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【読書日記】店長がバカすぎて/早見和真
本や映画の感想なんて、人それぞれだというのは勿論わかっているつもりだった。
それでも自分が面白いと思ったものを、SNSで誰かが「あんまり」と評しているのを見つけてショックを受けたり、あるいは自分では面白くなかった、どこが良いか分からないとさえ思ったものを、さぞ世の中の人も同じ気持ちだろうとSNSサーフィンすれば、別の誰かは面白かったと褒めていて拍子抜けした今日この頃。
他人の感想なんて当てにならない!
いやむしろ自分の感想が当てにならないのか!?
そういうわけで「読書感想」なんていろんな感想があって当然のものに対して、自分の感想を述べるのもビクビクといった感じで、こうしてわざわざ断わりを付けさせてもらうことにした。
本当に、「超個人的」な感想です。
谷原京子、二十八歳。吉祥寺の書店の契約社員。超多忙なのに薄給。お客様からのクレームは日常茶飯事。店長は山本猛という名前ばかり勇ましい「非」敏腕。人を苛立たせる天才だ。ああ、店長がバカすぎる!毎日「マジで辞めてやる!」と思いながら、しかし仕事を、本を、小説を愛する京子はー。全国の読者、書店員から、感動、共感、応援を沢山いただいた、二〇二〇年本屋大賞ノミネート作にして大ヒット作。巻末にボーナストラック&早見和真×角川春樹のオリジナル対談を収録!
早見和真さんの著書を読むのは初めてだったが、小説の出だしでまず、
「あ、この作家さん苦手かも」と身構えた。
『いつも通りの長い長い店長の話に、いつもよりはるかに苛立っているのに気がついて、私は生理が近いことを思い出した。』
これを書いたのが女性作家なら何とも思わなかっただろうが、女性のイライラを、イコール生理とする男性が個人的に嫌いなのだ。
(補足すると、無能な上司や無神経なパートナーが、100%オマエが原因だというのにその可能性を1ミリも考えてないであろう様子で、「何イライラしてるの?生理?」と能天気に言ってくる、そういう男が嫌いなのだ)
しかしそれは杞憂で、そのあとは女性へのステレオタイプに感じる描写は見当たらず、むしろ軽快な文章で最後まであっという間に楽しく読み進められた。
主人公が28歳のアラサー契約社員で、無能な上司(店長)にイライラさせられたり、癖のあるお客様達への対応に辟易していたり、主人公と同じくガルルルッとなりやすいタイプの私には、感情移入しやすい部分が多かった。
特に、給料日前にはカツカツになって給料日までの何日かを一日あたり数百円で乗り切ろうとする様子は、まさに私。
さらには後輩だったアルバイトスタッフが大手出版社へ正社員として就職し、僻みのような感情も生まれてくる。一緒に働いていた後輩が突然高給取りになる、そういう時って誰でもそういう黒い感情が湧いてくるだろうし、もやもやするはず。
ただそのもやもやの原因は結局は自分なのだ。
就職活動を頑張っていた後輩に黒い感情を向けるのは間違っているし、自分がキャリアに頓着していなかったという現実がブーメランになって返ってきただけだ。
それでもやっぱり、自分の情けなさを自分より若い子に突き付けられるようでツライ。
また主人公が薄給を嘆くシーンも多かったが、書店員さんに限らず接客業の経験がある人なら共感しきりだろう。出版業界に関わらず、アパレル業界や美容業界のようなキラキラした業界に憧れを抱いて入っても、一日中立ちっぱなしでしんどいうえに、クレーマーの対応。会社によっては売上ノルマが課せられるところもあるだろう。
それでも他の職種に比べて給料が低いのは「やりがいの搾取」で成り立っているから。
主人公は愛社精神があるタイプではない。店長がバカでも、毎日マジで辞めてやると思いながらも、結局は本が好きで、本と読者を繋ぐために続けてきたのだ。
ただ終盤になって、主人公が店長に淡い恋心のようなものを抱き始めるのは不自然に感じた。
中盤まで店長に対しては無能だの気持ち悪いだのと思っていたわけだし、女性は気持ち悪い認定した人を好きになることって無いような気がするからだ。それがなぜだか店長が気になり始めてということになったので、そこから主人公への共感や感情移入がぷつっと途切れてしまった。
その部分をのぞけば、本好きはみな興味があるだろう、書店員さんの日常やお仕事の大変さを垣間見ることができて面白かった。
途中途中にんやりしてしまうような小気味好い文章と、主人公や店長といった個性的なキャラクターばかりで楽しみがら読めたし、各章ごとの「バカすぎて」の意味にも納得。
私もやはり書店でアルバイトしてみたいという気持ちが少なからずあるものの、紙で指を切りやすいので、そんなちっぽけだが超現実的な理由で書店で働くことを諦めている。現状では書店が舞台の小説を読んで満足としている。