え事をしてしまうものである。  彼には、気になる言葉の表現があった。彼は、犯罪に手を染めたのに、犯罪から足を洗う、という表現が気になった。結局、一度犯した

          【小説】 気になること

          【小説】 余命宣告

           ヨシオは25歳の青年だった。何となく高校に行き、何となく大学に行き、何となく就職をし、何となく生活している青年だった。そして、何となく家に届いていた健康診断のお知らせを見たヨシオは病院に行き、診断を終えたのだが、後日再度診断するようにとの知らせが家に届き、もう一度診断をしたのだった。待合室で待つようにと言われたヨシオは、何となく雑誌を読んで待っていた。ヨシオの名前が呼ばれたので、彼はノックして診察室に入っていった。診察室には深刻な顔をした医者と、看護婦がいた。  ヨシオが

          【小説】 余命宣告

          【小説】 火焔ブレイクダンス

           タケルはツイていないので、何をやってもうまくいかなかった。小学校の入学式で名前を間違えられて呼ばれたことに始まり、家族で言った旅行で一人だけ食べ物でお腹を壊したり、手違いで陸上部に入れらてしまったり、一日で二回も鳥の糞が落ちてきたりした。そんな彼は専門学校に通う19歳の青年になった。しかし、相変わらずツイていないので、何をやってもうまくいかなかった。  冬のある日、友達のテツと一緒に歩道を歩いていた。前日に雪が降ったので、歩道は滑りやすくなっていた。テツはタケルの高校時代

          【小説】 火焔ブレイクダンス

          【小説】 続・ハイパー・ゴリラ・ドリル

           惑星E-473は惑星開発公社の所有する星である。ここでは、貴重な鉱物資源を採ることができる。ここで採れる鉱物資源が、人類の技術を飛躍的に進歩させたと言っても過言ではない。そんな採掘に欠かせないのが、F-3型惑星開発用掘削機、通称ハイパー・ゴリラ・ドリルである。誰かが初代をゴリラ・ドリルと言い出したのが始まりで、2代目のスーパー・ゴリラ・ドリルの次だから、ハイパー・ゴリラ・ドリルと呼んでいるのである。  なぜ、ゴリラ・ドリルと呼んだのか。それは、驚異的な推進力で地下を掘り進

          【小説】 続・ハイパー・ゴリラ・ドリル

          【小説】 日記

          1月1日  今年の目標は、日記をつけること。3日坊主にならないようにする。 1月2日 餅を食べた。 1月3日 祝・3日坊主にならずに済んだ。 1月4日 1月5日 (これ以降、7月6日まで何も書かれていないため省略) 7月6日 彼氏ができた。云々。(「云々」の部分は、長ったらしく愛の言葉が書いてある。ここでは書かない) (7月7日から8月23日まで痴話話ばかり続く。癪なため省略) 8月23日 祝・同棲することになった。味噌汁つくれるように練習! (9月19日ま

          【小説】 日記