女性の嫌な部分をえがいた「fishy」という生臭い小説。
早朝より古本屋で読書をしていました。昨晩から読み始めた「fishy」という作品にハマってしまいったのです。眠い目を擦り昼間の仕事をなんとかこなし、夕方過ぎから一気に読み切りました。著者は 「蛇にピアス」で芥川賞を受賞された金原ひとみさん。読者の性質によって感じ方が変わる小説だと思われますが、店主にとっては非常に面白く感じる中毒性がある作品でした。
まずこの作品、表現方法に特徴があります。主役級の登場人物が3人おり、1つのシーンに対して必ず3人の目線で物語が語られます。例えば冒頭の飲み屋でのシーンでユリ・美玖・弓子がそれぞれ主人公となり、自分の視点でその飲み屋のシーンを語ります。そして次のシーンに移ると、そこでも3人が主人公として交互に入れ替わり、自分目線で物語を進めます。
店主としてはこの表現方法がいたく気に入りました。何故かというと、相手の気持ちがわかるからです。例えば現実の世界で3人で話をしているとします。この場合、自分目線で考えることはできますが、相手が本当に何を考えているかは知るところではありません。
しかし、この小説ではその3人がそれぞれ自分の視点で語るシーンがあるので、他人が他人に向けてどのように考えているのかがわかります。いわゆる正解を見ることができる。それが尚且つ女性であるわけですから、女性心理を察することができない独身男性にとっては勉強になる作品、未知の領域を描いた作品として新鮮に読めるのです。
ただ、肝心の小説の内容は、よくある浮気などの男女のトラブルです。ドロドロした展開です。ただ、彼女らの醜悪な関係が詳細に紹介されるのですがその様子を思ったほど不快にならずに読めました。
何故かとその理由を考えてみると、読者である店主が男性であり登場人物と共感しなかったこと、尚且つ自分が恋愛体質ではないということが関係したのだと思います。ゆえに、対岸の家事のように冷静に登場人物を傍観しながら読書できた。
もし女性の読者であれば、空気を読まず正論を振り回すユリ。メンヘラで自信がない美玖。保守的で真面目な弓子。登場人物それぞれに自分のキャラクターを投影して楽しんだり、逆に嫌な気分を味わっててしまうかもしれません。
そして、この小説には他の魅力もあります。それは彼女たち同士の容赦ない友人への辛辣なツッコミです。登場人物同士、弱った人に対して容赦なく厳しい言葉を投げかけます。これがまぁ、小説らしくてよかったです。やはりヒリヒリする展開で、本音がバチバチするような会話は目を奪われます。
と、読書前の予想と違い、思った以上に長文のレビューが書きたくなる作品でした。テーマがテーマだけに名作とは言えないのでしょうが、人間の影の部分まで深堀されていてかなり面白い作品だと店主は評価しています。この作品は女性向けの作品だと思いますが、店主としては女性の気持ちを察することができない気弱な男性にも是非お勧めしたいと思ったた小説でした。