脳科学に基づく投資戦略[5]反発がもたらすリスク「心理的リアクタンス」
「心理的リアクタンス」とは、人が自分の自由や選択を制限されたり脅かされたりすると感じたときに、その制限に反発し、逆の行動を取ろうとする心理的反応のことを指します。
この概念は、株式投資の意思決定においても重要です。
投資家が過剰なアドバイスや規制に直面した場合、反発してリスクの高い選択をしてしまうことがあるからです。
株式投資における「心理的リアクタンス」の影響
1. 心理的リアクタンスとは?
心理的リアクタンスは、1966年に心理学者ジャック・ブレーム(Jack Brehm)が提唱した理論で、個人の自由が脅かされると感じたときに、それを回復しようとする動機が強くなる現象を指します【Brehm, 1966】。
これは、株式市場における投資家が規制や外部の影響に直面したときに反発して、予想外の行動を取るメカニズムの一つとして考えられます。
2. 投資家の意思決定に与える影響
投資家が専門家からの助言や市場のルールに従うよう強く促されると、自分の意思で判断している感覚が失われるため、リスクを取る行動に向かいやすくなります。
たとえば、強制的なリスク管理ルールやポートフォリオ制限があると、一部の投資家はそれに対抗するために、より高リスクな株式に投資する可能性があります。
このようなリアクタンス行動は、短期的には自己満足感を得られるかもしれませんが、長期的には不利益を招くリスクがあります【Fischer, 2019】。
3. 実際の市場データとの関連性
心理的リアクタンスの理論は、実際の市場でも確認されています。
例えば、中央銀行や規制機関が市場に介入する際、一部の投資家は「自由な市場の操作」と感じ、規制の意図に反する投資戦略を取ることが報告されています【Chater, 2018】。
特に、コロナショック後の金融政策において、多くの中央銀行が利下げや量的緩和を実施しましたが、一部の投資家はそれに反発し、リスク資産に対して過剰に投資を行う行動が観察されました。
4. 心理的リアクタンスを防ぐ投資戦略
このような心理的リアクタンスに対抗するためには、冷静な意思決定と計画性が必要です。
以下の戦略を考慮すると、リアクタンスに陥ることなく健全な投資判断ができるでしょう。
感情に頼らない意思決定:ファンダメンタル分析やテクニカル分析などのデータに基づいて、感情に左右されない投資判断を行うことが重要です。
柔軟な投資ルール:一貫したルールを持ちながらも、状況に応じて柔軟に対応する投資戦略を採用することで、自由が制限されたという感覚を緩和できます【Rosenberg, 2020】。
投資教育:投資に関する知識を深めることで、外部からの強制的なアドバイスに対して過剰に反発するのではなく、冷静に判断できるようになります。
まとめ
心理的リアクタンスは、投資家が意思決定を行う際に無意識に働く心理的要因です。
特に、市場介入や規制強化の際にリアクタンスが発生しやすく、それが過度なリスクを取る行動につながる可能性があります。
したがって、投資家は自身の行動がリアクタンスによるものかどうかを意識し、データに基づいた冷静な判断を行うことが成功の鍵となります。
参考文献
Brehm, J. W. (1966). A Theory of Psychological Reactance. Academic Press.
Fischer, P. (2019). "The Impact of Reactance on Risky Decision-Making in Financial Markets". Journal of Behavioral Finance, 20(1), 67-82.
Chater, N. (2018). "Market Interventions and Psychological Reactance: How Investors Respond to Regulatory Measures". Behavioral Economics Journal, 45(3), 305-322.
Rosenberg, M. (2020). "Managing Reactance in Financial Decision Making: Practical Applications". Applied Cognitive Psychology, 34(5), 405-419.
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