分からないと怖い【脳科学×投資#26】曖昧性効果
投資の世界では、成功するために何かしらのリスクを取ることが避けられません。
しかし、株式市場の「不確実性」や「未知のリスク」によって、慎重すぎる判断をしてしまうことがあります。
ここで大きく関わってくるのが「曖昧性(アンビギュイティ)効果」と呼ばれる心理的な傾向です。
この効果は、私たちが確実性のある選択肢を好むために、不確実な状況を避けがちであることを指します。
このため、たとえ成長可能性が高い投資対象であっても、「どうなるかわからないから」と回避し、チャンスを逃してしまうことがあります。曖昧性効果を理解し、それに対処することで、より論理的で冷静な投資判断が可能になります。
本記事では、科学的根拠に基づき、曖昧性効果の特徴と克服方法を考えてみましょう。
曖昧性効果とは?エルズバーグのパラドックスでの実験例
曖昧性効果について理解するために、アメリカの心理学者ダニエル・エルズバーグの「エルズバーグのパラドックス」と呼ばれる実験を見てみましょう。
エルズバーグは、次のようなシンプルな実験を考えました。
まず、赤と黒の玉が50個ずつ、合計100個入っている透明な箱と、同じく赤と黒の玉が100個入っているものの、内訳がわからない箱を用意します。
そして、「赤い玉を引けば報酬がもらえる」と被験者に伝えます。
さて、あなたならどちらの箱から赤い玉を引こうと思うでしょうか?
内訳がはっきりしている最初の箱を選ぶ人が多いでしょう。
しかし実際には、2つ目の「内訳がわからない箱」からでも赤い玉が出る確率が低いとは限りません。
ですが、私たちは不確実性を感じると無意識に避ける傾向が強くなります。
この「曖昧性効果」は、株式投資においても頻繁に現れます。
例えば、将来性があると考えられる成長株に投資する際、その企業の業績が安定していなかったり、新興市場での競争が激しかったりすると、「利益を出せるかが曖昧だから」と投資を避けるケースが多くなります。
逆に、今は利益が出ていないような成熟企業の株を選ぶこともありますが、これは「確実に何らかの利益が出ている」という要素が安心感を与えるためです。
結果として、本来の目的である「利益を生み出すための合理的な投資判断」が曖昧性効果によって偏ってしまうのです。
曖昧性効果を克服する3つの方法
曖昧性効果により、投資チャンスを逃したり、リスク回避が行き過ぎて損失を被る可能性もあります。
以下の3つの方法を活用し、曖昧性効果を和らげていくことができます。
十分な情報を収集する
曖昧性効果は、情報が不足している時に強く表れます。
投資対象の企業や業界についての情報を集め、理解を深めることで「未知のリスク」を減らし、曖昧性を感じにくくなります。
たとえば、新興企業に投資する場合、その企業のビジネスモデルや成長性、競合他社の状況などを調べることで、ある程度の見通しを持つことが可能です。
また、企業の財務指標や市場動向を把握することも、リスクに対する心理的抵抗を和らげるために有効です。
情報を増やすことで、感情的な反応を抑え、より論理的に判断することができます。
確率的な思考を身につける
曖昧性を感じると不安になりがちですが、数値としてリスクを捉えることで曖昧さを減らすことができます。
リスクが不確実な投資対象についても、「過去のデータを基にどの程度のリターンが見込めるか」を数値化することで、確実性のない状況でも理論的に評価が可能です。
具体的には、投資対象のリスクとリターンの割合を計算したり、リスクの範囲を想定してシミュレーションするなどが有効です。
リスクに対する確率的な考え方を取り入れると、不安が緩和され、曖昧性に左右されずに合理的な選択が可能になります。
長期的な視点を持つ
短期的な結果にこだわると、曖昧性効果が強まりがちです。
長期的な視点で投資を考えると、一時的な市場変動やリスクのある状況に対して冷静でいられます。
例えば、成長が期待できる新興企業やテクノロジー関連の株式などは、短期的にはリスクが高く見えるかもしれませんが、長期的には大きなリターンを期待できる場合もあります。
このように、時間軸を伸ばすことで、曖昧性にとらわれることなく、計画的で安定した投資が実現します。
まとめ:曖昧性効果の理解と対処で冷静な投資を
曖昧性効果は、株式投資において重要な判断に偏りをもたらす心理的要因の一つです。
しかし、十分な情報を収集し、確率思考を取り入れ、長期的な視点を持つことで、この効果を軽減することができます。
私たちがどのように投資を行うかは、単に個々の成功にとどまらず、市場全体の健全性にも影響を与えるものです。
共にこうした心理的偏りを克服し、理想的な投資戦略を追求していきましょう。
曖昧性効果を理解し克服することで、投資における冷静な判断と合理的な選択が可能になり、安定したリターンを実現する道が開けます。
参考文献
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Camerer, C., & Weber, M. (1992). Recent Developments in Modeling Preferences: Uncertainty and Ambiguity. Journal of Risk and Uncertainty, 5, 325–370.
Hsu, M., Bhatt, M., Adolphs, R., Tranel, D., & Camerer, C. (2005). Neural Systems Responding to Degrees of Uncertainty in Human Decision-Making. Science, 310(5754), 1680–1683.
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