古本屋の店主が古本を買って読む①【ジョコビッチは何故サーブに時間をかけるのか】
当店には沢山の本が揃っています。100円で買える本の中にでさえも良い本がたくさんあります。店主としてはそれらを手にとり、普段からパラパラと読んでいます。しかし今日、「ふ」と「古本屋といえども本は買って読むべきでは?」と思いました。そこで他店で購入した本を読み、その本のレビューを書いてみたいと思います。それも、かなり特殊な本について・・・
今日読んだのはテニスプレーヤーであれば大抵のかたが知っている鈴木貴男さんが書かれた本「ジョコビッチはなぜサーブに時間をかけるのか」です。この本は古本屋で食えない店主がテニス指導のバイト帰りに見つけた1冊。貴男さんが書いた本であれば一読の価値があるに違いない。胸を躍らせて本を買いました。
このブログを書くためにAmazonのレビューと価格の相場を調べてみると、レビューはある意味予想通りでした。ほとんどの評価が☆5か☆4の高い評価でしたが、「タイトルに惹かれて買ったが、内容とまったく違うので驚ろいた。ジョコビッチのサーブのことは、たった1行だけだった。」という指摘もあり、まあ・・・それは仕方ないかな・・・いくら貴男さんといえどもジョコビッチの話だけで1冊本が書けるわけがないですよね。まぁタイトルは釣りであったとしても、それは仕方ないことかと。
読み始めてさっそく「なるほど」と思わせてくれました。P18で貴男さんは錦織圭選手の試合を解説をする時に「どうすれば錦織を倒せるか?」という視点で試合を見ていると書いています。これは当たり前といったら当たり前ですが、大事なところ。自分が気になったときだけ考えるのと、意識的にいつも考えているのでは訳が違う。こういった地味な思考をコツコツと積み上げていたことは流石だと納得しました。確かに貴男さんの解説は適切です。少々上から目線なので女性ウケはイマイチですが、いつも的を得ています。普段から貴男さんが勝負を意識しているからこその視点だったのですね。
その後、第一章では錦織圭選手をはじめフェデラー、ナダル、ジョコビッチと有名選手の紹介が続きます。しかもどの選手の紹介も適切です。普段からテニスを見ているテニスファンであれば「知ってるよ!」という情報ばかりなので、思い切って読み飛ばしてもいいでしょう。しかし店主としては、貴男さんの解説に感心しました。難しい技を繰り返し披露する職人芸のような文章が続きます。これが簡単なようで難しい。テニスの解説といえば、WOWOWやGAORAなどで、松岡修造さんが個性の強すぎる解説をしてしまいファンがドン引いてしまったり、村上武さんが片方の選手を絶賛し視聴者の不評をかったり・・・という放送事故が起きています。そんなご時世の中、まだ解説者としては若いにもかかわらず、鈴木貴男さんの言葉は安定しています。これがゴーストライターが書いた文章出ないことを祈ります。
その後、第2章からは選手が戦っている環境についての解説です。特に面白かったのはP77から始まる賞金についての記述です。現在、グランドスラムの本戦に入ると1回戦負けでも500万円の賞金がもらえるそうです。なので、4つのグランドスラムの全ての本戦に出場できれば賞金だけでも年収2000万円。それだけあれば安定した選手活動が続けられそうです。日本人選手がグランドスラムの本戦出場にこだわる理由は名誉だけではなかったんですね。そのグランドスラムの予選に挑戦し、チャンスを掴むために必要なのは世界100位以内のランキング。そして本戦に直接入るためには50位前後のランキング。世界中の選手がランキングにこだわる理由もわかりました。
P91からも面白いことが書いてありました。試合中のボールについてです。色々なボールがあり、その特徴によって選手に得手不得手があるというのは誰でも想像がつくところでしょう。しかし貴男さんはそれ以上の解説をしてくれます。プロの試合で同時に投入されるボールは6つで、選手はその中のどれがどこにあるのかを、だいたい把握しているというのです。確かに試合中にボールパーソンが投げたボールを手にとることもなく、ラケットで「これじゃない」とはじく選手がいますよね。あれは気分でやっているのではなく、6個のボールの状態を全て把握しているから・・・と考えると、改めてプロは凄いなと感心します。
その後、第3章からはテニスの駆け引き話です。おそらくテニス初心者やテレビ観戦を始めたばかりの人が読むと面白い内容かと思いますが、一応テニス経験者の店主としては「そうですよね」という感じ。また、終章のデビスカップについては貴男さんの気持ちが入った文章となっています。ただ、この章も同じくテレビ観戦しているテニスファンにとっては周知の事実かもしれません。
全体を振り返ると、とてもいい本だと思うモノの、もっと尖った内容、マニアックな技術についても書いて欲しい!という気持ちが高まりました。ベストセラーよりもロングセラー。そんな本を貴男さんなら書けそうな気がするのですが・・・どうでしょう?
というわけで、6月の蒸し暑い古本屋で店主は1冊の本を読み、ブログを書きました。情報が整理されていて、非常に気持ちよく読める本でしたが、残念ながらAmazonで古本が1円で売ってます(送料は350円)。そしてあまり売れていないことを考えると、この業界の難しさを改めて感じざるを得ませんでした。
BOOKOFFで買った本だったので購入するときに100円の割引券を利用しました。それは良かった。でも、BOOKOFFで購入した本ってイマイチ記憶に残らないんですよね・・・次はどこかの古本屋に行ってみたいと思います。他店の古本屋さんは、ぜひ当店にもいらして下さい。