西迫大祐『感染症と法の社会史—病がつくる社会』読み始めました
昨年のいつだったか誰かがおすすめしていたこの本をようやく読み始めたのである。
社会がどのように感染症を扱ってきたか、フーコー研究者でもある著者が古代ギリシャから中世ヨーロッパ、近代フランスを中心にたどっていくという内容のようだ。
とりあえず序文から読み始めたところ衝撃を受けてしまった。
感染症が社会的に問題になり、予防の必要性が叫ばれるとき、参照されるのは「これこれが感染症の原因であり、予防策はこうである」と教えてくれる医学だけではない。それは噂や恐怖などの人間的ようそまでも取り込む複雑な現象である。本書は感染症を、医学的知識から人間の感情までをも含むひとつの「世界観」として扱う。
そうだ、感染症って世界観だったんだ。昨年からのSARS-COV2に関連した集団ヒステリーを上手く言い当てる言葉がみつからなかったが、感染症が世界観であるならいろいろと納得できる。ある人は過剰に恐れ、感染者を差別することもあろうし、ある人はそんなウイルスは存在しないというだろう。
どうしてこんなシンプルで、しかし力強く的確な表現ができるのか。著者に猛烈に嫉妬しているし、自分の言葉の非力さに打ちひしがれもする。
感染症が世界観であることがわかりやすいのは、微生物の存在など知られていなかった時代のエピソードであろう。著者は古代ギリシャの瘴気というところから、この世界観を再現していくのであった。
病原性微生物など存在しない世界では、疫病は世界観そのものとなる。当時強い影響力をもっていたであろう宗教もあいまって、今や想像も困難な世界観が形成されていたと思われるが著者は根気よくそれを解説していくのである。非常にドキドキワクワクさせられる。
こういった世界観はやがて微生物学や公衆衛生学が確立されるとともにいかに変遷していくのか?なにが引き継がれて、なにが忘れ去られるのか?著者がフランスを選んだ理由はここにあるだろう。産業革命とパリへの人口流入がもたらした疫病、万国博覧会を契機とする都市衛生の改善は格好の研究材料だったであろう。
本書は2018年に刊行され、2020年に日本医史学会矢数医史学賞も受賞している。昨年の段階でもすでに話題になっていたのにどうしてもっと早く読まなかったのか。後悔はつきない。
後悔しててもしかたないのでちまちまと読み進めている次第である。気になっている人は早く読もう。
著者が新型コロナウイルスに言及している記事を見つけたので貼っておく。お時間のある方は参照されたい。
なお、感染症は世界観という発想は下記の本におおくをおっているとのことである。とりあえずAmazonのカートに投入した。いつか読まなくては。