【52ヘルツのクジラたち】「魂の番」が愛を巡らせる。#映画感想文
3月1日(金)公開初日に映画を観た夜から、4ヵ月以上も経っちゃった。当日にふと思い立って、リモートデーの仕事終わりに隣駅の映画館まで足を運んだ。
私が初めて読んだ町田そのこさん作品で、元々原作小説が好きだったものの、映画化の情報はうっすらとしか認識しておらず、なんなら約3年前に読んだ記憶も薄れていた。映画を観終わった直後の感想👇
あ、れ、、、こんなにも重たくて、思わず目を背けたくなるような内容だったっけ…と流れ続ける鮮明な映像を見ながら、頭の中をぐるぐると回転させて記憶のかけらを探し集めたものの、飛び込んでくる映像に圧倒されて押し流された。
公式サイトも貼っておきます。4月期ドラマ『アンメット』でも惹き込まれた杉咲花ちゃんの演技がとっても好き。絶賛アンメットロスです…。
※以下、ネタバレを含む可能性があります
過酷な家庭環境への感情移入
冒頭に出てくる暴力シーンが印象的だ。原作小説が好きだと言っておきながら、断片的な記憶しかなく、映画を観たときは初見とあんまり変わらなかった気がする。ふらっと観に来たことを後悔するレベルで、重てえええと心の中で叫んでた。
誰がどう見ても「虐待」なのに、被害を受けている当事者はその環境が当たり前で、異常なことに気づけない。「本当は愛されたかった」という台詞に胸が締め付けられた。虐待は経験していないけど、暴言と暴力は”わかる”し、我慢していい子にしてたら愛してくれるかもしれないという微かな希望を抱いてしまう(そして瞬時に砕かれる)のも、”ああ、わかる”という感想だ。自分のことを俯瞰で見ながらも、感情移入で胸が張り裂けそうだった。
断ち切れない負の連鎖、人生のカルマ
過去に虐待を受けて育ったのにもかかわらず、モラハラ体質で暴力で支配しようとする相手に惹かれてしまう。側から見るとなんでまた同じようなタイプの人を…と思う反面、本人はそのことに気づいていなかったり、気づいていたとしても見て見ぬふりでやり過ごす。
目の前で起きていることと、過去の経験が重なってしまうからこそ、現実を認められないような気がする。頭ではわかっているけど、感情が追いつかない現象と似ている。現実を認めることは、過去を否定することにも繋がり、とめどない痛みがあふれてしまうのではないか。断ち切れない負の連鎖に居た堪れない気持ちになった。
そして、自分の過去の境遇と重なる少年と出会って救い出そうと奔走する姿は、償いのようにも、愛を巡らせようとしているようにも見える。避けては通れない「カルマ」的なものも感じた。言葉も巡っていて、同じ言葉だとしても「誰に」言われるかで重みが変わることを痛感した。
無意識に発せられる「ふつう」の固定観念
トランスジェンダー男性に対して投げかけられる無意識の言葉がどれだけ鋭利なものか計り知れない。「恋人」という立場で救うことができたら、一生そばにいて守ることができたら、どれほどよかっただろうか、苦しみや葛藤が痛々しかった。
都会と田舎を差別するわけではないけど、やっぱり田舎のほうが悪意のない差別が残っていると思うし、本作でも描かれていた。いちばん味方でいてほしい存在の人に認めてもらえない、迷惑をかけている辛さ。親から子への理想の押しつけが呪縛になっていることを、失うまで気づけない残酷さ。
いろんな社会問題を内包してたなあ〜と改めて感じる。自分が傷つけられたことと別ジャンルになると、いとも容易く傷つける側になってしまうシーンもリアルだった。平気なフリをして生きているすべての人の「声なきSOS」を届けてくれたように思う。
「魂の番」が見いだす救いと希望と未来
「声なきSOS」がタイトルの『52ヘルツのクジラたち』に繋がる。52ヘルツのクジラは、「世界で最も孤独なクジラ」と言われていて、他の仲間たちには聴こえない高い周波数で鳴く世界で1頭だけのクジラのこと。
「声なきSOS」を聴いて救ってくれる存在のことを、「魂の番(つがい)」と表現されている。愛を注ぎ、注がれるようなたったひとりの人と出会える、と。たったひとりの人と出会って終わりというよりも、「魂の番」から注いでもらった愛を、バトンを繋ぐかのように救いの手を差し伸べ愛を注ぎ、巡らせていたように思う。最も孤独な世界で1頭のクジラのことを「52ヘルツのクジラたち」と複数形のタイトルである意味に通じる。
夜明け前の海辺で一緒に、迷いクジラの鳴き声を聴くラストシーンがとてもよかった。少年の声も、クジラの鳴き声も、希望のある終わり方だった。「生きる」ことそのものへの希望を失わないような。救い、救われ、お互いのことを信じる未来に光が宿ったように思う。
最後に
記憶が薄れてきてる部分もあったので、やっぱり観た後すぐに感想文を書きたいな~と思いました!!自戒!!総じて、杉咲花ちゃんの演技には泣かされたし心を揺さぶられまくった。
内容が内容なのでおすすめの仕方に迷うけど、映画(映像)より小説(活字)のほうが生々しさは緩和されると思うので、気になる方はまず原作小説から入った方がいいかな~。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!!