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読書記録:ワンダーボーイ
韓国の戒厳令発令の際、SNSを通じて知った一冊。
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キム・ヨンス 著
きむふな 訳
『ワンダーボーイ』
クオン 2016年
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韓国でユン・ソンニョル大統領が戒厳令を出したとき、この本の日本版を出版しているクオン社がSNSにて引いていた文章が印象的でした。
「二度と過去には戻らないと。
もし誰かがそんなことをしようとしたら、
私たちは黙っていないと。
何でもやると。
絶対じっとなんかしていないと。
私たちは一人ではないと。」
これは小説『ワンダーボーイ』からの引用で、投稿を見たことが今回、この本を手に取ったきっかけになりました。
1980年代、軍事政権下にあった韓国が舞台。主人公ジョンフンは唯一の家族だった父を交通事故で亡くします。
しかしその交通事故の衝突相手が武装したスパイだった……という偶然から、ジョンフンの父は英雄視、ジョンフン自身も政府によいように担ぎ上げられ、「ワンダーボーイ」と称されます。
やがてジョンフン自身にエスパーの力が備わっていることがわかり、実質的な「ワンダーボーイ」とされるのですが、ジョンフンはジョンフン自身であることを貫こうとします。
時代背景もあいまって、ヘビーな設定ではあるのですが、全体がコミカルで、その重たさを感じさせず、すいすい読み進められるのがよい小説です。
言葉の力を信じて書かれている一冊でもあって、独自のリズムとともに展開される物語のなかに気がつくと引き込まれています。
「二度と過去には戻らないと。
もし誰かがそんなことをしようとしたら、
私たちは黙っていないと。」
戒厳令が出されたとき、深夜にもかかわらず抗議のために集まった人々も、同じ気持ちを胸にしていたのかもしれません。