1冊の本がもつ佇まい
年季が入った本のページをめくるのが好きだ。
パラパラめくると、ほんの少しだけ香ばしい香りがする。ページを開くと、本の余白がうっすらと茶色く変色し、淡いグラデーションを作っている。指で触れると、少しだけザラっとしている。
わたしの本棚には、いい感じに年季が入った本が何冊かある。
そのなかでも、年季の入り具合が1番わたし好みの本。それは、アメリカのコラムニスト“ボブ・グリーン”が書いた『十七歳 1964秋』。
新米社会人のころに憧れの先輩からもらった文庫本で、印刷されたのは1994年。しばらく読んでいないが、年季の入り具合が気に入っているので、まぁまぁの頻度で手にとる本だ。
『十七歳 1964秋』をパラパラとめくりながら、顔を近づけ、大きくゆっくりと息を吸う。年季の入った本独特の、香ばしい匂いを満喫する。
そのあとは、茶色に変色した余白部分をじっくりながめ、ページの上に指をすべらせる。
落ち着く。とても落ち着く。なぜだか分からないが、ひどく懐かしい気持ちになる。
年季の入り具合をこうして堪能したあと、読まずに棚に戻す。
それはなにかの儀式か?と聞かれたら、まったく儀式でもなんでもない。
でも、なぜかこの本にはスッと手が伸びてしまう。この本の佇まいに惹かれているんだろうか。
♢
年季の入った『十七歳 1964秋』と似たような佇まいを見せる本が、昨日わたしの手元に届いた。
送ってくださったのは、嶋津亮太さん。外出自粛のころに嶋津さんが “本を交換しませんか”と呼びかけた企画。こちらに参加し、そのお返事が届いた。
届いた本の佇まいが、年季の入った『十七歳 1964秋』に少し似ている。
届いた本を開くと、余白部分はうっすら茶色に変色する兆しを見せていて、ページに顔を近づけると、わたしの本棚とはちがう匂いがする。少し哲学的な香り。映画をテーマにしたファンタジーの本で、芸術の秋、読書の秋にピッタリ。これから読むのが楽しみだ。
手紙も同封されていた。手書きの文章は格別の嬉しさ。
シーリングスタンプで封印されている封筒も、丁寧な筆跡も、したためられた文章も。嶋津さんのお人柄がにじみ出ている。
嶋津さんからのたくさんの言葉、心の中で大切にとっておきますね。ありがとうございました。
この企画に参加して楽しかったのは、“贈る相手を想像しながら本を選ぶ”こと。相手のことを考えながら選ぶのは難しかったけれど、想像する時間は楽しく、なんとも言えない面白みがあった。
嬉しかったのは、嶋津さんが大切な時間を使って本を選び手紙を書いてくださったこと。わたしのために時間をかけてくれた、それがなによりも嬉しかった。
--------------------------------------------------------------------------------------
さて、嶋津さんといえば。
嶋津さんの代名詞ともいえる『教養のエチュード賞』が絶賛開催中です!
応募要項
▼ 募集作品▼
文章による作品
小説でも、思考の記録でも、インタビュー記事でも、ドキュメンタリーでも、作品のレビュ―でも、形式は問いません。 ▼コンテストスケジュール▼
応募締切:2020年10月1日~10月31日23:59まで(日本時間)
わたしは、まだエチュード中です。エチュード中、エチュード中・・・・・応募期間内にはエントリーします。
興味がある方、一緒にエチュードしませんか?