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読書録

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読んだ本の感想などです。
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2023年9月の記事一覧

読書録「ライフワークの思想」2011/2023

外山滋比古「ライフワークの思想」(筑摩書房) 読み終わってから約1週間後に感想を書いている。 次の本を読みたい、という欲求に負け読書ノートを書くことをなおざりにしてしまった。読了後の感動をライブに書き残すため、やはり日を置くことなく記録をつけるべきだろう。 そんなわけで今回の感想文はいつもより落ち着いた文体になることが予想される。(多分) 本書は、見過ぎ世過ぎの仕事とは別にライフワークという仕事にスポットを当て「知的生活とは何ぞや」を論じたものである。レトリックの専門家

読書録「まちがったっていいじゃないか」

森毅「まちがったっていいじゃないか」(ちくま文庫) 教室はたくさん間違える場所だ。 人は皆、不完全で叩けばホコリが出るけれど、その人にしかない素晴らしい個性をもつ。 そのような個性を自分自身で磨き上げるためにも失敗を恐れず、周囲のネガティブな意見に流されず、素直な気持ちを大切にすることを本書は教えてくれた。 強者が弱者をいたわる、そんなものだけがやさしさとは、ぼくは思わない。ドジでないという特権において、ドジな人間をいたわる、といったものとは思わない。人間に共通な弱さ

読書録 三浦綾子「続氷点(上)」より2014/2023

心にしみる名言にたくさん出会えた一冊。 三浦綾子「続氷点(上)」 「何度も手をかけることだ。そこに愛情が生まれるのだよ。ほうっておいてはいけない。人でも物でも、ほうっておいては、持っていた愛情も消えてしまう」(p315) 「自分一人ぐらいと思ってはいけない。その一人ぐらいと思っている自分にたくさんの人がかかわっている。ある一人がでたらめに生きると、その人間の一生に出会うすべての人が不快になったり、迷惑をこうむったりするのだ。そして不幸にもなるのだ」(中略)そして、真の意

誰かにとってのお守り-読書録「思いがけず利他」-

中島岳志「思いがけず利他」(ミシマ社) 僕たちは、いつも順風満帆にいくことばかりではない。 予期せぬ出来事から突然、弱い立場に陥ることもある。 ロールズの無知のベールのたとえもあるように、自らの属性が全く分からない場合、弱者を切り捨てるのではなく、手を差し伸べる思いやりを僕たちは持っているはずだ。 「他力本願」とは、すべてを仏に委ねて、ゴロゴロしていればいいということではありません。大切なのは、自分の限りを尽くすこと。自力で頑張れるだけ頑張ってみると、私たちは必ず自己の

読書録「どれくらいの愛情」2011/2023

白石一文「どれくらいの愛情」 表題作を含む4編からなる小説集。 物語の舞台はいずれも著者の出身地である福岡だった。登場人物たちの博多弁や街の描写が自然に感じられたのは僕自身、以前旅行で博多を訪れたからだろう。 著者が「あとがき」にも触れていたようにこれらの作品群には「目には見えないものの大切さ」に重点を置いている。 では「目に見えないもの」とは一体何なのか。 印象に残った台詞等から考えてみよう。 「人はどんなに辛いときでも夢だけは見ることができるのではないか。そしてそ

2月のセプテンバー

宇宙から届く水素の発光スペクトルの波長は地球上の水素より長い。これはドップラー効果による。地球から遠ざかりつつある水素が発光しているのである。あちこちの星から発光される水素スペクトルを検討すると、遠くにある星の水素ほどドップラー効果が大きいという。 これはどういうことか? 地球から遠い星ほど地球から遠ざかる速度が大きいということである。 はるかかなたの星は光速で地球から遠ざかっているかもしれない。 その星から出た光はどうなるのだろう。 光速で遠ざかる星から出た光速の光は後

大切な絵本

子どもの頃から大好きな絵本の1冊に「ぐるんぱのようちえん」という作品があります。 簡単にストーリーを紹介すると自信がなく孤独でいつもメソメソしていたゾウのぐるんぱは、仲間のゾウたちの励ましと応援によって見違えるようになり町へ働きに出掛けます。 クッキー屋さん、お皿屋さん、靴屋さん、ピアノ職人、自動車屋さんと色々な仕事を経験しますが、どこの職場でも、あまりに大きすぎる規格外のものを作るので、売り物にならないと否定され続けます。 心が折れそうになったぐるんぱですが、ある日1