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マリー・アントワネット

Marie-Antoinette   (米) 2005, Sofia Coppola 2h03 ★★★

公開当時の感想を発掘。んでここへ。だから前のものだよ。今年2025年1月31日にアニメ「ベルサイユのばら」の映画も公開。それに合わせて。


不安

第一報の写真を見て以来、すんごい楽しみにしてた。最初に作ると聞いたときは喜びより不安がまず。英語でベルサイユ使って撮影。心当たりがある。

ベルサイユのばら」実写版。

あれは…辛口になってしまうけど、あの監督さんで宮殿使ってこんな駄作が撮れるんだと、素で驚いた強烈な思い出がある。だって名作「シェルブールの雨傘」のジャック・ドゥミだよ、撮ったの。戻ってこちら。あがって来た写真は雰囲気のあるものだった。サロンでの様子で、遊び呆ける貴族達。おぉ!期待。

驚き

そして予告を見て度肝を抜かれた。むうぅ、やるなソフィア・コッポラ。音楽の使い方が斬新。歴史物に、普通ああいうポップな超現代なの持ってこないもの。

監督さんによると、アントワネットはあの時代の流行の最先端を行く、当時におけるすごく「現代的」な人だったから、そういうのを表現したかったとか。

オペラ舞踏会がすごい。ポップミュージックに合わせくるくると舞い、踊っている。でも浮かないの。目から入るビジュアルと耳からの音が完全に異質なものなんだけど、不思議とすんなり入ってくる。あの合わせ方は今までにないよ。当時の感覚を再現するならああなるんだろうか。

ただ、フェルゼンと出会った帰り道、馬車での BGM。歌い方と、歌詞付きが続いていたせいか、あれは邪魔だった。あの部分を眺めてて、音楽クリップ集という批判が分かんなくもなかったよ。

恵まれた友人関係

この監督さんが恵まれてると思うのは友人関係。友達であっても、自分の仕事とまったく関係なかったり、そうだとしても意見や好みが合わなかったりするものだけれど、この人は違う。

それを最大限自作に生かせるってすごい。大切な要所要所を、自分の好みの分かってる友人兄弟に任せている。相手の色をつぶすわけじゃなく、自分がすり寄るわけでもなく。

とっても女の子

作品が女の子女の子してる。例えば色使い。ポスターやテロップの字がショッキングピンク。ちとヤラシげな強さ。OP 前の、最初のカットに通じるものがある。もうちょい薄めの方が好きだなあ。

でもアントワネット自身もあの宮廷で埋もれず目立つぐらいの何かを放ってたのだから、薄めのピンクじゃ合わないとみたのかもね。

あの時代の現代的な女の子。その通りの描写が沢山ある。衣装も好みだ。変にゴテゴテしたものじゃなく、生地も意外とシンプル。一目で高級感あふれてると分かるものでもない。でも安っぽいわけじゃない。

靴がすごかったー。ほんの一瞬だけ、次々画面に現れては消えていく。用意する方、大変そう…! お菓子も、健康面でどうかは知らんが、女の子っぽさあふれる色。華やかだわ。そういや一瞬映すお皿に、ちゃんとイニシャルが入ってた。そういう細かいこだわりもある。

息苦しさ

連日の馬鹿騒ぎ、遊びまくる。その中での、アントワネットが感じる息詰まるほどのつまらなさ。その表現もうまい。

オーストリアと違い、様式にこだわるフランス宮廷。スノッブな感じが表れてていい。結婚するときの引き渡しの儀式とか、映画の中だと双方同じ英語を喋ってるにもかかわらず、人の種類が全然違う。出てくる人出てくる人、鼻につく気取った風情。

その宮廷での孤独の表し方。始めの方でテラスだかバルコニーに立ってるシーン。周りは寄って来てちやほやするが、誰も心を許せる人がいない。

後半で大階段を上ってるとき。「ぽつんと一人」の意味が違う。人が寄ってこなくなる。最初と最後にある、同じようなオペラのシーン。見てるときの周りの貴族の反応で孤立を表現。

大人になりきれない子供。でも大人な面もあるわけで。子供関連のすごいプレッシャー。自分のせいじゃないのに。あの追い詰められてく描写がさりげなくて上手だった。一連の、ルイとのベッドでのやりとりはかわいくて笑った。

安らぎ

そんな中でやっと見つけた心の安らぎ。トリアノン。軽装で自然に戻るとこ、好きだ。

娘との一コマ。子役、フランス語を話す。「子供の手配がつかなかったんかぁ!」と、瞬間ちょっとブルー。でも結構シーンが続いて、見てる内に他の可能性を想像。

アントワネットが自分に戻れる場所と時間。史実の彼女も、子供達だけとか、くつろいでるときはドイツ語で話してたと思う。子供はフランス語で話しかけてね。一つの会話に複数言語が飛び交うのは実際あること。

もしかしたら監督さんは、フランス語を話す女の子にそういうことを意図したのかもしれん。あのシーンだけでもアントワネットがドイツ語を喋ってたら…!

確かに突然だと変だけど、あそこは独り言のような囁き。そしたら他の事から開放されて、自分に戻って、子供の頃の言語喋って…ってはっきり分かる演出になったのに。実際はどんな意図があったんだろう。

キャスト

デュバリーとの、口をきくきかないバトルの演出。「仕方がないから話してあげるわ」って余裕たっぷりのとこがイメージ覆して、しかも良かった。好き。

出自が違うし、ハナから眼中にない感じ。私と張り合おうなんて所詮無駄なのよ、みたいな構え。負け惜しみでは全然なく、「これであなたの気がすむなら声をかけてあげるわ、どう満足かしら?」な様子。

それで勝ったように微笑むデュバリー夫人。挨拶したあと、去ってくときの余裕が素敵。生まれながらの王妃ですよ。

そういやお母さんマリア・テレジア、本当に貫禄あった。声でお願いしたキャスティングと聞いていたけど、すごかったよ。

かわいいなぁ、クリステン・ダンスト…。出だしの寝顔すんごい!14歳に見える。見事。あれは子供だ。そしてその直後の廊下を走ってくときの走り方。手を振らないの。あれでまず心掴まれたよ。うっとりぽややーん。

見てると顔がふやけてしまう。大人になっても手を振らない走り方。子供っぽい。大人になりきれないって感じ。

「原作」付き

こういう歴史物って、シナリオが100%オリジナルでも原作があるようなもの。つまり史実。写真や8ミリのない時代だから、演じる方は現代の人物を演じるよりは、まだ自由にやれるけどね。

自分のイメージと比べて。ポリニャック夫人が遊び人な味を出してる。活発で生き生き。デュバリー夫人が悪女で品なし。ちょっと誇張しすぎな気も。追い出されるときのカット、ケープまでベルばら。笑った。あの警護にオスカルいるんだよと妄想。

アメリカでのフェルゼン、ありゃ馬上のナポレオンではないのか!苦笑。監督さんもフェルゼンの実在人物肖像は見ないことにしたんだろう。あとルイ15世、死ぬ直前の顔や演出がベルばら。ツボ。

あ、連呼してても 「演出がそれに影響されているのでは?」 などという気はサラサラない。個人的楽しみ方。バルコニーに出て民衆にお辞儀するときとか、うおお~!ベルばらを聖典とするボタしゅけ。前半は思いっきりニタニタできるよ。

ルイ16世

賞をあげたいぐらい好演してたのがルイ16世。最初プレス会見で、写真じゃない俳優さん見て、これ完全なミスキャストでは…と。待てこの人フェルゼンでなくルイ16世?!ええええええ!フェルゼンじゃなくって?!んえええ、ちょいと美化しすぎと違いますかソフィアさん。危険信号点灯。

足を運んでみればびっくり。もさっとした、内気な国王がいる。仕草で高貴な血の人の演技をするよう勉強&気をつけたそうだが、振る舞いがすごく自然。

何よりも良かったのが、不器用な愛情表現。シャイで好きだとはっきり言わない。でもアントワネットを見てふと笑うとことか、顔が全然違う!しかもすんごい嬉しそうなんだ。まいったまいった。

出産のとき意識失くして空気を!ってとき、好奇心旺盛に覗き込む貴族をかき分け、窓辺に駆け寄る国王。一番やらなくていい人なのに。

宮殿に民衆が押し寄せたとき、大したことできないだろうに、それでも家族を守るようにしっかり立つ国王ルイ。あの姿カッコいいわぁ。今まで見たルイ16世の中では、ボタしゅけ的イメージ完璧再現。それ以上の、想像部分を補うぐらいの人物を見せてくれた。

余談

この作品、カンヌでは批判があったという。が、ダビンチコードに比べれば!あれは日本じゃ配給会社が頑張ったのかと思ってしまうほど流れてなかったが、すごかったらしい。

まずプレス試写でブーイングの嵐、一般ではさすがに拍手はあったが、それでもパチ…パチ…というやる気のないもので、ありえない反応をもらったそうだ。オドレイ・トトゥが舞台で号泣するぐらいのもの。

その話題で持ちきりだった。鳴り物入りで登場した割りに、その日を境にメディアが触れなくなるほどだったよ。

総評

んでこちら。前半はすごくいい。ものすごく充実した時を過ごせた。途中からエライ駆け足。時間配分間違えちゃったみたいな速さ。そこで終わるんかい?!って感じよ。といっても上映時間を考えると、あそこで切るしかない。

当初、18歳の一年を描くと聞いていたが違う。「最後どうなるか皆知ってるんだから、どうせならギロチンまでやればよかったのに…」という声も聞いた。確かに見たい。

でもイベントはまだいろいろあるから、やったら駆け足どころか全力疾走ですっ飛ばしてもダラケると思うよ。フランス人は自国の歴史だからそれでもついていけると思うけど、脱落者も出てくるんじゃないかな。

さりげなく史実といわれているものをワンショットで織り込む。船を頭に載せてるのの再現、婚姻署名のインク、お菓子食べれば?などなど。知らないと、「何じゃこのシーンこの台詞」になってしまいそうな、無理やり押し込めた風なところもあった。

家族の肖像画のところ。絵を置き換えることで死を意味するのはすごくうまい。でも折角の演出なのに、最初何やってるのか全然分からなかったよ。しかもあれは次男が死んだように見える。

あとおまけ。史実と離れて、知ってたら楽しめること。ストロークスが登場してる。

子供を失ったときの生気ない青白い顔。あれメイクすごいね。他にも、出産のときの上気した肌の色とか素晴らしかったよ。

EDは逆に歌なし。新鮮だった。作品中の BGM が歌多用だったせいもある。曲調もこの先アントワネットを待ってる運命、暗い感じを表してて、今までと対照的で良かった。

ボタしゅけ、映画は原版を字幕で見るのが好き。でもこれはフランス語吹き替えも見たいな。ある意味オリジナル版。

そして実写ベルばらより、ベルばらでございました。

(2006年7月の感想)


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ボタしゅけ
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