まさかスパイスカレーを作る日がくるなんて
2 × 25 × 12 × 50 = 30,000
えっ?!さ、30, 000?
ザックリ見積もっても、30, 000回作らないといけないのかぁ…はぁぁぁ。
オットのプロポーズをうけたとき、頭に浮かんだ計算。
なんの計算かというと、結婚後にわたしが家族のためにご飯を作る回数である。子どもができてもずっとフルタイムで働くつもりだったので、ザックリ計算には昼食作りは含まれていない。
1日2回の食事(朝晩)を月に25回(外食か総菜で済ませる日が5日間あると仮定)、それを12ヶ月。お互い元気で結婚生活を続けられる年数を50年として見積もった。
30, 000回。1回ずつカウントする意欲も失せる、気の遠くなる数字である。
これまで何度もnoteに書いてきたが、わたしは料理がアレだ。アレというのは、つまり好きではない。食卓を任されて30年近く経つが、これまで料理を楽しいと思えなかった。食べるのは楽しくて、めちゃくちゃ好きなのに。
♢
わたしが料理嫌いというのは、まわりの友人も知っている。
コロッケもポタージュも1度も作ったことがないし、ハンバーグを作ったのも数回だけ。冷凍餃子がデフォルトで、餃子を家で作れるとテレビで知った子どもたちは、たいそう驚いてたっけ。
そんな話を聞いた友人は「ほんなら、家でなに食べるん?」と不思議顔。
材料を切って炒めるだけ、とか、切って煮るだけ、で完成するメニューばかりだ。材料をこねたり、なにかで包んだり、衣をつけたり、揚げたり。そういう手間が苦手なので、ほとんどやらない。
そう答えると、友人は言う。
「その一手間をかければ美味しくなるのに…」
うん、料理が苦でない人にとってはそうなんだと思う。だけど、その一手間がわたしにはできないのだ。だいたい失敗。好きではないことに挑戦したのに失敗する。このダメージは意外と大きい。
ここで、自分の名誉とわたしの料理を食べている家族のために弁明しておくと、料理は嫌いだが一汁三菜を毎晩作っているし、子どもたちのお弁当もずっと作ってきた。
ただ、料理ヘのモチベーションがあまりに低すぎるのだ。
料理への興味が薄く、なんせ楽しくないので、新しいメニューへの探求心もない。これまで何十回も作ったメニューでもレシピを見ないと作れないし、だいたい、目分量というのが分からない。
このあいだは味噌汁を目分量で作ったらあまりに濃い味つけになってしまい、修復のために砂糖を入れてみた。
「なんか今日の味噌汁、変わった味やなぁ」
オットと子どもがそう言うので白状すると、大笑いされた。笑って許してくれるなんて、懐の深い人たちである。
♢
幼いころから料理への意欲は低空飛行。
そんなわたしが「手作りスパイスカレー」と出会ったのは、数年前。noteを通して知り合ったスパイス愛好家、わたなべますみさんとの出会いがキッカケだった。
スパイスカレーは外食で楽しむもの。これまではそう信じて疑わなかった。
スパイスカレーをわたしなんかが作れるわけがない。スパイスを何種類も調合して、手に入れるのが難しそうなオシャレっぽい材料を入れ、いくつものステップを経て、時間をかけてようやく完成する。それがスパイスカレー。そんなイメージを抱いていた。
だから、ますみさんから「オンラインで一緒にスパイスカレー作ってみよう」と誘われたとき、料理がアレなわたしには無理だよぉ、ハードル高すぎよぉ、と内心思っていた。
ますみさんに指定されたレシピに沿ってスパイスを買いそろえると
「本格的なスパイスやなぁ。最後まで使いきれるん?」
とオットは笑った。お見通しである。スパイスを最後まで使いきる自信はまったくなかったし、とりあえず1回作ったらお蔵入りだろうなと思っていたから。
ところが。オンラインでみんなと初めてスパイスカレーを作ったとき。
熱したフライパンにスパイスを入れたら、風が吹いたのだ。色鮮やかなスパイスの風。
フライパンで炒めると、クミン、コリアンダー、カスリメティといったスパイスに熱が入り、たちまち華やかな香りを放った。その匂いを鼻からたっぷりと吸い込む。スパイスの風は脳を駆け巡り、ヒューッと体を通り抜けた。
なにこれ?いままで味わったことのない感覚。
豊潤で辛みと清涼感があるのに、どっしりとした大地のような、草のような自然の香りがする。すごく気もちいい!
なにかが覚醒する感じがした。
いくつものスパイスが混じりあった気もちのいい香りが部屋に充満する。美味しいご飯を作ってるぜ!感がマシマシになる。ふだんわたしが作る料理とはまったく違う異国の香りなので、スペシャル感が半端ない。
スパイスカレー作り、楽しい!素直にそう思えた。
それは、ますみさんをはじめとしたnote仲間の数人が画面越しで同時に同じ料理を作っていた、というシチュエーションのおかげかもしれない。みんなとおしゃべりしながら作れば楽しいんだもの。
でもそれだけではない。スパイスカレーは、わたしの苦手な「一手間」がなくても作れる料理なのだ。
スパイスが絡み合って、いくつもの層からできているような複雑な味がするから、どれほどの手間をかけて作っているんだろう?と思うかもしれないが、材料を切って炒めれば完成!というシンプルな料理なのだ。これぞ、わたしのための料理ではないか。
スパイスの華やかな香りのおかげで、ものすごく立派な料理を作ったんだね、と過大評価される点もたいそう気に入っている。スパイスカレーは料理がアレな人にこそピッタリなのだ。
いまでは、オットも子どもたちも、わたしが毎月作るスパイスカレーを楽しみにしている。
まさか、料理がアレなわたしがスパイスカレーを作るなんてね。
思いもよらなかった事態にわたし自身も驚いているから、友人たちが口をそろえてこう言うのもまったく不思議ではない。
「まさか、カミーノちゃんがイチからスパイスカレーを作れるなんてね。ビックリやわ」
今度は友人たちにも作ってあげなくちゃ。
スパイスカレーを作るたびに体を通り抜ける、あのスパイスの風。あの風に出会いたい。あの風に浄化されたい。
定期的にそんな気もちになる。
結婚生活も30年近くになるから、あと約20年、おそらくあと13,000回くらいはご飯を作っていくのだろう。そのうちスパイスカレーを作るのは何回くらいなのか、自分でも楽しみだ。
元気をくれるあのスパイスの風。あの風に吹かれるために、わたしはこれからもスパイスカレーを作っていく。
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わたしが手作りスパイスカレーに出会えたのは、ますみさんのおかげです。ありがとうございます!
ますみさんの著書「お箸で食べるスパイスごはん」には、料理がアレなわたしでも作れるレシピがたくさん!スパイス料理って敷居が高いわぁと思っている方にこそオススメです。