ロバート・スキデルスキ『なにがケインズを復活させたのか?』読んだ
積読解消シリーズ
約11年積んでいた。タイトルからわかるように、リーマンショック後わりとすぐに出た模様。1970年代のインフレ以降、表舞台から姿を消した古いタイプのケインズ主義が再び引っ張り出されてきたタイミングである。
著者は経済学者、歴史家で、ケインズ研究で有名であり、ウォリック大学に長く勤めていた。ウォリック大学といえば、スーザン・ストレンジ、ニック・ランド、マーク・フィッシャーなどのおかげで日本でも有名ですね。
スキデルスキはケインズ研究の第一人者であるから本書も素晴らしい内容だった。
ケインズの生涯や経済学をこれほど簡潔かつ的確に説明したものはない。さらにケインズの主張が、リベラル派からは福祉にとって都合が良く、保守派にとっては軍事支出や減税のために都合が良かったという、身も蓋もない事実をためらわずに指摘しているのも素晴らしい。
こういうご都合主義はポストケインズ派からは厳しく批判されるのだが、著者はポストケインズ派は孤立していたとだけしか書いていない。残当。。。
ポストケインズ派はともかくとして、ご都合主義的財政出動は1970年代のスタグフレーションを招き、以後は新古典派がマクロ経済学の主流になったわけである。このあたりの歴史についても本書はしっかりと解説している。
しかし私は本書の一番いいところは経済学以外のところである。著者によれば、ケインズは経済学者として振る舞っていたが、深いところではそうではなかった。
第6章で彼の倫理観に触れているけど、G.E.ムーアとかエドマンド・バークに思想的に近かったようだ。ムーアは善を重んじる倫理学者であり、ベンサム流の快楽計算の正反対だ。まあ善と快の区別はときに難しいが、、、とにかく世の中には計算できないものがたくさんある、というのがケインズの考えであった。
だから数学が得意だったのに本質的には経済学者ではなかったといえる。
ケインズの思想の核心の1つは貨幣愛であろう。それを批判的に描くこともあったが、その病気のおかげで豊かになれるなら手段としては悪くないと思っていたようだ。
かの有名な『孫の世代の経済的可能性』において、孫の代には週15時間労働ですむくらい生産性が向上し、豊かになるだろうといっている。豊かになれば金銭愛は治療して治せばいいし、余暇を増やして善のために生活できるだろうと考えたのだ。
まあ実際には相変わらず我々はあくせく働いているが、この原因の1つを著者は、金銭は抽象的でつねに想像力を刺激するため不満感が消えることがないからだとしている。
若いころのケインズは自分自身やブルームズベリー・グループについて不道徳だと語っていたようだ。常識的な道徳や慣習を拒否しようとしていた。だが後年そのことを後悔して、悲惨な間違いだったと認めた。若気の至り、かわいい。
保守でもあり自由主義者でもあったケインズは、組織人としてではなく個人としてベルサイユ条約をこき下ろした。『平和の経済的帰結』で述べられた悲惨な予想は、かなり的中した。このような洞察力こそがケインズという人物の本質ではなかろうか。
あとは「金利生活者の安楽死」かな。
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