祈りと社会的処方箋
先日、Instagramに投稿した通りアート・ミックス・ジャパン2024を見るべく新潟市民芸術文化会館、りゅーとぴあを訪ねた。
僕は法相宗大本山 薬師寺の「修二会花会式」を見たくて事前にチケットを購入していた。
花会式とは、意識・無意識のうちに犯している過ちを僧侶が国民に代わって懺悔し、国家繁栄・万民豊楽・天下泰平・風雨順次・五穀豊穣・病気平癒を薬師三尊様に祈願する、8世紀から続く日本の重要な法会である。
御本尊に10種類の造花を供えることから花会式と呼ばれる。
開演まで時間があったのでアート・ミックス・ジャパンのパンフレットを眺める。
「より良い人生を生きるために、必要なものとは」
(前略)
伝統芸術が未来の医療になりえると聞いたら驚くでしょうか。
病院は病気を扱うための病気学が専門の場ですが、わたしは健康を扱う健康学や養生法が必要だと思います。
体や心が健康であるためには、頭の知識で得る情報だけでは不十分で、実践や体験により体そのもので感じ取る必要があります。
新しい目で伝統芸術を見直してみてください。
そこには先人たちが培ってきた体や心の知恵、よりよい人生を生きていくための叡知がタイムカプセルのように詰まっています。先人たちは心身の知恵を学問としてではなく美として高めてきた歴史があり、それは伝統芸術として伝えられています。
混迷の時代の中で、軸をぶらさず朗らかに生きていくために、伝統芸術こそが必要なのです。
医師・医学博士
軽井沢病院院長 稲葉俊郎
パンフレットの表紙に書かれてあった文言を引用した。
まさしく僕の考えていたことと同じことが記載されていたので驚いた。
社会的処方という言葉がある。
グローバル化やSNSの普及によるコミュニケーション手段の変化などにより便利で快適な生活ができる一方で、地域コミュニティの衰退やリアルでの人との関わりが希薄になっている。
日本はOECD加盟国20か国の中で家族以外との交流がない人が最も多く、寄付・人助け・ボランティアについて調査した「世界人助け指数2021」でも114か国中で最下位だった。
自己責任論が強いと言われる日本社会の空気感も社会的な孤独・孤立問題に悪影響を及ぼしていると考えられる。
こうした問題に対し、地域活動や市民活動そのものを薬に見立て「医療行為ではなく地域とのつながりを創出することで孤立問題を解決する」ことを社会的処方という。
参考文献:ながおか市民協働センター「ながおかの社会的処方箋」
効率的な方法、合理的なやり方だけで問題は解決しない。
時に文化や宗教や芸術に救いを見出そうと先人たちは考えた。
科学技術が未発達で救えない生命が多かった時代には祈ることで心の平安を保とうとした。
祈りは自分を越える。
誰かのことを慮って見えない何かに向かって祈る。
ひたすらに祈る。
そのように誰かのことを思いやる時間が優しい薬になって自らの心を癒すのだと僕は思う。
先に引用した稲葉博士の言葉を反芻する。
先人たちは心身の知恵を学問としてではなく美として高めてきた歴史があり、それは伝統芸術として伝えられています。混迷の時代の中で、軸をぶらさず朗らかに生きていくために、伝統芸術こそが必要なのです。
まずは身近にいる人に配慮すること。
迷ったら原点に立ち返り文化に触れて心の熾火を灯す。
そして暗闇の中で立ちすくむ人にそっと光を分け与える。
今日も皆様にとって、良い一日になりますように。
このnoteのささやかな祈りが誰かにとって優しい薬になることを願って。
👆アート・ミックス・ジャパン2024の模様