【脳科学×投資#17】調べすぎて…『情報バイアス』
情報過多の落とし穴:株式投資における「情報バイアス」の影響を考える
株式投資の世界では、情報は重要です。
市場のニュース、企業の財務データ、専門家の分析など、あらゆる情報が私たちの目の前に提供されています。
しかし、情報が豊富であるがゆえに、時に「必要以上の情報を求めすぎる」ことがリスクとなる場合があります。
これが「情報バイアス」です。
今回は、情報バイアスがどのように私たちの投資判断に影響を及ぼすかを、脳科学の視点から探ってみましょう。
情報バイアスとは何か?
情報バイアス(Information Bias)は、意思決定に際して、実際には不要であるにもかかわらず、追加の情報を求めたり、それが判断に影響を与えたりする心理傾向です。
研究によれば、人間の脳は決定を行う際に「不確実性」を嫌うため、追加の情報を収集することで安心感を得ようとする性質があります (Baron et al., 1988)。
このため、本質的に役立たない情報であっても、あたかも重要であるかのように感じやすくなるのです。
株式投資における情報バイアスの影響
株式市場では、情報が日々あふれています。
しかし、そのすべてが投資判断に役立つわけではありません。
例えば、企業の業績に直接関係しないニュースや、日々の市場動向を詳細に分析する情報などがそれに該当します。
実際の投資において、これらの情報が判断を鈍らせたり、判断基準を曖昧にしたりすることがあります (Russo & Schoemaker, 2002)。
情報バイアスが引き起こす「過剰分析」とは?
情報バイアスは、投資家に「過剰分析」(Analysis Paralysis)を引き起こす要因の一つです。脳科学的には、脳が多量の情報を処理しきれなくなると、逆に最適な意思決定ができなくなることがわかっています。これは、特定の情報に執着しすぎることで生じる「選択の逆転」や「行動の先延ばし」にもつながるものです (Schwartz et al., 2002)。
情報バイアスを避けるための戦略
情報バイアスを避け、より合理的な判断を行うためには、以下のような戦略が有効です。
情報のフィルタリング
必要な情報と不必要な情報を区別する能力を鍛えることが大切です。例えば、短期的なニュースは長期投資にはあまり影響しないことが多いため、過度に追い求めないよう心掛けましょう。シンプルなルールを設定する
自分の投資基準に基づいたシンプルなルールを設定することで、情報収集の時間を削減し、意思決定のスピードを上げることができます。これにより、脳が情報を処理する負担が軽減されます (Gigerenzer, 2007)。直感を尊重する
意外かもしれませんが、過剰な情報収集よりも、直感に従った方が良い判断ができる場合があります。これは、脳が無意識に情報を統合して意思決定を行う「ガットフィーリング」と呼ばれるプロセスに関連しています (Dijksterhuis et al., 2006)。
まとめ
情報バイアスは、私たちの投資判断に意外な影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
特に、情報を収集することで「安心感」を得ようとする傾向が、実際の意思決定を阻害することもあることを理解しておくことが重要です。
今後も一緒に、脳科学の知見に基づいた適切な投資判断について考えていきましょう。
参考文献
Baron, J., Beattie, J., & Hershey, J. C. (1988). Heuristics and biases in diagnostic reasoning: II. Congruence, information, and certainty. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 42(1), 88–110.
Russo, J. E., & Schoemaker, P. J. H. (2002). Winning Decisions: Getting It Right the First Time. Currency Doubleday.
Schwartz, B., et al. (2002). The Paradox of Choice: Why More is Less. Harper Perennial.
Gigerenzer, G. (2007). Gut Feelings: The Intelligence of the Unconscious. Penguin Books.
Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., & van Baaren, R. B. (2006). On making the right choice: The deliberation-without-attention effect. Science, 311(5763), 1005-1007.
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